役に立たない兵士を、一人選んで 01
「うッ・・・はぁッ・・・はぁッ・・・!」
電撃から解放されたミナトが、床に転がったまま、苦しそうに呼吸する。
「それじゃあさー、ヒノに聞きたいんだけどさー」
女王は電撃を纏う杖を片手に、ヒノの前に立つ。
「今回参加した中で、一番役に立たない兵士を一人選んで貰える?
今回の失敗の罰は、そいつに受けてもらう事にするから」
「・・・それは」
―――役に立たない兵士を、一人選べ。
女王のそんな質問に、ヒノは言葉を詰まらせた。
「ほらほら、みんなを見て? 誰にすればいい? 兵士の事は、私よりもヒノの方が詳しいよね?」
「・・・」
仕置き部屋には、ヒノ達の他にも数十人もの兵士達が集められている。
恐らく、今回の任務に参加した兵士達の生き残りだろう。
両手は手錠の様な物で拘束され、身体は杖の電撃でボロボロになっている。
「決めれない? じゃあ、私が決めようかなー」
女王は、横に居る使いに合図を出すと、何かの書類を受け取った。
そして、何やら悩んだ様子で、その書類を読んでいる。
「・・・罰を受けるのは、私です」
ヒノが呟く。
「相手の罠だと気付けなかったのは、私の責任です。だから罰を受けるのは私です」
「あー、そういうのいらないから。
ミスをしたのが誰かじゃなくて、役立たずを選んでって言ってるんだけどさ。
しかし、女王はそれでは納得しないらしい。
「あ、丁度いい奴がいたよ。妻子無しの、家族無しの兵士がいるじゃん。
こいつにしようよ、こいつならどうなっても誰も悲しまないよ」
書類には、兵士達の個人情報が載っているのだろうか。
女王は書類を指差して、横の使いの者に指示を出す。
「・・・待ってください。兵士達の中に、役立たずの者などいません。
失敗したのは、私自身の判断ミスで」
「ほらほら、私も女王とか言ってただ座ってるだけじゃない、ってこと分かる?
国民が少しでも不幸にならない様、悲しむ人がいないようにと、家庭のない人を選んだんだけど」
もうヒノの言う事は、女王の耳には入っていないらしい。
「上に立つ者として、ちゃんと考えてるって事よ?
私、すっごい優しい・・・というか、賢いと思わない?」
やがて、使いの者が一人の男性兵士を連れてきた。
「おい、待て、待ってくれ・・・! 女王様!? 俺をどうする気ですか・・・!?
女王の前に連れ出された男性兵士は、当然ながら酷く取り乱している。
対して、女王は無邪気な子供の様に笑いながら。
「いつも言ってるよね?
軍が何かやらかした時は、役立たずの兵士を選んで、見せしめとして罰を与えるって。
今日は、貴方がその見せしめよ?」
「そ、そうです、女王様・・・!
役立たずな奴から、罰を受ける。俺達はいつもそう言われてきた!
そして何かある事に、見せしめとして、訓練を怠った者、戦果の挙げられなかった者が、犠牲になるのを見てきた!!!
だから俺はそうならない為に、毎日、一日も休み無く任務に出ていたんです!!!
俺の記録を確認してください! 俺の言っている事が間違いでないと分かるはずです!!!」
「んー? そうなの? でも貴方、ヒノより弱いでしょ?」
兵士が必死に訴えるが、しかし女王は「よっこいせー」と高貴な椅子に腰かけ、真面目に聞く様子は無かった。
「そ、それは、当たり前です・・・! 俺が、騎士であるヒノさんに勝てる訳がありません!」
「そうでしょ? じゃあ別に問題なしね。
今回はね、私も国民の事を考える様にしたの。だから、罰を受けても他に悲しむ人がいない・・・
家族が居ない、貴方に決定したの!」
「なっ、そんな理由・・・聞いてません・・・!」
「そんな理由? 貴方、酷い人ね。
家庭がある人に罰を与えるなんて、それはとても酷い事だと思わない?
残された妻はどうなるの? 残された子供はどうなるの? 可哀想だと思わない?」
「ま・・・待ってくれ、だったら俺だって!
こんな休み無く毎日任務漬けなんてせずに!!!
結婚する相手を探したりしたのに!!! 何故―――」
残された妻? 残された子?
「あの、エルカさん?
罰を与えるって、あの女王は一体何をするつもりなの・・・?
止めた方が良いんじゃ・・・」
「莉灰くん、相手は女王だ。私に王族を止める権力なんてないよ」
・・・その通りだ。
これだけ好き勝手する女王がいる国だ。
王族のする事に異議を申したら、どうなる事だろうか。
「それじゃあ、早速始めよっか。ねぇ、リンドウちゃんを呼んできて」
女王が、使いの者に指示を出す。
すると、仕置き部屋の奥から、使いの者に連れられて、一人の少女が現れた。
目元まで隠れた、銀色の長い髪。
ミナトやヒノと同じ、騎士の様に立派な服を着ているが、二人とは全く異なる、異様な雰囲気を漂わせていた。
それは騎士の様な威圧感ではなく、まるで怨念が籠った幽霊の様な、そんな異質な少女。
「あぁ、久々に外出したら、珍しい子が見れたものだ」
あの少女の事を知っている風に、エルカが呟く。
とは言うものの、エルカの表情は渋く、とても喜んでいる様には見えなかった。
「あの子が・・・リズタルト国、最強の騎士。リンドウだ」




