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世界で二番目に綺麗なメイド

 数日後、俺とクロエは宣言通り、闇市場で非合法な『素材』を仕入れている魔術師と接触することにした。


 その日、俺は学院長にそのことを告げ、学院を休むことにしてある。

 学院長は二つ返事で了承してくれたが、いぶかしんだのはフィオナであった。

 学院を休むことを話すと、娘は心底心配してくれた。


「お父さん、病気になっちゃったの?」


 と、俺の部屋にやってきた。

 当初、病気のふりをする予定だったのが、その表情を見た俺は作戦を変更する。

 元気よく立ち上がり、こう言った。


「それは表向きの理由だ。今日は晴れているからな。格好の実験日和だ。こんな日に授業などしていられない」


 要はサボると宣言しているわけだが、その言葉を聞いた娘は安心したようだ。


「良かった。病気じゃないんだね。じゃあ、がんばって実験してね」


 と、そのまま学院に登校した。


「…………」


 ちょっと複雑な気分である。

 クロエが俺の気持ちを代弁してくれる。


「フィオナ様は笑顔で登校されましたね。あるじ様が元気だと確認されて安心したようです」


「みたいだな」


「そしてサボりの理由も一ミクロンも疑いませんでしたね」


「まあ、実験馬鹿だからな、俺は」


「ですね。あるじ様ならば、天気が良いという理由だけで学校をサボり、錬金術の実験をしても不思議ではない。いえ、当然だと認識されているようです」


「そうみたいだな。ま、病気と嘘をついて心配させるよりはましさ」


 そう言い切ると、クロエに指示をした。


「では、出かけるぞ」


「分かりました。件の闇落ち魔術師のもとへ向かうのですね」


「その通りだ。カリーニンに協力してもらって容疑者は絞れた。おそらくだが、この男が目当ての男だと思う」


 そう言うと俺は引き出しにしまっていた男のプロフィールを出す。

 そこに描かれていたのは、人相の悪い男だった。

 いかにも栄養が足りなそうな男でがりがりに痩せこけている。


 生まれてから一度も日を浴びたことさえなさそうなほど青白く、目は異様にくぼみぎらついていた。


 その絵を見たクロエは一言漏らす。


「物語の中に出てくる悪い魔法使いを絵に描いたような男ですね」


「そうだな。人は見た目で判断するな、という言葉があるが、四〇過ぎたら自分の顔に責任を持て、という言葉もある。やはり悪党は悪党らしい顔しているよ。俺の千年におよぶ人生経験に照らし合わせればね」


「ですね。では、この男のところに参りますが、なにか注意点はありますでしょうか?」


「そうだな」


 と、俺は前置きすると、さりげなくこう言った。


「服を脱いでもらおうか」


 と――。

 その言葉を聞いてクロエは眉をしかめる。

 そしてなにか言葉を発しようとしたが、途中でとめる。


「おっと、変な意味じゃないからな。これに着替えてもらうだけだ」


 そう言うと俺はあらかじめ買っておいた服を取り出す。

 その服は貴族の令嬢が着るようなひらひらのドレスだった。


「その服はなんなのでしょうか?」


「これから接触する魔術師、名前はフェルディナンドというのだが、そいつは変わった嗜好をしていてね。使用人はみな女奴隷で、貴族の令嬢のようなドレスを着せているらしい」


「なるほど、見かけ通りの変態野郎ですね」


「だな。まあ、珍しい話ではない。上淫下淫といってな。下賤なやからは雅で上品な女性に憧れることが多い。こいつもなにか幼少期にこじらせてしまったタイプなのだろう」


「なるほど、この下衆野郎の嗜好は把握しましたが、どうしてクロエが着替えなければならないのでしょうか?」


「それは、胸に賢者の石に限りなく近いものを埋め込んでいる感情を持った機械仕掛けの人形を高値で売る、という触れ込みで接触するからだ。相手の好みに合った『商品』を持って行くべきだろう」


「……もしかしてその商品とはクロエのことですか?」


「他に感情を持った機械人形がいるのであれば」


 辺りを見回すまでもなく、この部屋には俺とクロエしかいない。


「あるじ様は長年連れ添ったメイドさんからたったひとつのアイデンティティーであるメイド服まで脱がして売り払う算段なのですか」


「そぶりを見せるだけだよ。なんの取引材料も持たずに面会はできない」


「むう、たしかにそうなのですが」


「てゆうか、いざとなればその剛力で魔術師フェルディナンドをぼこぼこにすればいいだろう」


「あるじ様、クロエはか弱い女の子ですよ。魔術師相手に戦えるわけがありません」

「先日、冒険者相手に大立ち回りを演じたくせに」


「結局負けて、捕らえられてしまったでしょう」


「たしかに。でも、すぐ横に俺が控えているんだ。お前は黙って俺の横ですましていればいい。むしろ、いつもみたいに毒舌を噛まされると困る。フェルディナンドはおしとやかな上流階級の娘が好きなのだからな」


「それは聞き捨てなりませんね。それではまるで普段のクロエがおしとやかでないみたいではないですか」


 クロエは頬を膨らませるが、それでも最後は引き受けてくれた。

 ただ、やはり最後まで抵抗する部分もある。

 なかなか服を着替えない。


 やはり機械仕掛けのメイドさんにとってメイド服は『賢者の石もどき』の次に大切なものらしい。


 そう思った俺は、最後にこんな言葉を掛け、席を外した。


「ま、メイド服も似合っているが、貴族の着るようなドレスも似合うと思うぞ。美人タイプの機械人形だからな、お前は」


 一応、褒めてみたが、効果はあっただろうか。


 十分後、着替えが終わった時間を見計らって戻ってくると、クロエはドレスに身を包んでいた。


 その姿を見て、

「さすが金貨500枚掛けて発注した機械人形だ」

 とか、

「馬子にも衣装とか」

 とか、

「高価なドレスは誰が着てもそれなりになるな」

 という無粋な言葉は使わなかった。


 純粋に思ったことを口にする。


「うむ、美しいな。世界で二番目に綺麗だ」


 ちなみに一番は我が娘フィオナであるが、クロエはその回答でも満足したようだ。


「ありがとうございます、あるじ様」


 と、微笑んだ。   

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