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ショットガン・ライフ  作者: Arpad
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第六章 ごめんなさ~い!!

 ディーゴンをどうにか退けたステファン達だったが、脱出手段を奪われた上、ブダニシュの追っ手が間近まで迫って来ている。

「・・・どうするの?」

 クィラが再度尋ねると、ステファンは皮肉る様に鼻を鳴らした。

「どうって・・・読めてるのだろう?」

「・・・脱出手段の喪失、忠誠のヘシオン運搬不可能、見捨てての撤退はありえない」

 ステファンは弾薬の補給をしながら、ニヤリと口角を上げた。

「その通りだ、俺は退かない。クィラ、あんたは逃げてもらっても構わないぞ?」

 クィラは長山刀を傍らの地面に突き刺し、短弓を手にした。

「・・・それは、ズルい言い方。私は、君に付いて行くと決めた。なら、最期まで付き合う」

「縁起でも無い事を言うんじゃあ無いよ。俺は死ぬつもりは無いし、あんたやそこで寝てるヘシオンも死なせるつもりも無い。有るのは、愉しみたいという遊興心だけだ」

「・・・生臭坊主」

「うるさいよ、野性児。判っていても、虚勢くらい張らせなさい」

「・・・嘘、つかない、約束は?」

「あぁ・・・分かったよ。こんなの生き残れるわけ無いじゃん。そこのヘシオン置いて逃げても追い付かれるし、運良く生き延びたとしても、使命は失敗だし・・・だから、追っ手を殲滅して、美味しいところを総取りしてやるのさ」

 ステファンは、ニッコリと下卑た笑みを浮かべた。

「・・・理由が情けなくなっただけ、最低な性根は、変わらない、ね?」

「うるさいよ、見透かしているくせに、全部言わせるな・・・ほら、お客様のご到着だ。丁重にもてなしてやろうぜ?」

 ステファンの言葉に被せる様に、木々の奥から陸のブダニシュが大斧を振りかぶり飛び出してきた。

「いらっしゃいませ、怪物様?」

 陸のブダニシュが着地するよりも速く、ステファンの放った単体弾がその顔面を抉った。崩れ落ちる陸のブダニシュの背から、沼のブダニシュが跳躍してきたが、ステファンはそれも正確に打ち落として魅せた。

「銃とやらにも、やっと使い慣れてきたかな?」

 ステファンが装填している間、次はクィラの番である。

 先程と同じ様に登場したブダニシュの眉間を、彼女は正確無比に射抜いて魅せた。

「・・・慣れるというのは、こういう事」

 どうやら、クィラはステファンを挑発しているらしい。

「上等だ、悟りのヘシオン」

 ステファンは散弾銃を構え、追っ手の到来を待った。そして、勢い良く登場してきたブダニシュのコンビを、一発の弾丸で撃ち抜いて魅せた。眉間を、二枚抜きである。

「おっと・・・つい本気になってしまったな」

 ステファンは、ほくそ笑みながら、消費した弾薬を補給した。その様子を見て、クィラは面白くなさそうに頬を膨らませている。クィラは長山刀を手に取ると、次の追っ手を待った。そして、出てきた所へおもむろに長山刀を投げつけ、頭部の二枚抜きを再現して魅せた。

 長山刀を回収しながら、クィラはステファンの顔を見据え、首を傾げた。

「・・・余裕。君は、神器が必要なの?」

 神器とは、創造主から賜った武具の事を指す。つまり、ステファンへの最高の挑発となるのだ。

「良いだろう、その喧嘩買ったぞ?」

 ステファンは散弾銃をダッキーへ戻すと、代わりに手榴弾を2つ受け取った。そして、右手に鉄鞭、左手に手榴弾を持って、追っ手を待ち構える。それから、咆哮を発しながら、陸のブダニシュが躍り出てきた次の瞬間、ステファンは手榴弾のピンを歯で抜き、目の前に放ると、鉄鞭でそれをカッ飛ばすという凶行に走った。カッ飛ばされた手榴弾は、綺麗に陸のブダニシュの口内へ収まり、その頭部を吹き飛ばしてしまう。背に乗っていた沼のブダニシュが慌てて逃げ出していく。しかしステファンが、それを逃がす訳がない。

「お忘れ物ですよ、お客様!」

 もう一つの手榴弾のピンを抜き、前と同じく手榴弾をプレゼントした。

 爆散するブダニシュを背景に、ステファンは自慢げに鼻を鳴らす。

「フンッ・・・どうよ?」

「・・・ステファン、それも、神器では?」

「・・・・・・あっ」

 ステファンは所在無さ気に頭を掻くと、鉄鞭を戻し、拳を構えた。

「もう、面倒臭い・・・次は素手で勝負な?」

「・・・構わない。でも、そもそも勝てる?」

「為せば成るさ・・・きっと」

「・・・そう。ちなみに、私は倒せる」

「・・・・・・おら、次来いやー!!」

 ステファンが拳を打ち鳴らして啖呵を切った直後、木々の合間から視界を埋め尽くさんばかりのブダニシュが躍り出て来た。

「これは・・・無理かも」

 ステファンが、咄嗟にダッキーを抱き上げたちょうどその時、背後から声が響いた。

「そこの二人、動くなよ!」

 ステファンとクィラが振り返るよりも速く、ステファンの横を馬車が通り過ぎていく。そして、鎧に身を包んだ黒馬が急停止を仕掛け、牽引していた黒鉄の箱馬車が物理法則に従い、振り子の如くスイングする。馬車の車輪には、太く鋭利な衝角が付いており、ステファン達に迫っていたブダニシュの軍勢を、端から粉砕していった。

「ふぅ~間一髪だったな?」

 馬車を操る馭者の男が、唖然として固まる二人に、一礼した。

「教会騎士団所属、友情のヘシオン、ジュライ。ただ今参上につき、以後お見知り置きを。さて、君らが救出部隊だろう?」

「ええ、そうですが・・・おま・・・いえ、貴方はもしや敬虔のヘシオンの命で?」

「ああ、団長の命令で助けに来た。脱出するぞ、乗りな若人達!」

 馭者、ジュライが親指で、箱馬車横の入り口を示した。

「待ってください、あちらの方も運びたいのですが!」

 ステファンは、伸びたまま動かない忠誠のヘシオンを指し示した。

「おう、任務を果たしたみたいで何よりだが・・・あいつは寝てるのか?」

「力を使い果たしたみたいで・・・」

「困ったな・・・自力じゃなきゃ、あいつは乗せられないぞ・・・そうだ、馬車の後ろに鎖があるか、そいつにしっかり巻き付けてくれ。牽引する」

「牽引するって・・・流石にそれは、死んじゃいませんか?」

「あいつなら大丈夫だ、並みの堅さじゃない。それよりも急いでくれ、まだまだ追っ手が来そうだ!」

「・・・分かりました、横付けをお願いします!」

 ステファンは、クィラにダッキーを託し、先に馬車へと乗車させ、自らは忠誠のヘシオンに鎖を巻きに向かった。呼び掛けてみたが、やはり未だ意識が戻っていない。渾身の力で忠誠のヘシオンの上半身を起こし、その胴体に鎖をこれでもかと巻き付ける。

「終わりました!」

「上出来だ! 早く乗りな、ズラかるぞ!!」

 ステファンが馬車に飛び乗ると、ジュライが声を張り上げた。

「行くぞ、ハインリヒ! お前の速さを見せつけろ!!」

 黒馬は前肢を上げ、高らかに嘶いた。そして、とても一頭とは思えない馬力で馬車と忠誠のヘシオンを牽引し始めた。

 馬車の中では、ステファンが別の案件で驚いていた。馬車の中が外観よりもだいぶ縦に広く、快適さに溢れていたからである。

「なるほど、あの馬とこの馬車が神器なのか・・・」

 ベッドにソファ、石の竈に様々な食料の山。馬車の中は、まるで民家の様な内装になっていた。

 走る家屋だ、とステファンが馬車の内装に見とれていると、クィラに肩をつつかれた。

「・・・はい、ダッキー」

「あ、ああ・・・ありがとう」

「・・・うん、どいたま」

 ステファンは礼を述べてダッキーを受け取ると、然り気無くクィラに耳打ちした。

「・・・あの男、どうだった?」

「・・・おじさん、だった」

「いや、そうじゃなくて・・・信用出来そうか?」

「・・・よく読めたわけじゃないけど、助けに来たのは本当みたい、だよ?」

「そうか・・・とりあえず様子見、というわけか」

「・・・うん。それで、さっきの勝負は、私の勝ち?」

「・・・何だって? 邪魔されたんだ、引き分けだろう?」

「・・・ステファンの最後、神器使用したから、無効。つまり、私の勝ち」

「ぬぅ・・・それもそうだな、遺憾ながら、勝ちを譲ろう」

「・・・やったぁ、スゴい?」

「ああ・・・スゴい、スゴい」

「・・・報酬、期待」

「何も賭けてないはずだが!?」

「・・・勝負に負ける、すなわち、命を取られる。だから、報酬、頂戴?」

「くそっ、一理はあるな・・・それじゃあ、使命が終わってからな?」

「・・・了解」

 クィラと話が着いたところで、馭者台と繋がる覗き穴が開かれた。

「お寛ぎのところ悪いが、追っ手を振り切れそうに無い。迎撃してくれないか?」

「はい、任せてください!」

 ステファンは散弾銃を肩に掛け、数個の手榴弾を受け取ると、ダッキーをソファに安置して、出入り口から身を乗り出し、馬車の上へとよじ登る。クィラも短弓を手に、反対側の出入り口からよじ登ってきた。

 ステファンが後方を窺うと、数十の陸のブダニシュが追随して来ていた。しかも、その背から沼のブダニシュが弩弓を射掛けてきている。どうやら、忠誠のヘシオンを牽引する鎖を断ち切ろうとしているようだ。取り戻そうとしているらしい。それを阻止すべく単体弾を放ったが、標的が離れ過ぎていて上手く当たらなかった。

「くそっ、駄目か」

「・・・私が、やる」

 クィラが弦を引き絞り、矢を放ったが、短弓も飛距離が稼げず、当たる前に失速してしまう。敵はこちらの間合いを把握している、ステファンはそう感じていた。手榴弾なら対処出来そうだが、忠誠のヘシオンを吹き飛ばしてしまう可能性が捨てきれない。

 このままでは、鎖が切られるか、延々と追跡される事になる。思い悩んだ末、ステファンは決断した。

「・・・ちょっと、行ってくるわ」

 クィラにそう呟くと、ステファンは散弾銃を肩に掛け、馭者台のある端まで後退した。そして、そこから助走をつけて、馬車の後方で踏み切った。

「ごめんなさ~い!!」

 跳躍したステファンは、そのまま忠誠のヘシオンの胴体に着地した。それから間髪入れずに、手榴弾を的確に放っていく。いくら距離を取ろうと、追随している限り、手榴弾の爆発を避けられない。

 ステファンの放った手榴弾は、見事に追っ手の大半を吹き飛ばし、生き残った個体も不利を悟ったのか、踵を返していった。

「逃がさない!」

 ステファンが追撃の単体弾を放とうとしたその時、小石か何かの影響で、忠誠のヘシオンの身体が大きく跳ね上がった。

「ふぁっ!?」

 狙撃に集中していたステファンは、体勢を崩し、宙に投げ出されてしまった。このままでは、勢いのまま地面に叩き付けられてしまう。ステファンが身体を丸めようとした次の瞬間、その足首を何者かが鷲掴んだ。もちろん、忠誠のヘシオンである。

 忠誠のヘシオンは、ステファンを肩に乗せ、牽引されたまま鎖を掴んで立ち上がると、一回の跳躍で馬車後方の屋根まで到達してしまった。馬車は大きく傾いだが、走行に支障は無い。

「・・・誰か、状況を教えてもらえないでしょうか?」

「は、はい・・・喜んで」

 肩に座るステファンは、気まずそうに挙手をした。

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