つかの間の休憩
このように俺たちは次々とダンジョンを攻略して、階層を下っていった。
最初こそ不運にも強力なモンスターに襲われたが、第3階層以降はとても穏やかな旅程となった。
フィオナとクロエが当初望んだピクニックになりつつあった。
道中、クロエは切り株がある場所を見つけると、そこにテーブルクロスを広げ、ランチボックスを広げ始めた。
迷宮に入ってからは、乾パンと干し肉ばかりだったので、そろそろ火が通ったものが食べたいでしょう、と俺たちに言ってきた。
「うん、食べたい」
「僭越ながらワタシも同意です」
「まあ、食べたいかな」
俺たち三人はそれぞれに同意すると、クロエのはそのまま料理支度を始めた。
フィオナはそのお手伝いをしている。
「良くできたお子さんです」
と、アルルは褒めるが、その通りなので同意すらしなかった。
代わりにアルルに尋ねる。
「さて、アルルよ。ここまできたのだからネタ晴らしをしてしまうが、君は気がついているか? 俺たちが付けらていることに」
「もちろん、さすがにそこまで鈍感ではないですよ。そうですね、ひいふうみい、うん、6人くらいの冒険者がワタシたちの後ろについていますね」
「心当たりはあるか?」
「たくさんあります」
「なるほど、敵が多い性格なんだな」
「まさか、これでもコンラッド様の弟子のなかではフレンドリーで親しみやすいのが売りだったんですよ。他人様に羨まれるようなことはありません」
「たしかにうっとうしいまでに人なつこいというか、図々しいものな」
失敬な、と反論するアルルだが、尾行している人物たちを説明してくれる。
「たぶんですが、彼らは兄弟子が雇った冒険者たちでしょう。兄弟子もあの地図の秘密に気がついたようです」
「なるほど、だからこうして尾行されているわけか」
「大方、ワタシが見つけた秘宝を横取りして、功績を自分のものにするつもりなのです。姑息な兄弟子の考えそうなことです」
「たしかに姑息だが、悠然としているな」
「ええ、わたしには賢者カイトさんが付いていますからね。カイトさんならば兄弟子をぼこぼこにしてくれるはずです」
「俺の依頼は秘宝を見つけ出すことであって、弟子同士の喧嘩の手伝いはしないぞ」
「そ、そんなご無体な。向こうは6人がかりなんですよ。カイトさんの助力がないと、わたしがぎゃふんと言うはめになります」
「まあ、襲いかかってきたら、火の粉は振り払うが、兄弟子の方は一対一で戦え。コンラッド殿は最高の弟子に遺産を継承させたいのだろう? 兄弟子一人に勝てないものにそんな資格はない」
そう言い切ると、俺はフィオナの声を聞く。
「お父さーん!、ご飯の用意ができたよ」
娘のはずんだ声とともにシチューの良い香りが鼻腔をくすぐる。
途端、食欲が湧き、胃の動きが活発になる。
「さて、アルルよ、腹が減ってはいくさはできぬだ。メシでも食って決戦に備えるんだな」
軽く肩を叩くと、アルルはしょんぼりとした顔で付いてきた。
「ワタシが負けたら、カイトさんは報酬が貰えないんですからね」
「そのときは報酬代わりに秘宝を頂くよ。大賢者コンラッドの隠し財産の方が価値があるかもしれない」
「ひ、ひどい、裏切る気ですか」
「労働の対価を貰うだけだ」
そう冗談めかして言うと、俺は切り株に座り、娘とメイドの作ったシチューを口に運んだ。
道中、退治した大猪のもも肉のシチューだ。
臭みがなく、出汁もたっぷり出ており、食が進む。
俺と娘はお代わりをしたが、アルルは半分も食べていなかった。
脳天気な女だと思ったが、結構繊細なところもあるようだ。
さて、こうして旅を続けた俺たち、なんとか第7階層に到達する。
第7階層には古代の大きな寺院がある。
そこに大魔導師コンラッドの秘宝が隠されているのだろう。
俺はそう推測した。
「その根拠は?」
アルルは尋ねてくる。
「大魔導師コンラッドの秘宝だ。地中に隠せば魔力探知で見つけられてしまう。俺がコンラッドなら寺院の中に隠すと思ったからだ」
「なるほど、道理です」
「木を隠すなら森というやつだね」
うんうん、とフィオナは大人びたことわざを用いて表す。先日教えたのでさっそく使いたかったのだろう。
娘のドヤ顔は少し可愛い。
「さて、問題なのは寺院にあることは察することができるのだけど、寺院のどこなのだろう、ということだ」
「この寺院、滅茶苦茶大きいもんね」
伯母樣の家の10倍はあるの、とフィオナは身体と足を広げ大きさを表現している。
10倍どころではなく、20倍はあるであろうか。
部屋の数は一体いくつあるのだろう。
そしてどこに隠されているのだろう。
一同は巨大な寺院を見やると、ため息をついた。
「まあ、ここまでくればあとは探すだけだ。手分けをして探すぞ」
「散会して探すのですか?」
「これだけ広いとそうした方が効率的だろう」
「ですが、危険なのではないですか?」
「寺院は聖なる力で加護されている。モンスターはでないよ」
「ですが、クロエたちを付けている不届きものがいます」
「なんだ、クロエも気がついていたのか」
「当然です。クロエの探知センサーは高性能なんですよ」
「まあ、付けられているが、まだ秘宝は見つけていない。襲いかかってくるとしたら秘宝を見つけたあとだろう」
ただ、と続ける。
「娘を人質に取られたらたまらない。グループ分けは、俺とフィオナチーム、それにクロエとアルルチームだ」
「それはワタシならば人質に取られてもいいということですか?」
アルルは避難の声を上げるが、そうだよ、とは肯定しない。
「まあ、アルルは第5階級の魔術師だ。クロエは並みのメイドじゃない。二人を同時に捕縛するなんて不可能に近いよ」
そう言い切ると、パンパンと手を叩き、行動をうながした。
「早いとこ秘宝を見つけよう。見つけたら魔法で合図するように」
そう言い残すと、俺は娘の手を握り、寺院の散策を始めた。
その後ろ姿を見ながらアルルは恨みがましく言う。
「もしもワタシたちが捕まったら、末代まで恨みますからね」
「賢者を舐めるな。そのときは《除霊》の魔法で成仏させてやるよ」
「まあ、冗談ですよ。この魔術師アルルさんが簡単に捕まるわけがありません。もしも、兄弟子が襲ってきたら、縄で縛り上げてぎゃふんと言わせてやりますよ」
「期待しているよ」
背中越しにそう言うと、俺と娘は寺院の二階へと向かった。




