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馬車の中でカードゲーム

 そのようにして旅支度を終えると、俺たち一行は馬車を手配する。

 最初は学院に馬車を借りようかと思ったが、それはさすがにできなかった。

 カリーニン学院長には最大限便宜を図って貰っている。

 これ以上の要求は俺の立場はもちろん、彼の立場も悪くするだろう。

 それは避けたかった。


「ならば我が家で手配しますか?」


 と、渋面を向けたのはクロエだった。

 昨今、我が家の家計は火の車である。

 教師の給料はそれほど高くなかったし、さる事情で貯金も使えない。

 また俺が研究費の抑制をしないものだから、貯蓄などあまりない。


 それでも馬車を借りるくらいの金は捻出できるそうだが、我が家の財務大臣はあまり良い顔をしていない

 そんな雰囲気を察したのだろうか、賢明な娘は提案をしてくれる。


「イスマの家の馬車を借りればいいの」


 と、娘は言い放つ。


「イスマの家の馬車? イスマの家にはそんなものがあるのか」


 と言ったが、すぐにとあることに気がつく。


「まあ、当然あるか。この前、イスマを送り届けたとき、感心するくらい立派な家に住んでたものな」


 イスマの実家は侯爵家。

 他の生徒のように寮に住まうのではなく、学院の近くの屋敷に住んでいる。

 別宅であの規模の屋敷なのだから、馬車くらい持っているだろう。


「たしかに名案だ」


 娘の案に感心した俺はイスマに馬車を借りにいった。

 無論、イスマは快く引き受けてくれた。

 屋敷でイスマの世話役係、兼、執事の男性と会う。


「どうかイスマ様をよしなにお願いします」


 と、深々と頭を下げられた。


 なんでも幼少のころからイスマに執事として仕え、世話役と守り役を兼ねているらしい。


「イスマ様は微妙なお立場にいるのです。最愛の母上を亡くされ、孤立無援で一族のものに付け狙われているのです」


 と、事情を説明してくれた。


 誰が犯人かまでは目星がついていないようだが、『お嬢様』であるイスマを守りたい気持ちに偽りはないようだ。


 快く馬車を貸してくれた上に、馬車を引く馬は公都でもなかなかお目に掛からない駿馬を用意してくれた。


 それに道中の路銀、僅かばかりの心付けも。


 路銀はともかく、謝礼は断ろうかと思ったが、我が家の財務大臣は断る暇もなく謝礼を受取る。


 ちらり、と銀髪の守銭奴を見たが、彼女はすました顔でこう言うだけだった。


「我が家の家計はピンチなのです。御礼をしてくれる人にはたかる、それがシーモア流魔術の極意なのでしょう?」


 と、言い放った。


 前はろくでもないと言い放ったくせに、この変わり身はどうかと思ったが、たしかに貰えるものは貰っておくべきだろう。


 俺は執事に礼を言うと、イスマを馬車に乗せ、学院に向かった。

 そこでハーモニアを乗せ、そのまま帝国に旅立つのである。

ハーモニアが乗り込むと、馬車は華やかになった。

 いや、かしましくだろうか。

 女が三人揃えばかしましいという言葉があるがそれは事実だった。



 フィオナはまだまだ子供であるがそれでも女、

 ハーモニアは純然たる女の子だったし、

 イスマもその姿も内面も女の子のようなところがある。



 それになにより、機械仕掛けの少女も女性にカウントすると、かしましいどころの騒ぎではない。


 この狭い馬車の中で男は俺ただ一人。

 圧倒的少数派だった。

 仕方ないので揺れる馬車の中、錬金術の本を開く。

 数百年ほど前に惚れ薬を作った偉大な賢者の著書である。

 俺はその本にくまなく目を通す。


 異性を惚れさせるという難事を成し遂げたのだから、女性を黙らせる秘薬くらい開発していないかと思ったのだ。


 目を皿のようにして隅々まで索引したが、そのような秘術はどこにも記載されていなかった。


「歴史に残るような偉大な賢者でも女性を黙らせることは不可能か」


 騒々しい娘たちが4人、思い思いに口を動かす中、そんなことを思った。





 帝都への道のりは順調であった。


帝都と共和国の国境線は、いつ戦争が始まってもおかしくないくらいに緊張していたが、リーングラード公国の治安は比較的安定していた。


 それは公国の豊かさと平和を象徴している。

 なので公都の街道沿いで盗賊や魔物に襲われる心配はないだろう。

 また帝国内でも街道沿いの治安は安定している。

 よほどのことがない限りは魔物と出くわすことはない。

 軍や護民官、自警団などが巡回しており、治安維持に務めているからだ。


 むしろ、巡回中の彼らと出くわし、通行手形の提出や旅の目的を尋ねられる方がわずらわしかった。


 男が一人に、メイド服を着た機械人形が一体。

 残りは学生服を着た少女たち。

 見ようによっては人買いとその一行に見えなくもない。


 俺が奴隷商人で、クロエがその小間使い、フィオナたちが商品といったところだろうか。


 話しかけてきた治安維持騎士団や地域の護民官たちはそう俺を疑った。

 無論、それは誤解であるし、学院長に発行して貰った通行手形を見せるとすぐに嫌疑は晴れるのだが、公国を出る前に三度も声をかけられ、三度とも奴隷商人扱いされるのはなんとも言いがたい気分だった。


 クロエは言う。


「あるじ様はあやしげなところがありますからね。得も言われぬ不審人物感を出しています」


「失礼なメイドだな」


「オーラがある、ということですよ。ただものではない、ということです」


「フォローになってないが。まあ、疑われるのもしょうがないよな。この時期、こんな場所に、女子供だけ引き連れて移動しているんだ。俺が護民官でも真っ先に疑うよ」


「ですね。だけど、あるじ様は疑っても面倒なのでそのまま素通りさせてしまいそうです」


 ありえそうだったので、沈黙しようとしたが、一応、

「給料分は働くよ」

 と、弁明しておくと、馬車の後ろでトランプゲームをしている少女たちを見た。


「俺の人相はともかく、こんな可愛い子たちを馬車の荷台に積んで移動しているんだ。疑われても文句は言えないかもな」


「ですね。完全に人買いです」


 見ればフィオナたちはばば抜きをやっているようだ。

 単純なゲームであるが、子供たちは夢中になっている。


「俺ははったりを噛ませるポーカーとか、戦略性があるゲームが好きなんだが」


「フィオナ様たちにギャンブルは教えないでくださいましね」


「分かっているよ。あくまで個人的な嗜好だ」


 そう言うと、ばば抜きをしている少女たちを見る。


 フィオナは分かりやすい。


 ハーモニアやイスマがジョーカーに手をかけると明らかに喜び、別のカードに手を伸ばすと肩を落とす。


 こんなに表情が顔に出る娘にポーカーを教えればカモにされるだけだろう。

 根っからの善人にして素直なフィオナに駆け引きの必要なゲームは向かない。


 ハーモニアは結構な策士で、ジョーカーだけ目立つようにカードの束から一枚だけ突出させたり、それが通じなくなると、その横に置いたりと、駆け引きや策略にも通じているようだ。


 一方、イスマは駆け引きや策略は用いず、純粋にゲームを楽しんでいる。


 ジョーカーを引こうが負けようが、友達とゲームができること自体が楽しいようで、ころころと笑いながらカードと睨めっこをしていた。


 彼女たちの姿は見ているだけで心地よい。

 そんな娘たちの姿を見ながら、馬車の馭者役をクロエと交代した。


「あるじ様、クロエは機械人形です。疲れを知りませんが」


「気分転換だよ。たまには馬に鞭を叩くのも悪くない」


 というと、クロエにも彼女たちの輪に入るようにうながした。

クロエは言われるがままに娘たちのところに向かった。

 彼女もばば抜きに加わる。

 クロエは機械人形だ。


 児戯にも等しいカードゲームが楽しいかは分からないが、それでも娘たちは喜んでくれている。


 それにいくら疲れないといってもずっと馬車の操車を任せるのは酷であろう。


 そう思って交代したのだが、見目麗しい少女たちと、機械人形がほのぼのとカードゲームに興じる様はなかなか絵になった。


 背中越しに聞こえる彼女たちの笑い声は、心地よい響きだった。

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