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千年賢者の実力 †

 賢者カイトとデガルトたちの戦闘は一瞬で始まった。

 そして一瞬で大勢が決した。


 デガルトの雇った冒険者たちはなかなかに手強かったが、それは一般レベルの話であって、賢者と呼ばれるほどの実力を身につけたカイトの敵ではなかった。


 戦士たちは付与された魔法の剣を解除すると、チェインメイルやレザーアーマーの上から、《衝撃》の魔法を撃ち込む。


「ごふぅッ」


 という、うめき声とともに反吐を吐くか、ぽきり、という音とともに肋骨をへしおる。


 一瞬で戦闘力を奪うと、魔法使いたちの相手をした。


 《転移》の魔法で相手の後ろに回り込むと、魔力を込めた手刀を首筋に見舞う。


 戦士たちのように強力な一撃を加えなかったのは、魔法使いにはもやしっ子が多すぎるからだ。


 強力な一撃を見舞えばそのまま死んでしまうかもしれない。

 なるべく人を殺さない。

 娘を持った自分に課した制約のひとつである。

 昔のように容赦なく人を殺めたくなかった。

 流れるような動作でデガルトの配下を倒すと、デガルトは「ほう」と言った。


「大言壮語を吐くだけはあるな。それにその動き、従軍経験があるとみた」


「大昔に一度だけな。で、どうするまだ続けるか? もと従軍魔術師は怒らせると怖いぞ」


「ならば心配は無用だ。僕も昔、帝国軍にいてね。戦闘経験は豊富だ」


「なるほど、それは楽しめそうだ」


 そう言うと、デガルトは杖に魔力を込める。斬撃属性の魔力を付与したようだ。

 赤い魔力が杖にほとばしる。

 殺す気まんまんだな。

 こちらは打撃属性の魔法を付与する。

 打撃属性ならば頭でもぶん殴らない限り死ぬことはないだろう。 

カイトの杖に青い魔力がまとうと決闘の合図となった。

 両者同時に動き出す。

 まずはデガルトの杖が袈裟斬りにきた。


 魔術師のくせに見事な太刀筋だ。颯爽(さっそう)と避けたが、デガルトは流れるように突きを加えてくる。致命傷を与えられる腹部に対して集中的に攻撃を加えてきた。


 デガルトが殺意を持っていることを確認した俺は本気モードに入る。

 杖に込めた魔力を増大させた。

 ぶわっと、杖に込めた魔力を増大させるとそれを横薙ぎに放った。

 魔力の塊が杖から解き放たれる。


 デガルトはそれを防御しようと《防壁》を張ったが、その防壁はガラス細工のように粉々に砕ける。


 まずい、これは死ぬ。

 と思ったデガルトは、防御から転移に魔法を切り替えた。


 その判断があと一瞬、遅れていればデガルトは一撃で戦闘不能になったことだろう。


 自分の後ろにできた大穴を見て、デガルトはそう確信した。


(まったく、すごい魔術師だ。第4階級と聞いていたが、本当か?)


 デガルトの階級は第7階級であり、大魔導師コンラッドの弟子の中でも最高峰だった。


 また帝国軍に所属していたこともあり、その実力は魔術師でも指折りだ、と信じていたが、この男はそんな自分よりも格上、ということだろうか。


 信じたくはなかったが、目の前の男から感じる魔力をみるとそう判断せざるを得ない。


 このような強力な魔術師がアルルに協力するなど、想定の範囲外であった。

 まったく、あの無能な妹弟子はどこまでも自分を不愉快にさせる。

 実力ははるかに自分よりも劣るくせに。

 自分よりもあとから弟子になったくせに。

 大魔導師コンラッドに取り入り、後継者候補となりおおせた。

 僕よりも美しくなく、僕よりも無能が女が、である。


 それはデガルトの矜持(きょうじ)をしこたま傷つけたが、目の前の男はさらに僕を傷つけるというのか。


 許せない、そう思ったデガルトは禁呪魔法を使うことにした。

 命までは奪うまい、そう思っていたが、もはやそんなことは関係ない。

 自分よりも強い、それだけでデガルトにとってカイトは死ぬべき存在であった。

 デガルトは師より使用を禁じられた禁呪魔法《永劫の業炎》の魔法を唱える。

 炎魔法の最上級魔法である。これを唱えられるものは帝国でも限られる。

 玄武岩でさえ溶ける温度の爆炎が目の前の生意気な男を包み込む。


「ふふふ、僕に逆らった報いだ。安心したまえ。骨はちゃんと土に返してやるし、君のメイドやそこの娘は生かしておいてやるよ。僕が欲しいのは師が残したこの遺産だけだ」


 デガルトはそう言うと、先ほどアルルから奪った黄金作成機の設計書を握りしめる。


 これを持って帰れば師はデガルトを自分の後継者として認めるだろう。


 そう疑わなかった。これで僕は大賢者になれる! そう思ってほくそ笑んだが、その笑みは一瞬で凍り付いた。


 《永劫の業炎》に包まれた炎の中から声が聞こえたからである。


「まったく、お前みたいな中途半端な小悪党の処理が一番困るんだよな。娘に手を出すとか、クロエやアルルに手を掛ける、という悪党ならば遠慮なくボコボコにできるんだけど」


 カイトはそう言うと身体に一陣の風をまとわせると、まとわりついた炎を消し飛ばした。


「ば、ばかな、僕の禁呪魔法が効かないだと?」


「いや、多少は効いてるよ。少し、髪の毛が焦げた。あとでクロエに切ってもらって見栄え良くしないと」


「ありえない。あの魔法は禁呪魔法だぞ。禁呪魔法を喰らって無傷など、大賢者でもなければ不可能だ」


「なら、実力だけは大賢者なんだろうな。まあ、そんなことはどうでもいい。それよりもひとつだけ聞いておきたいことがある」


「……なんだ?」


「お前は、どうして大魔導師コンラッドの後継者になりたいんだ?」


 デガルトは意外な顔をしたが、正直に答えた。


「僕が一番相応しいからだ。僕以外の無能がコンラッド様の後継者になるなど考えられない」


 とくにアルルのような無能が選ばれるのは耐えられない。

 そう言うとデガルトはアルルを睨み付ける。

 アルルも気が強いもので、眉目をつり上げ兄弟子をにらみ返していた。

 俺はそれを見ると、アルルのもとまで転移して、彼女の猿ぐつわを取ってやる。


「さて、アルルよ、実はまだ聞いてなかったけど、君はどうしてコンラッドの後継者になりたいんだ?」


 アルルは、今、それをここで聞きますか? そんな表情を浮かべたが、答えてくれた。


「無論、師匠のような立派な魔術師になりたいからです。ワタシはご覧の通り無能ですからね。でも、師匠の遺産を貰えれば、それによってもっと強くなれるかもしれません。もっと、世の中の役に立てるかもしれません。それに師匠の意志を継ぎたいです」


「師匠の意志?」

 

「はい。師匠は錬金術によって世界をより良くしようとしていました。ワタシはその意志を継ぎたいんです。ワタシのような駄目魔術師でも世の中の役に立てるようななにかを作りたいんです」


 それを聞いたカイトは、「なるほど……」と納得すると、しばし目をつむり、考え始めた。


 3分ほどであろうか。

 戦闘中でもあるに関わらず、カイトは目を閉じ、微動だにしない。


 その間、デガルトが攻撃を加えなかったのは、先ほどの戦闘で実力差を思い知らされたからであろう。


 賢明な判断であるが、その判断は正しく報われた、かのように思える。

 考えをまとめたカイトは、「うん」とうなずくとこう言った。


「デガルトよ、こうしないか?」


「……なんだ?」


 デガルトは答える。


「実はコンラッドの残した秘宝はふたつあるんだ」


「ふたつだと?」


「ああ、そうだ。さっき、この寺院の二階でコンラッドの日記を見つけてね。この寺院には2種類の研究成果が残されていると書かれていた」


 カイトはそこで言葉を句切ると続ける。


「ひとつは今、お前が持っている金製造装置の設計書だな。アルルも言っていたが、金1グラムを作るのに真銀1キロが必要な不完全なものだ。でも、もしかしたらお前ならその設計図をもとにもっと有用なものを作れるかもな」


「…………」


「もうひとつは、ホムンクルス関連のものだ。これは完全な失敗作でその記録も、研究装置も不出来なものだ。たぶんだが、それに研究を重ねてもホムンクルスは創造できない」


「僕に選ぶ権利をくれるのか?」


「ああ」


「ならば決まっている。僕はこの設計図を貰う」


 デガルトはそう言うと設計図を握りしめる。


「理由を尋ねてもいいか?」


「僕はコンラッド樣の弟子だ。作ることもできないホムンクルスよりも、未来に繋がる金製造装置の秘録が欲しい」


「ちなみにデガルト、お前はコンラッドがどうしてホムンクルスの研究を重ねていたか知っているか?」


「知っている。師には昔、娘がいた。すでに亡くなったが。師はその娘を蘇らせるため、娘を現世に復活させるため、人工生命体の研究をしていた、と聞いている」


「らしいな。日記にそう書いてあった。あるいはコンラッドは娘ともう一度会うために大賢者になったのかもな。大賢者になれば研究がはかどる」


「かもしれないな。師の深慮遠謀など、僕には計り知れないが」


「分かった。ならばお前はその設計図を持って行け。俺たちはホムンクルス関連の資料を貰っていく」


 カイトがそう言うと、デガルトは微妙な顔を浮かべた。


 カイトの真意を測りかねているようだが、それでもこれ以上の戦闘にはならず、金錬成の資料を独占できることに喜んでいるようだ。


 最後にこう言った。


「貴殿、名はなんといったかな?」


「カイトだよ。魔術師カイトだ」


「カイトか……。借りとは言わない。僕が最高の弟子であることは疑いないんだから。僕は君に負けたのであって、アルルに負けたわけじゃない。それだけは覚えておいて欲しい」


「分かってるよ。しかし、後継者はコンラッドが決めるものだ。誰が選ばれても恨むなよ」


 カイトがそう言うと、デガルトは、仲間に《気付け》と《回復》魔法を掛け、立ち去っていった。


 それを見届けたカイトは、縛られていたアルルとクロエを解き放つ。


 クロエは、

「ありがとうございます」

 あるじ様、と微笑んだ。


 一方、アルルは納得がいかない、といった表情で頬を膨らませていた。


「カイトさんはなんでデガルトのやつをぼこぼこにして師匠の秘宝を独占しなかったんですか」


抗議してくるアルルにカイトはこう言った。


「コンラッドは最高の弟子に遺産を残したいんだろう? さっきの戦闘で分かった。戦闘力ではどうあがいてもデガルトに軍配が上がる」


「……それはそうですけど」


 残念そうに認めるアルル。少し可愛そうなので俺は彼女の肩を叩いた。


「しかし、精神的な意志を引き継ぐのは存外、お前かもしれないぞ」


「どういうことですか?」


 そう不思議そうに尋ねてくるアルルにカイトはこう言った。


「論より証拠だ。一緒にもうひとつの隠し部屋に行こう」


 そう言うとアルルとクロエに二階に行くようにうながした。

 娘はカイトを見上げる。


「さっき見つけた隠し部屋に行くの?」


「そうだよ。寺院の間取りを見ると、もう一個くらいあの横に秘密の部屋があるはずだ」


「す、すごい。そんなことまで分かるんだ」


「伊達に長生きはしてないよ」


 そう言うと、娘の手を握り、先導するようにふたりを二階へと案内した。

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