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シロと呼ばれた白い子犬 ~拾われた新しい命、その後の物語~  作者: 立花ユウキ
第2章 シロは……『シアワセ』になれるのだろうか?
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第2話 白い犬と保健所と1枚の書類

「それで、コイツ引き取ってもらえるんでしょ?」


 男性はぶっきら棒な物言いで、白い犬が入ったゴミ袋を掲げると職員に質問をしました。


「…………ここに来る飼い主さんには、ちゃんと『次の飼い主さんを見つけたりする』などの必要最低限の努力(・・)をしていただいてから、最後の最後に当施設である保健所で引き取る決まりになってます。また理由がなく飼い続ける事が困難な場合でも、それは同じとなってます」


 職員の男性は、言葉に含みを持って目の前の男性にそう事務的に答えました。


「はんっ! 必要最低限の努力(・・)ねぇ~。ははっ」


 男性は職員の含みのある言葉を馬鹿にするように笑い、同じように言葉を繰り返しました。


「…………あなたはその努力をしてきたのですか? もしまだされていないのならば、当施設では引き取るを『拒否する』こともできるんですよ!」


 職員の男性はそう少しだけ強めに言いました。きっとそれが保健所の職員である彼にできる唯一の反論だったのかもしれません。


「その、努力ってやつは法律なんですか? 法律で理由がない場合、保健所では引き取りを『拒否できる』んですか? それとも何かしらの『罰則』でもあるんですか?」

「…………いえ、あくまでも倫理的に……です」


 男性は難しい事を口にすると、職員の男性を黙らせてしまいました。


「……ならコイツは置いていきますからね!!」


 男性はここが駐車場にも関わらず、この場で職員にクチが縛られたままのゴミ袋をぐいっと押し付けようとしました。ですが、職員の男性はすぐさまこの場で受け取ることを拒みます。


「…………引き取りに関しては、ちゃんとした正規の手続きがありますので…………とりあえず中へどうぞ」


『手続きとか面倒なのがあるんですね~』っと、またもや馬鹿にしたように職員に語りかけていましたが、職員の男性は無視しました。


 そこで職員の男性は白い犬が入れられている、ゴミ袋のクチが縛られている事に気がつきました。


「あっ!? そのままだと犬が窒息してしまうので、早くゴミ袋のクチを解いて下さい!!」

「えっ? あぁ~……そういえば、そうですねぇ~」


 男性は職員に促されると渋々ながらに、ゴミ袋のクチ部分を紐解きました。ですがその際小声で「どうせ同じことして、死なすんだから、断然こっちの方が楽だろうになぁ~」っと、呟いたのを職員の男性の耳に届けられましたが、反論しませんでした。


 ――いいえ、彼は反論したくてもできなかったのです。『この馬鹿な飼い主を今すぐにでも殴りたいっ!!』きっとそんな思いだったでしょうが、そんなことをしても保健所(ここ)に置きに来るペットが、減るわけでもないと既に知っていたのです。


 飼い主の男性はその白い犬をゴミ袋に入れたまま、保健所の中へと入って行きました。


「こちらに……ご記入願います」


 そう一言だけ告げると職員の男性は、受付の窓から『(さかい)さん……用紙を1枚お願いします』っと、中にいた年配の男性職員に声をかけ1枚の白い紙を飼い主の男性に差し出しました。


「……ちっ。ほんと、面倒なんだなぁ~。これならまた(・・)山にでも置いてくればよかったよ……ほんと」


 飼い主の男性はワザと職員の男性に聞こえるようにそうボヤきました。きっと面倒な書類を書かされることに腹を立てての言葉かもしれません。


「ぐっ!?」


 職員の男性は右の拳を握り締めると飼い主に対する怒りからか、握った拳がぷるぷると震えていました。……ですが唇を痛いほど、それこそ血が(にじ)み出るほどに噛み締めながら、目の前にいる飼い主に対して我慢し言葉を続けました。


「あとは……ウチの獣医の方から詳しい説明があります。今呼んできますので書類に記入して終わったら、ここで(しば)らくお待ち下さい……」


 そう言うと職員の男性は、奥へにある部屋の方へと行ってしまいました。


 飼い主の男性は「こんなの書くのかよ。面倒だなぁ……」とは思いつつも、受付案内の台で書類を書き始めました。


「え~っと、何々……飼い主の名前に住所、電話番号、ペットの名前に、引き取り理由ぅ~? おいおいマジかよぉ~、理由(こんなの)まで書かないとダメなのかよ……別にそんなの何でもいいだろうに」


 書類は1枚の紙とはいえ、そこにはビッシリと項目が並べられていました。飼い主の男性はうんざりした表情を見せながら、「仕方がない……」っとブツブツ文句を言いながら書き始めました。


 ……っとそこへ、一人の女性が飼い主の元へ現れました。年の頃では30半ばと言ったところでしょうか? やって来るなり飼い主の男性に対しこう声をかけました。


「……あたしがこの保健所に勤務している『獣医の山中(やまなか)』です。……で、アンタが噂のバカ飼い主ぃ~?」

「えっ!?」


 いきなり自分の事を「バカ飼い主」と呼ばれ、挙句にその獣医らしからぬ容姿と態度に飼い主の男性は驚いてしまいます。


 獣医の山中と名乗るその女性は獣医らしく白衣を……着てはおらず、普通の私服で現われたのです。しかも気だるそ~うにしながら、口にはタバコを咥えていました。

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