第3話 白い犬と獣医の山中
「バカ飼い主」と『バカ』をすごく強調され、少しムッとした表情になる飼い主の男性。
「貴方がここの獣医さんなんですか? ……にしては、ふつうですね? それに獣医さんなのに白衣も着ていないようですが……」
飼い主の男性は反撃とばかりに『ふつう』を強調し、「何で私服なんだ?」っと嫌味を込めて言いました。
ですが、女性も負けずに「それくらい察しろバカ飼い主がっ!!」と一蹴する言葉を発しました。
「アンタやっぱりバカなの? 白衣を着てなきゃ医者じゃねぇっての? 獣医じゃねぇっての? 手術でもねぇのに白衣なんか着て、ウチにいる動物の面倒見れるわけねぇだろうがっ!」
「や、山中さん落ち着いてください!! また問題を起こすつもりなんですか!?」
っと若い職員の男性が獣医の女性を後ろから羽交い絞めにして、必死に止めようとします。
「コラ佐藤っ! あたしを止めんじゃねぇよっ!! 毎日コイツらみたいなバカ飼い主が1日に10人以上もここに来てんだぞ! その意味が解かってんだろう!? お前だって同じ気持ちだろうがぁっ!!」
獣医の女性は暴れるように、脇に置いてあったゴミ箱を蹴り倒して暴れてしまいます。
「…………」
飼い主の男性はその勢いに圧され、複雑そうな顔をしてそれ以上言葉を発することが出来きませんでした。しばらく経ち、獣医の女性が落ち着いたところで飼い主の男性に説明を始めました。
「……で、1度こっちで引き取ったペットは、1週間以内に里親が現われて引き取られるか、ガス室で殺処分されるか、どっちかってことだよ。……アンタらバカな飼い主のせいでね」
っと不機嫌そうな顔をしてそっぽを向き、そう投げやりに獣医の女性は言いました。
「ふーん。ならコイツも殺されずに誰かに拾われるかもしんないんですね」
飼い主の男性は、ゴミ袋に入ったままのシロを見ながらそう言いました。
「(くぅ~ん)」
白い犬はまるで「ボクを捨てないで……」そう訴えかけるよう悲しげに鳴きました。
「ま、貰われるシアワセなのは半分以下の確立さ」
「半分?」
獣医の女性の『半分』という言葉に引っ掛かった飼い主の男性は、そのまま言葉を繰り返しました。
「そっ。半分は個人やボランティアなんかの人に『里親』として引き取られて、もう半分はここで永遠に眠ることになんのさ」
っと獣医の女性は、新たなタバコを取り出し口に咥えました。飼い主の男性は『医者のクセにタバコなんか吸って、この女不謹慎だな』と思いましたが、獣医の女性がタバコに火を点けていないことには気づきませんでした。
「もう説明はいいだろう? どうせおめえこの子は置いていくんだろ? はん! ならさっさと書類書いてどっか消えやがれってんだ! ……ったく、いつまで袋に入れてやがんだ!」
ガサガサ……獣医の女性は座り込み、白い犬をゴミ袋の中から取り出しました。
「うん? この子足が……っちくしょうがぁっ!!」
そう叫び立ち上がった獣医の女性は、抱きかかえている白い犬の右後ろ足が、折れ曲がっている事に気がついたのです。そして、殺さんばかりに元飼い主の男性を睨みつけました。
白い犬の足が折れ曲がっているのを、元飼い主の男性が虐待をしたと思い込んだのです。
「あっ、いやそれは……」
っと元飼い主の男性は必死に言い訳をしようと慌ててしまいますが、獣医の女性は『ガンッ!!』っと近くのドアに蹴りを入れると、そのまま奥の方へ行ってしまいます。
「ワンワン!! ……くぅ~ん、くぅ~ん」
白い犬は見えなくなる元飼い主に助ける求めるように鳴きましたが、元飼い主の男性はただ呆然と見ているだけで助けに来ませんでした。
「オラ大丈夫だ。ほ~らよしよし、鳴くんじゃねぇよ」
獣医の女性は抱きかかえている白い犬が鳴き止むよう、安心させるように優しく声をかけ頭を撫でたりしました。