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シロと呼ばれた白い子犬 ~拾われた新しい命、その後の物語~  作者: 立花ユウキ
第2章 シロは……『シアワセ』になれるのだろうか?
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第1話 白い犬と透明な袋

「ほら、こっちだ! こっちに来いシロっ!!」


 今一頭の白い犬が車で連れて来られ、この保健所にやってきました。年の頃で30歳手前といった男性はいつまでも車の後部座席から降りないその白い犬に痺れを切らし、首輪にリードを着けると力の限り車から引っ張り出そうとしていました。


「ぅぅっ!! ぅぅっ!!」

(どうして? どうしてボクはこんな嫌な臭いがする所に連れて下ろされるの!?)


 引っ張られているその白い犬は、まるでこの後自分がどうなるかを知っているようにリードで引っ張られている首に力を入れ左右に振りながら、前足後ろ足で車のシートに爪を立て踏ん張ると必死に抵抗をみせていました。


「あっ、このバカ犬っ!? 車のシートに爪なんか立てやがって! こんのぉ~っバカ犬がぁっっ!!」

「きゃいんっ!!」


 男性は自分の大切な車のシートに傷をつけられ頭にきたのか、その白い犬の頭をおもいっきり殴りつけました。


「(痛い痛い! そ、そんなに殴らないでよ。ボク、もっといい子にするから……)」


 いくらその白い犬が成犬とはいえ、まだ1歳を過ぎたばかりです。その白い犬はいきなり頭を殴られた痛みと、今まで飼い主だった人からの虐待にショックを受けてしまい抵抗を緩めてしまいました。


「おらっ! さっさと降りろっ!!」


 これ(さいわ)いとばかりに男性は、その白い犬がドアにぶつかろうが引っ張られた弾みで顔から地面に叩きつけられようがお構いなしに、車から引きずり出しました。


「きゃいんきゃいんっ!!」


 その白い犬は顔から落ちた痛みの他に、骨折し折れ曲がっている右後ろ足も地面に叩きつけられてしまい、これまで感じた事のない痛みを感じ泣き叫びました。


「(痛い痛い痛い!!! あ、足が!? 右の後ろ足が痛くて取れちゃいそうだよ!! 何でボクにそんなことするの? ボクは悪い子なの?)」


「く、くぅーん、くぅーん」


 その白い犬はそう悲痛にも似た鳴き声を出しますが、男性には伝わりませんでした。 ……いえ、それどころか、


「こら! 静かにしろバカ犬がっ!!」

「きゃいん!?」


 うるさい!! っと男性に再び頭を殴られ、その白い犬は更に泣き叫びました。


 いくらいらなくなった(・・・・・・・)ペットを引き取る保健所とはいえ、これ以上騒ぐのはマズイと思った男性は何を思ったかその白い犬をそのままにし、車からとある透明な物を取り出しました。


 その透明な物の正体とは……


「どうせオマエは捨てられるんだもんなぁ~。そんなオマエにはこれで十分だ、っと!!」


 男性はそう呟くとその透明な物を白い犬の頭から被せてしまい、逃げ出せないようクチ(・・)を縛ってしまいました。


「……っ!? (ぅぅ……きゃぅっ!!)」

(これは何っ!? 何でボク、袋に入れられてるの!? それに息が、息ができなくて苦しいよ! 助けて!!)


 その白い犬はいきなり透明な袋に入れられ驚き、また息が出来なくなってしまい、くぐもった鳴き声をあげて必死に抵抗します。


 っとそのとき、騒ぎを聞きつけた保健所の職員らしき男性が、建物から急ぎ走って出てきました。


「どうしたんですか!? 何かありましたか!?」


 尋常ではない鳴き声を聞き、職員は尽かさずその場にいた男性に事情を聞きました。


「あっ、いえ……全然大丈夫ですよ。今解決しましたんでね。あっ、お騒がせてすみませんでしたねぇ~」


 男性は騒いだことに対する謝罪をペコペコ頭を下げながら、職員の男性にしました。


 職員の男性は(いぶか)しげな表情を浮かべ、手に持っている物について(たず)ねました。


「その……手に持ってるゴミ袋は一体なんですか? 中には何が……」

「(ワンワン!!)」

(誰か助けてっ!! ボク、この中に入れられてるんだよ!!)


 その白い犬はまるで助けを訴えるように泣き叫びました。それはまるで命乞いをしているようにも聞こえます。


 職員の男性は更に顔を(しか)めると、男性に問いただします。


「ゴミ袋の中に『犬』を入れてきたんですか!? 一体何を考えてるんですか!! その子だってまだ生きてるんですよ!!」


 職員の男性の鬼気迫る雰囲気に呑まれ、男性は戸惑いつつもこう答えました。

 

「あっ、いえね。ここに連れて来たら何故か急に騒ぎ出しましてね、それで……つい、ね(笑)」


 男性は悪びれた様子もなく、ヘラヘラ笑いながらそう言い訳を口にしました。


「だからと言って、何もゴミ袋に入れることはないでしょうがっ!!」


 職員の男性はその男の人の態度・行動に怒りを覚え、つい声を大きくしてしまいました。


「ま、まぁそうなんですがね。でもどう~せコイツ処分されるんだしさ、そんなに顔を赤くして怒らなくても……」

「あなたは命を何だと思ってるんですかっ!! 処分されるからと言ってこんな粗末に扱う必要はないでしょうに!!」


「……ちっ。ったくうるせぇなぁ~。自分だって毎日『それ』をしてるんだろう? なら、あんたがそんなこと言える立場なのかよ? えぇっ!!」


 男性は職員を相手にするのが面倒になったのか、先程とは打って変わった態度をとりながら、右手で後頭部を掻きながらそう言い放ちました。


「ぐっ!?」


 職員の男性は男性の物言いに対して、反論もできず悔しさを堪えるように唇を噛み締め、無力にもただ下を向くことしか出来きません。


「(くぅ~ん)」


 ゴミ袋に入れられた白い犬もまた、無力にもただ悲しそうに鳴くことしかできませんでした。

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