秘密の隠し部屋
第7階層にある名もなき寺院。
そこの二階はただただ広かった。
俺は娘の勘を頼りにひとつひとつ部屋をしらみつぶしに調べる。
「わたしはあの部屋が怪しいと思う」
と、娘が指をさせば、その部屋を捜索し、
「あの部屋はなんかオーラがあるの」
と、聞けばその部屋に向かった。
――しかし、娘の女の勘は外れまくった。
どの部屋にも秘宝はなかった。
冒険者がすでに荒らしてあるか、放置されて朽ちた部屋が広がっていた。
まだ少女だからだろうか、それとも女の勘はとやらの精度はこの程度のものなのだろうか。
「大人になれば、俺の隠し事をばしばし当ててくるようになるのだろうか」
そんな感想を抱いていると、娘は隠し部屋を見つけた。
「あ、お父さん、本棚の裏に隠し部屋があるよ」
娘はそう言うと、本棚の側面に仕掛けられたスイッチを押す。
すると、本棚は青白く光り、すうっと横にスライドする。
「わあ、すごい。まるで伯母さまのお屋敷みたい」
「あの人の屋敷もこんな仕掛けで満載だもんな」
「だね。本棚の裏の隠し部屋はロマンだって言ってた」
「普通は男のロマンだけど、あの人はああいうギミックが大好きだからな」
まあ、そのお陰で娘が仕掛けに気がついたのだ。善しとしよう。
と、好き勝手に師匠を論評すると、隠し部屋の中へ入った。
隠し部屋は小部屋になっている。
まだ冒険者に荒らされてはいないが、代わりにめぼしいものはなかった。
古代の魔導書がいくつか眠っていたが、どれも学術的価値があるものではなく、わざわざ持って帰るものでもなかった。
ただ、一冊の日記帳があったので手を伸ばす。
コンラッドの日記のようだ。いや、研究記録だろうか。どうやらコンラッドはこの寺院でホムンクルス製造の研究をしていたようだ。
コンラッドもまた賢者の三大悲願をいひとつを叶えようと躍起になっていたらしい。
なかなか興味深く、また大胆な実験をしていたようだ。するするとページをめくり、内容が頭に入ってくる。
「なるほど、こういうアプローチもあるのか」
そう思ってぱらぱらとページをめくっているとノイズが入る。
魔法で通信してきたものがいるのだ。
この寺院で通信魔法を使える仲間はアルルだけ。
ならば通信相手はアルルであろう。そしてどうやら彼女たちが秘宝を見つけたと察することができたのは、その声がはずんでいたからだ。
開口一番にアルルは言う。
『やった、やりました! カイトさん、秘宝を見つけました。一階の角部屋にきてください』
彼女は嬉々として言う。
俺は手に取った本を本棚に戻すと、娘に言った。
「どうやら秘宝は一階にあったみたいだな。道理でいくら探しても見つからないわけだ」
「そうみたいだね。ああ、秘宝ってどんなのなんだろう。なんか少しわくわくしない? お父さん」
「まあな、大賢者コンラッドの残したものだしな」
「早くみたいなー。格好いい杖なのかな? 円環蛇をあしらった杖とか。あとは綺麗な指輪かも。身につけていると幸運になってほんのりいいことがあるの」
「どうだろうな。まあ、ともかく、拝見することにしよう。アルルたちがぎゃふんとでも言ってなければすぐに見られる」
「ぎゃふんってどういう意味?」
「間抜けにも兄弟子たちに捕縛されて縄で縛られたりとか」
「まさか、クロエが付いているんだよ? そんなこと起きないと思うけど」
「まあな。でも、あの娘、アルルは想像の斜め上を行くからなあ」
「大丈夫だよ、早く一階に行って秘宝を見せて貰おう」
「そうするか」
そう言うと、俺たち二人は一階に向かった。
そこで見たものは、縄でがんじがらめにされて、
「ぎゃふん」
と情けない声を上げているとんがり帽子をかぶった娘だった。
クロエも同時に捕縛されている。
その姿を見たフィオナは「お父さんの予言が当たった」と驚いている。
見ればローブを着た30歳くらいの男と、鎧などで武装した冒険者一団がいた。
件のアルルの兄弟子とその配下だろうか。
あれほど注意しろといったのに、アルルはものの見事に油断をし、捕まったようだ。
クロエが付いていながらどうしてこのようになったのだろうか。
クロエは申し訳なさそうに言ってくる。
「すみません。不意を突かれました。それにアルルさんが思った以上に役に立たなくて」
「す、すみません」
と、涙目になるアルル。
兄弟子の配下はクロエがなんとか互角以上に渡り合っていたそうだが、アルルがあっさりと敗北すると、魔法のサポートを受けた配下たちに負けてしまったようだ。
これ以上の抗戦は無意味だと降伏したとのこと。
賢明な判断であった。
アルルの兄弟子は妹弟子を尾行するというこすい真似をする人物であったが、卑怯者ではないようだ。
むしろ、自意識過剰なナルシストタイプだろうか。
男のくせに長髪をなびかせ、ブランドもののローブを羽織っている。
その兄弟子は、ふさっと自分の髪をかき上げると、きざったらしい口調でこう言った。
「やれやれ、凄腕の冒険者を雇ったという噂を耳にしたから、僕も警戒したけど、思いの外弱かったね。あっさりと捕まってくれた」
「弱いのはあんたの妹弟子だけだよ。クロエは健闘した」
「たしかにこのメイド娘は手こずらせてくれた。もしもっと投降が遅かったら、彼女を傷つけてしまったかもしれない」
この陶器のような白い肌を傷つけるのは美に対する冒涜だ。
と、クロエの顎に手を添え、クロエを鑑賞する。
「もっとも、僕よりも美しい存在などこの世に存在しないけどね」
まったく、ナルシストの境地だ。
そう思ったので言ってやった。
「そうか。クロエが早く投降してくれて助かった」
「どういう意味だ?」
「お前を殺さずに済んだ。もしもクロエに傷ひとつ付けていたら、お前は五体満足ではいられなかったぞ」
「なるほど、ならばあなたは1対6、それも人質を取られている状況で戦うと」
「お前みたいなナルシストなやつなら人質を盾にしたりしないだろう」
「僕の気性をよくおわかりで」
クロエの兄弟子。ナルシスト野郎、デガルトはそういうと手を上げた。
仲間たちが腰から剣を抜いたり、魔法の詠唱準備に入る。
娘はぎゅっと俺のと手を握りしめると、
「お父さんがんばってね」
と、数歩あとずさった。
自分が足手まといになるという自覚があるのだろう。
心配そうにこちらを見ている。
俺はその表情をみるとむかっとした。
娘に対してではなく、デガルトに対してである。
娘にこんな表情をさせたこの男は万死に値するだろう。無論、命までは奪うつもりはないが、相応の報いは受けて貰うつもりだった。




