授かったチートは可愛いだけじゃないらしい 05
「それで。お願いって両手を上げて欲しいだけなの? 意味が判らないんだけど」
両手を下ろしたミナトは、自分の肩をさすりながらそう問いかけてきた。
「あ、腕を上げて欲しいというのは、ちょっとした小手調べでして」
「小手調べ?」
「はい、小手調べです。本番はこれからです」
とりあえず、簡単な命令は聞いてくれる事は分かった。
ので、次の段階へいこうと思う。
「それじゃあ、ヒノさんに次のお願いなんですけど」
「はい。なんでしょうか?」
「何か、ミナトさんの恥ずかしい秘密をひとつ教えてくれませんか?」
「良いですよ」
即答である。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと! 何が「良いですよ」なのよ! 良くないわよ!」
慌てふためくミナトの事など気にもかけず、ヒノはひとつ咳払いをして、話を始めた。
「ミナトさんはこう見えて、外面は良いのでよく男性からお付き合いの誘いを受けるのですが、その告白をことごとく断っているのです。そのせいで、ミナトさんは男性とお付き合いした事はおろか、男性と二人で食事をした事すらありません」
「な、何よ!!! それは、あの国にはしょうもない男しかいないのが悪いのよ! というか、なんでそこまで私の事知ってるのよ!」
「ミナトさん、ヒノさんの話の邪魔なので、黙っていてくれませんか?」
「・・・はい」
キンキンと声を張っていたミナトだが、僕がそう言うと直ぐに大人しくなってしまった。
「今、ミナトさん自身が言っていた様に、彼女はとても理想が高いので、最早、彼女の望みを満足に叶えられる男性は、この世に存在しないのです。まぁ、これは私の主観ですが」
「・・・」
ミナトは何か言いたげな顔でヒノを睨んだが、口に出すことは無かった。
「しかし、ミナトさんは丁度思春期です。恋したいという気持ちを抑える事は出来ません。ので、彼女はとある方法を思いついたのです」
「っ! ちょ、それは・・・!」
ミナトは顔を真っ赤にして、驚いた表情でヒノを見た。
恐らく、ヒノが何の秘密をバラそうとしているのか気付いたのだろう。
「彼女は一冊のスケッチブックに、自分の理想を詰め込んだ、素敵な男性のイラストを描く様になったのです」
「ちょっと待って、い、いや・・・やめて・・・その話は・・・」
段々と、ミナトの目に涙が溢れてくる。
あぁ、何という事だろう。
さっきまで命懸けで戦っていた少女にこんな事をしてしまうとは、僕はなんて酷い奴なのだろうか。
・・・でも続きが気になるので、止める気は起きなかった。
本当に申し訳ない。
「そうして毎晩、ミナトさんは自分の妄想の中にいる理想の彼のイラストを描いているうちに、その妄想の彼に恋をしてしまったのです」
「うっ・・・うぐっ・・・もう、殺して・・・」
ミナトさん、もしも僕が元いた世界に生まれていたら、さぞかし有名な絵師さんになっていただろうに。
なんと悲しい運命だろうか。
あ、でもミナトさんって、今も有名な騎士なんだっけ。
そう思うと、やっぱりこの恥ずかしい話を最後まで聞き届けてあげようと思った。
・・・なんだか、僕の心の暗い部分が顔を覗かせた気がする。
「・・・ヒノさん、早く続きをお願いします!!!」
「はい。わかりました」
そして、素直に言う事を聞くヒノさん。
「そして、スケッチブックが彼でいっぱいになった頃でしょうか。彼女は、ついに用紙の中の彼とファーストキスをしたのです」
「・・・」
最早、ミナトさんは声すら出せず、その場で亡骸となっていた。
「そしてそしてその数日後、ミナトさんは処女ではなくなりました」
ヒノさん、ミナトさんはもう瀕死状態です。
死体蹴りは止めましょう。
「まぁ厳密には、ミナトさんはまだ処女でして、あくまでも自慰・・・」
ヒノが更にもう一発、言葉の爆弾を投下しようとした瞬間。
バキバキバキ!!! と、外で轟音が響き、続いて車が大きな事故を起こしたかのような、破壊音が響いた。
その衝撃は凄まじく、僕らの乗っている車体までもが揺れるのを感じた。
まさか、ヒノの言葉が本当に爆弾に・・・なんて事はないだろう。
「・・・どうやら、雑談の時間は終わりのようですね」
ヒノが前方の窓から外の様子を視る。
僕も一緒になって、窓から外の様子を見ると。
僕たちの前方を走っていた魔動車の一台が、轟音と共に、宙を舞う光景が見えた。




