実験の犠牲になってもらいます 01
エルカ・エルシャルサードは、試験管に入った僕の血をスポイトで吸い取ると、
一枚の布紙に、血を一滴だけ垂らした。
「なるほどねぇ」
何か解ったのだろうか、エルカ・エルシャルサードは納得したように呟く。
僕には、それがただの血のシミが付いた布紙にしか見えないが、
研究者であるエルカ・エルシャルサードの目には、何か別の物が見えているのだろう。
「予想通り、キミは"魅了"の魔法を持っているらしい。それも、かなり強力なね」
そう言いながら、エルカ・エルシャルサードは虫メガネの様なレンズで、血の付いた布を観察する。
「相手の姿を見ただけで好きになってしまう、というのが最も一般的な魅了魔法だ。
けど、それに"命令を言い聞かせる"力はない。
あくまでも、相手を好きになっているせいで、気持ちが寛容になるだけで、相手の考えや言動までを操作は出来ない」
「でも僕は、確かに命令を言い聞かせる事が出来ました・・・」
「そう。だから私は、魅了以外の魔法・・・洗脳魔法か、相手を操作できる魔法も混ざっているのかと思ったんだけど、それは違った」
「・・・それは、つまり?」
「キミが持っているのは、純粋な魅了の魔法だけだった。けれど、その力が余りにも強過ぎる。
"恋"を知らない魔物ですら、キミに恋をしてしまう程にね」
「なるほど・・・」
そうか。
あのデカイ軟体動物の魔物は、僕に恋していたのか。
いや、それはヤバすぎるでしょ。
これが現代世界のオタクにバレたら、きっと同人誌にされる。
「それに・・・さっき、洗脳魔法ではないと言ったけど、それは間違いだったかもしれない。
キミの魅了魔法は、洗脳魔法のレベルを軽く超えてるよ」
「そんなにヤバいくらい強力なんですか・・・?」
「もう頭を開いて、直接脳みそに"お前は僕の事が大好きだ"って書き込んでる様なもんだよ。だからもう洗脳と変わらないレベルってこと」
なんだその例え、怖すぎる。
「あー、莉灰くんさ。ちょっとお願いがあるんだけど」
エルカ・エルシャルサードは虫メガネを置くと、再び僕と向かい合った。
「はい、なんですか?」
「ちょっとさ、あの二人で魅了魔法を試してみてくれない?」
そう、ミナトとヒノの二人を指す。
「はい、わかりました」
「は、はぁ!? 何、私で実験しようとしてるのよ!? ふざけんじゃないわよ、私はお断りよ!」
「あ、ミナトさん。そこから動かないで。手は身体の横にしてください」
「いーやー!!! なんで私なのよー!!!」
口ではそう言うものの、ミナトはその場で動きを止めた。
さっき、びっくりした僕を笑った仕返しである。
すまんな。僕は根に持つ方なんだ。




