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カイトとクロエの作戦

 学院から帰ると、メイドのクロエに学院長から引き出した情報を話、今後の作戦も披瀝する。


「――ということは、あるじ様は学内にいる悪徳教師を探し出す。フィオナ様たちは公都でリッテンの父母を探す、という作戦になるのですね」


「そうなるな」


「それがいいかもしれません。学内で悪徳教師を探しているときに、敵方に感づかれてフィオナ様が危険な目にあうかもしれないことを考えると」


「そうだな。それにどちらにしろリッテンの親を早く見つけないといけないしな」


「そうですね。赤ちゃんに必要なのは親の愛情です。クロエたちはそれを代替することはできますが、完全に補うことはできません」


「その通り。ともかく、俺たちの当面の目標は、リッテンの親を見つけ出し、いち早くお返しする。それと人身売買を繰り返している学院の教師を見つけ出し、天誅を加える。その2点だ」


「分かりやすいですね」


「シンプルイズベストだよ」


「ちなみに作戦はあるのですか?」


「あるよ」


 と、あっさり言う。


「さすがはあるじ様です。その深慮遠謀、感服いたします」


 クロエはペコリと頭を下げる。彼女のホワイトプリムがよく見える。


「してどのような作戦なのですか?」


「悪徳教師を探すのではなく、まずは悪徳教師の商材の卸先(おろしさき)から当たることにした」


「といいますと?」


「悪徳教師の方は学院長であるカリーニンが調査しているし、調査を重ねてもなかなか見つからないんだ。ここで俺が調査に加わっても進展するとは思えない」


「道理です」


「ならば発想を変える。誘拐犯は赤子を誘拐し、それを商品として売りさばいているんだ。ならば必ず買い手がいるはず。まずは買い手に近づいてそこから情報を引き出す」


「なるほど、将を射んとすればまずは馬から、というやつですね」


 さすがはあるじ様です、と賞賛してくれるが、彼女は素朴な疑問を口にする。

「しかし、どうやって買い手を見つけるのでしょうか? 早々、容易に尻尾は出さないと思うのですが」


「そりゃあ、もちろんそうだろう。だから、俺自身が、闇錬金術師になりすまして、そいつらのコミュニティに潜入する」


「潜入捜査というやつですね。さすがです。ですが、難しいのではないですか?」

「どうしてそう思う?」


「あるじ様は人相が悪いですが、狂錬金術師ではありません。普通に潜入したのでは見破られてしまいます」


「だな」


「やはり、そういった闇魔術師には独特のオーラがでます。人の命を命とも思わない悪のオーラが。生命の尊厳を踏みにじる闇の魔力が。闇落ちした魔術師にはそれらがある。しかし、あるじ様にはそれらがありません」


「残念ながら、と言えばいいのか、ありがとう、と言えばいいのだろうか」


「ありがとうでいいと思います。あるじ様にはいつまでもあるじ様でいてもらいたいです」


「怠惰でやる気のない給料泥棒でいいのか?」


 冗談めかして言う。


「悠久のときを生きる子煩悩で優しい賢者様ですよ」


「――覚えておこう。少なくともフィオナが元気なうちは闇落ちしないよ」


 そこで言葉を句切ると、クロエに説明した。


 闇落ちし、悪の魔術師になるのは無理だが、狂錬金術のコミュニティに潜入する手段はある。


 その秘策を彼女に話す。

 その秘策を実行するには、彼女の協力が必要だったからだ。


「狂錬金術師ってやつは、やっていることはあくどいが、その最終目標は真っ当な魔術師と同じなんだ」


「どういう意味ですか?」


「普通の魔術師のように賢者の三大悲願を求めているだけだよ」


「つまり、あくどいことをやっているが、目指す道はあるじ様たちと一緒というわけですね」


「その通り」


 そう断言すると、俺は賢者の夢を語った。



 ひとつ、不老不死の身体を手に入れること。

 ふたつ、賢者の石を生成すること。

 みっつ、ゼロから生命を創造すること。



 俺がそう言うと、クロエは言う。


「分かりました! あるじ様はそのうちのいくつかを達成しています。それらの研究成果を餌に彼らに近づくんですね」


「ご名答。ちなみにどれを餌にするつもりだと思う?」


 逆に質問してみる。


「そうですね」


 クロエは真面目な表情をすると、己の陶器のような顎に手を添え、考え始める。

「あるじ様の性格ならばまずは他者に迷惑が掛からないようにします。不老不死のデータでしょうか?」


「不正解だ。最初はそう考えたが、俺は不老不死を達成していない。不老ではあっても不死じゃないしな。それに不老を達成した魔術師ならば世にあふれかえっている」


「たしかにそうですね。あるじ様のような存在は、特別、珍しいわけではない。それにあるじ様は身分を偽っています。身分を明かして接近するのはよくないですしね。フィオナ様の危険にも繋がります」


 と、言うとクロエは付け加える。


「となると、三番目は自動的に消えますね」


 と、クロエは推察する。


「あるじ様がフィオナ様のデータを横流しするとは思えません。ホムンクルス創造のデータは生涯隠匿されるでしょう」


「ホムンクルスを完全に再現できるようになって、その研究成果を世に発表しても悪用されないと分かったら公開してもいいがな」


 あるいは悪用されると分かっていても、その研究成果を発表することによってフィオナの安泰が計れるならば天秤に掛けてしまうかもしれないが、今はそのときではない。


 そもそも、俺はホムンクルスを作り出すことには成功したが、その製造法はまったく解明していない。


 偶然、奇跡のような事象が重なって生まれたのがフィオナだった。


 あれからその再現を求め、同じような状況を何度も繰り返したが、生命誕生の兆しはない。


 よって不老不死もホムンクルスも今回のカードには使いにくい。


「となると、こちらにカードはないですね」


 クロエは首をひねる。


「そうでもないぞ」


 と、否定する。


「クロエは案外、自分のことになると無頓着になるよな」


「どういう意味ですか?」


「クロエは自分の胸にあるものが貴重だと気がついていないのか」


「クロエの胸ですか?」


 彼女はそう言うと自身の胸に手を当てる。

 不思議そうな顔をしながら素っ頓狂なことを言う。


「あるじ様の性癖のせいでずいぶん小ぶりに作られていますが」


「俺の性癖じゃないわ。作った人形師の趣味だ。ちなみに貴重なのは、その胸の奥にあるものだ」


「胸の奥……、あ!」


 クロエはやっと自分の価値に気がついたようだ。


「クロエの胸には動力源である『賢者の石もどき』がはめ込まれています」


「その通り。しかもその賢者の石もどきは俺が配合した特注品だ。なにせ、ただの機械人形が意思を持ち、感情を持つのだからな」


「たしかに、この賢者の石もどきの製造法は、世界中の魔術師が知りたがるものでしょう。それにクロエの胸にあるあるじ様特製の回路も」


「だな。というわけで、申し訳ないが、その賢者の石もどきを引き抜いて、回路を引きちぎってもいいかね? 交渉材料としたい」


 俺のとんでもない提案に、クロエは即答する。


「かまいませんわ」


 その返答には驚かなかった。クロエは機械仕掛けの人形である。

 主である俺の命令には絶対遵守する。

 どんな無茶な要求にも従うのだ。

 改めてそのことを確認した俺は、自嘲気味に言った。


「――冗談だよ。クロエには潜入に協力してもらうだけだ。まあ、意思や感情を持った機械人形というだけで珍しいからな。クロエをともなえば敵もこちらに興味を覚えるだろう。ただ、接触するのは闇落ちした魔術師だ。万が一、という危険があることを認識しておいて欲しい」


 俺がそう言うとクロエはにこりと微笑む。


「心得ました。しかしそれでもフィオナ様を取引材料にするより万倍もましです」


 クロエはそう言い切ると、最後にこんな質問をしてきた。


「ところであるじ様、その潜入捜査というのはこれから行うのですか?」


「いや、目星をつけている狂錬金術師は何人かいるが、まだ下調べしかしていない。潜入は最速でも明日だな」


「そうですか、それは助かりました」


 どう助かったのだ? 俺がそう問うと、クロエは穏やかに微笑みながらこう言った。


「もうじき、公都でがんばって聞き込みをしていたフィオナ様が戻ってきます。今日は朝から牛のすじ肉を煮込んでいたのですよ。クロエ自慢の一品です。一日中歩き回って疲れたフィオナ様の身体を温めてあげとうございます」


「そうだな、きっと、フィオナも喜ぶに違いない」


 そう締めくくると、俺たち二人はフィオナが帰ってくるのを待った。

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