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偶然出逢った

 俺は堂々とハーモニアとともに娘のところに向かった。

 無論、ハーモニアと口裏は合わせてある。



「実験用のキノコの採取にきたら、偶然出会った」



 そんなところでどうでしょう? というのはハーモニアの提案であった。

 さすがに都合が良すぎるのでは、と思ったが、ハーモニアは言う。


「フィオナの純真さを甘く見ないでください。先生の言うことならばなんでも信じますよ」


 とのことだったが、その言葉は正しかった。

 フィオナはなんの疑いもなく信じてくれた。


「すごい。こんな偶然ってあるものなんだね」

 

 と、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 聖霊様のご加護だ、と喜んでいた。


「…………」


 我が娘ながら人を疑うということを知らない娘だ。そう思ったが、この際、それは問わない。

 なにげなく娘に接触し、新しくできた友人イスマと話すことができればそれでいいのだ。

 俺は視線をイスマに送った。

 イスマは伏し目がちに目をそらし、もじもじとしている。

 まるで人見知りが激しい女の子のようだ。

 というか、どこからどう見ても男子には見えない。本当に男の子なのだろうか。

 そう思っていると、娘がその視線に気がつき、イスマを紹介してくれた。


「そうだ。お父さんに紹介したい子がいるの」


 フィオナはそう言うと恥ずかしがっているイスマの手を握る。


「この子はイスマイール・フォン・グラニッツ。最近、仲良くなった友達だよ」


 名前はもちろん、知っていた。その出自も経歴もおおよそ把握していたので今さらなような気もするが、俺は娘の父親という態度を崩さなかった。


「はじめまして、かな。イスマイール。俺の名はカイト。この学院で教師をしている。おひつじ座組を担当している」


「……知っています。何度か校内で見かけましたし」


 か細い声だ。声質も女の子そのものだった。

 ただ、この容姿で男のような野太い声だと逆に違和感を覚えるかもしれない。


「それに先生は学院の有名人です。先日、狂信者の襲撃から学院を救ってくれました」


「別に俺だけの手柄じゃない。それに生徒を守るのは教師の務め。当然のことをしたまでさ」


 ことさら功を誇るつもりなどさらさらない。

 給料分の働きをしたまでだった。


 教師としては三流の自覚がある。その分、魔術師として働いて穴埋めをしたと思えば釣り合いが取れる。


 そう説明すると、イスマは初めて笑顔を浮かべた。


「なにがそんなにおかしいんだ?」


 思わず尋ねるが、イスマは答えてくれる。


「やっぱり、噂通りの先生なんだな、そう思ったんです」


「あまり良い噂は流れていないだろう」


「僕の担任の先生はカイト先生の悪口を言っていますが、クラスメイトは先生を慕っていますよ。先日の一件で助けられた生徒もいます。それに先生のクラスからはいつも楽しそうな笑い声が聞こえます。みんな、おひつじ座組が良かったと嘆いています」


 だから担任教師はカイト先生のことが嫌いなんでしょうけど、と付け加えた。


「道理だな」


 いつの時代も生徒に人気のある先生は同僚に妬まれるものだ。

 俺が学生時代もそうだった。

 そのことを聞いても別に痛くもかゆくもなかったので、無視をする。

 そんなことよりも聞きたいことが山ほどあったからだ。

 このイスマイール少年は、娘のことをどう思っているのだろうか。

 その見た目とは裏腹に異性が好きなのだろうか。

 それとも普通の性癖の持ち主なのだろうか。

 婚約者がいるらしいが、その婚約者とは上手くやっているのだろうか。

 その婚約者とはいつ結婚するのだろうか。

 聞きたいことは山ほどあったが、俺はそれらを一言で集約した。



「イスマ。君はうちの娘のことをどう思っているんだ」



 そう尋ねたが、イスマの返した答えは、俺を戸惑わせる。


 今まで怯えた表情、あるいは戸惑った表情しか見せない少年であったが、少年は初めて朗らかな笑顔を浮かべながら言った。



「大好きです!」

 と――。


 一瞬戸惑った俺だが、すぐに安堵の表情へと変わる。

 その笑顔が恋する少年のものではないと悟ったからだ。

 イスマは純粋に友達としてフィオナを欲しているようだった。

 にこやかに微笑むイスマとフィオナからは恋だとか愛という要素は感じない。

 ただただ、互いに思い合う『同性』の友人にしか見えなかった。

 

 容姿がどうだとか、その気質がどうだとか、そんなものは関係なく、二人が教会の前で愛を誓い合う姿は想像できない。


 なぜだかそう感じた俺は、一瞬でイスマに対する敵愾心(てきがいしん)を失った。

 いや、むしろ、彼に好意を持つようになった。

 娘のことを好きになる人間に悪いやつはいない。

 先ほどまであったはらはら感もなくなった俺は、イスマに握手を求める。

 これからもどうか、娘の友達でいてくれ、そういった気持ちを込めて。

 大人から、教師から手を差し出されることになれていないのだろう。

 イスマは最初、戸惑った表情を浮かべたが、最終的には手を差し出してくれた。

 その小さな手を握りしめる。

 力強くだ。

 信頼は力強い握手から生まれる。

 千年生きた賢者の結論がそれだった。

 イスマの力は弱々しかったが、それでも全力を込めてくれているのは分かる。

 こうして俺とイスマの間に親交が芽生えたわけだが、ひとつだけ気になったことがある。

 この子、本当に男の子なのだろうか?


 そのぷにぷにとした手、か細い指、白雪のような肌の色、絹のような肌触り、とても男だとは思えなかった。


 ある意味、フィオナやハーモニアよりも女の子女の子していた。


 思わずスカートをめくって雌雄(しゆう)をたしかめたくなったが、かろうじて思いとどまると、俺も少年にならって同じ台詞を発した。


「奇遇だな。俺も娘が大好きなんだ。気が合いそうだ」


 そう言うとイスマはにこやかに微笑み返してくれた。

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