ホームレス男の娘
軍の基地にある、騎士達が住んでいる寮の空き部屋にて。
「あ~~~どうしよう、やりすぎたかもしれない」
僕は、魅了の魔法を利用し、
女王を土下座させ、その頭を踏みつけ、電撃の杖を胸に付き当て、腕を引きちぎるぞと脅したのだが。
今更ながら、やった事の重大さに気付いてしまった。
「あんな奴、あのくらいやられて当然よ。私はスカッっとしたわ」
ミナトは、女王の事が元々嫌いだったのだろう。
僕が女王に仕返しした事を気に入っているらしい。
「でも確かにねぇ。
莉灰くんの魅了魔法の効果時間も分からないし、何か問題にならなければ良いけど」
「だよね・・・」
エルカは冷静であった。
その通りで、女王があんなに従順だったのは魅了魔法が働いていたからだ。
魅了の魔法が働くのは、基本的に"僕の姿を見た時"や、"僕の声を聴いた時"等である。
その効果が、どのくらい持続するのかはまだ調べていなかった。
それに。
「女王のあんなボロボロの姿、他の人たちが見たら絶対大惨事になるよ・・・」
あの場に居なかった者―――。
つまり僕の魅了魔法を受けていない者が、女王のボロボロな姿をみたら、どんな反応をするのか。
「とりあえず・・・。
あの場に居た者たちには「女王は躓いて転んで、額をぶつけ、電撃の杖を踏んで感電してしまった」
という話で通す様に命令しましたし、ひとまずは大丈夫だと思いますが」
そう。その作り話は、ヒノのアイデアである。
しかし「女王が躓いて転んで、額をぶつけ、電撃の杖を踏んで感電してしまった」なんて、
改めて考えるとめちゃくちゃマヌケな作り話である。
「それに私、女王の召使の中に、仲の良い子がいまして。
彼女に、女王の様子を見て連絡して欲しいと頼んでいます」
流石はヒノである。あんな事があっても、対応が冷静だ。
「ちなみに今、女王様は傷の手当をしているそうです」
「え、もう連絡来てるの?」
「はい。どうやら女王様は、未だに魅了の効果を受けているらしく、
ずっと莉灰さんの名前を呟いているそうです」
「そ、そうですか」
なにそれ、怖い。
女王は、頭を踏まれた上、感電し、片腕をちぎられそうになるショックで、精神に重大な病を患ってしまったのかもしれない。
「ところで莉灰さん。
話を聞いたところ、泊まるところが無いらしいですね?」
「あ、はい。実はですね」
そういえばまだ三人には、僕は別の世界から来たという事を話してなかった。
三人とも良い人だし、そろそろ話をしても良い頃だろう。
「信じられないかもしれないけど、僕、別の世界から来たんです」
「なるほど、別の世界からですか」
「すごいわね」
返事が軽い。
なんだろう、もしかして異世界転生って、この世界では普通の事なのだろうか?
「あの、まさか別の世界から誰か来るとかいうの、良くある事だったりします?」
「いえ、私は初めて聞きました」
「私も。そんなの聞いたこと無いわ」
聞いたこと無いらしい。
これは多分、アレだろう。
二人は魅了魔法のせいで、僕の言う事はどんな突拍子もない事でも、信用してしまうのだろう。
「別世界から来た・・・ねぇ」
そんな中、エルカが意味深に呟いた。
「私には、聞いたことがある話だな。何処か、遠い国の話だったが」
「え、そうなのですか?」
「そう。その国では、よく別世界から人間が現れるそうだ。
現れた人間は大抵、強い魔力を持っていて、英雄として国を守る兵士となっていたらしい」
「へぇ。それは気になる話だなぁ・・・」
興味が沸く話だ。
「まぁ、遥か彼方の遠くにある国の事だ。だから本当かどうかも分からないけどね。
でも、もしもその話が本当なら。
僕と同じ世界から来た人が、他にも居るかもしれないという事か。
とても気になる。
「つまり今、莉灰さんは帰る家も無い、ということですね?」
と問いかけるのは、ヒノである。
「あ、はい。そういうことになります」
「そうですか。それは丁度良かった。
それでは、この空き部屋を自由にお使いください。」
「え? でもこの部屋って、兵士の為の寮なんじゃ」
「はい、そうですよ。
台所にトイレ、簡単なお風呂場付きです。色気はありませんが、防音もバッチリ。
住み心地抜群だと思いますよ」
ヒノがいきなり口のうまいセールスマンみたいになってしまった。
「た、確かに住み心地良さそうだけど・・・」
だが、ここに住むって事は。
「でも、つまり、それって僕に兵士になれって事じゃ?」
ここは兵士の為の施設だ。そういう流れに違いない。
上手い話には、必ず裏が―――
「いいえ、まさか!!!
確かに、莉灰さんの魔法は強力です。軍に入れば、かなりの戦力となるでしょう。
ですが!!!
莉灰さんをまたあんな危険な目に遭わせる訳にはいきません。
なので、莉灰さんは兵士になる必要はありません」
「は、はい」
凄まじい勢いであった。
ヒノは、魅了の魔法がバッチリとキマっていらっしゃるらしい。
「ちょっと待って」
だがそこへ、僕とヒノの間に、ミナトが割り込んだ。
「ダメよ。そんな勝手なこと、許されないわ」
「もちろん、ちゃんと許可を取りますが。何か問題でもありますか?」
「そういう問題じゃないわ」
ミナトが厳しい顔でヒノを睨む。
・・・なんというか、意外だ。
こういう軍の内部の事は、ヒノの方がしっかりしてる風に見えるが、
まさかヒノじゃなく、ミナトの方が異議を申すとは。
なんというか、ミナトという少女はプライドが高いが、
逆に言えばそれは、軍であり騎士である事に、誇りを持っているという事だ。
だからこそ実は、ミナトの方がしっかり者なのかもしれない―――。
「だって、ヒノ!!! この部屋、アンタの隣の部屋じゃない!!!」
・・・あれ?
「そうやって、莉灰くんと距離を縮めようとしてるんでしょ?
冷静気取ってても、アンタの考えは私にはバレバレなんだからね!?」
僕の勘違いだった。
騎士の誇りもクソも無かった。
「知り合いである私が近くにいる方が、莉灰さんも何かと安心でしょう」
「だったら、私の部屋の隣でも良いじゃない!!!」
「そんなに必死になって、どうしました? ミナトさん?」
「必死になってないわよ! ただ、そんな理由なら私の隣でも良いって話よ!」
「それは無理ですよ。だってミナトさん、家事が全く出来ないじゃないですか」
「か、家事ぃ!? なんでそこで家事が出てくるのよ!?
ま、まさか、ヒノ、アンタ、莉灰くんとそんな事を考えて・・・!?
とんでもないビッチね!!!」
「見てください、莉灰さん。
彼女は、家事と聞いただけで、何か良からぬ事を妄想しています。
こんな下心もんもんとさせている方が隣にいては、危険だと思いませんか?」
「は、はぁ・・・」
まさか、僕の住む場所を決めるだけで、他人の二人がここまで白熱してしまうとは。
「なぁ、二人とも」
そこへ、呆れた様子で傍観していたエルカが、話を割って入る。
「別にこの寮に拘る必要はないだろう。 莉灰くんは、私の館に―――」
「ダメよ」「ダメです」
即答である。
しかも息ピッタリで、二人の声が綺麗に重なる。
「あのさぁ、二人とも!? こういう時だけ、息を合わせないで!?」




