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達成された地獄4

作者: セロオロ

達成された地獄です。

紫色の毛に覆われたドラゴンの上に冒険者たちが立っている。三人の冒険者たちは別の方向をそれぞれ見ていて顔をお互いに合わせる様子もない。ドラゴンが空を飛んでいるのに冒険者たちの衣服や紫色の毛は風の影響を受けることなく止まっている。紫色の空には冒険者たちの他にも紫色のドラゴンが無数に飛んでいた。

 太陽は紫色の影に覆われて、薄白い輪郭が太陽の光となって地上を照らしている。紫色の太陽によって世界のすべてが紫色に染められていた。完璧に染められていた。

 冒険者の一人の僧侶が冒険者の一人の戦士に尋ねる。

「素晴らしいの紫色の世界だと思う。どう思う? 」

 戦士は悟ったような顔で答える。

「あまりにも完璧な世界だ。私たちは成立しているんだ」

 ドラゴンの羽根が間隔を変えずに空を切る音を鳴らす。ドラゴンの翼の上下は遅くも早くもない。それは紫色の空を飛んでいる無数のドラゴンも同じだった。無数のドラゴンは同じ方向に向かっているわけではない。無数のドラゴンはそれぞれに違う方向に向かって飛んで行っていた。

 冒険者の一人の冒険者は黙ったまま紫色の空を見上げている。冒険者はヘルメットを被っているため顔を見ることはできない。冒険者の顔を覆うヘルメットには紫色の空にいる無数のドラゴンが反射していた。冒険者は紫色の空を飛んでいる無数のドラゴンを見つめているようだった。

 僧侶が戦士に話しかける。

「ドラゴンって何も食べないでも生きていけるんだよね」

 戦士は頷いた。

「ドラゴンのエネルギーは常に満ちている。彼らが何かを食べる必要はない」

  言葉は世界に飲み込まれる。ドラゴンが進んでいても冒険者の衣服や紫色の毛を揺らさないから、ドラゴンの翼の上下だけが世界を規則的に動かしているみたいだった。

 戦士は蕩けるような表情で呟く。

「永遠の冒険だ。これこそが私たちの求めていた世界だ。私たちはついに到達したんだ」

 僧侶は戦士の言葉に同意する。

「私たちは求めることを永遠に達成している。そこに終わりはなく、始まりもない。時間が同じように、間隔が同じように、呼吸が同じように流れていく」

 冒険者が戦士と僧侶の会話を聞いていたのか分からない。冒険者は黙ったまま紫色の空を見つめているだけだった。

 紫色の空にいる一匹のドラゴンが他のドラゴンに体当たりをする。二匹のドラゴンは空中で密着して絡み合いながら、紫色の空を漂っていた。

他の冒険者たちお互いに両手の手のひらを二匹のドラゴンの上で合わせている。他の冒険者が体当たりされたドラゴンに乗っていたのか、体当たりしたドラゴンに乗っていたのか分からない。数人の冒険者がお互いに両手の手のひらを合わせていることしかはっきりしなかった。

 二匹のドラゴンの身体は粘土のように溶けあっていき、二匹のドラゴンの境界線がなくなっていく。他の冒険者たちもお互いの手の境界がなくなっていき、冒険者の足はドラゴンと繋がる。

二匹のドラゴンと数人の冒険者たちは一つの完璧な紫色の球体へと変化した。完璧な球体は紫色の空にずっと存在したかのように空中を浮かんでいる。無数のドラゴンは完璧な球体の方を向くと、完璧な球体めがけて飛んでいった。急ぐ様子もなく、のんびりする様子でもない。ドラゴンたちは次々に完璧な球体に触れていき、身体の境界線を失いながら溶け合った。

 冒険者と僧侶と戦士も完璧な球体へと近づいていく。

 僧侶は静かに話す。

「私たちは常に達成され、同じことを繰り返す。私たちはこれまでもこれからも成立している」

 戦士が恍惚と呟く。

「心地よい。とても心地よい」

 冒険者は真っすぐと完璧な球体を見つめたまま、何も喋らない。ドラゴンの翼が一定の間隔で聞こえているのを聞いているだけなのかもしれない。

 冒険者たちが完璧な球体に触れる。冒険者と僧侶と戦士の身体は完璧な球体との境界線を失い、三人は完璧な球体に飲み込まれていった。戦士と僧侶は幸せそうな表情をしながら完璧な球体と溶け合っていく。冒険者の顔は冒険者がヘルメットを被っているために見ることができない。三人の冒険者は完璧な球体と一体化した。三人の冒険者は紫色の空に存在しない。

 全てのドラゴンが完璧な球体に飲み込まれると、紫色の空には完璧な球体が漂うだけになった。

完璧な球体だけになってしばらくすると、完璧な球体の表面全体に突起物が出てくる。突起物はちょっとずつ形作られていき、突起物の何なのか分かるまでは時間が掛かった。

突起物は冒険者たちの上半身。無数のドラゴンの上に乗っていた冒険者たちの上半身だった。冒険者たちの上半身のお腹は異様に膨れている。

どの冒険者の表情も幸せに溢れ満ち足りている。

冒険者の表情はヘルメットのせいで分からないが戦士と僧侶の顔はさっきよりもさらに達成したような顔をしていた。

 冒険者全員がそれぞれの調子で言葉を発して繰り返す。

「達成した。私は達成した」

 上半身や手をそれぞれで動かして、リズムを一定にゆったりと刻む。冒険者たちは一つの意志を完全に統一して、完璧な球体に同化しているみたいだった。

 僧侶が強く叫ぶ。

「私たちは成立している! 私たちは達成している! 」

 戦士も同じように強く叫ぶ。

「私たちは完遂した! 私たちは満ち足りている! 」

 冒険者の顔はヘルメットを被っているから見えない。声も出さない。

 冒険者はお腹が異様に膨れているのを気にするように自分のお腹を摩る。冒険者の両手は赤子がお腹にいるかのような優しい手つきだった。

 冒険者は呟く。

「俺は・・・怖い・・・ 」

 冒険者の呟きと共に冒険者の身体は完璧な球体から押し出されるように這い出てくる。冒険者の全身が完璧な球体から出てくると冒険者は地上へと落ちていった。

冒険者のヘルメットが地面に激突して冒険者の顔が割れたヘルメットの隙間から見える。

冒険者は恐怖に慄いた表情をしていた。

冒険者はずっと不安だった。冒険者はずっと怖かった。冒険者のヘルメットの下は。


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