表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/130

フィオナの日常

 いつもよりめかし込んだ娘の姿を後ろから見守る。

 相も変わらず天使のように可愛らしい。


 男友達の有無よりも、まずは人さらいの心配をしなければいけないのかもしれない。


 娘に近づく不審人物を注意深く観察する。

 娘は軽やかな足取りで学院に向かうが、道中、老婆に話しかけられた。

 娘をかどわかそうとする人買いの手先だろうか。

 思わず右手に魔力が籠もるが、違うようだ。

 老婆はフィオナに道を尋ねている。

 どうやら近くにある聖教会の分教会に用事があるらしい。

 フィオナは懇切丁寧に老婆に道を教えた。


 いや、それどころか、親切心全開で、老婆の荷物を持ち、分教会まで案内を始めた。


 娘は老婆の持っていた重い荷物を両手で抱えながら、案内している。


 娘は分教会に着くと、

「おばあさん、ここが分教会だよ」

 と満面の笑みを浮かべた。


 老婆も笑みを返し、

「優しくて親切な娘だねえ。うちの孫に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいよ」

 と言った。


 なかなかの慧眼(けいがん)を持った老婆であるが、老婆は御礼にと娘に林檎を渡した。


 一応、知らない人にものを貰っては駄目、と教育してあるが、娘はどう対処するであろうか。


 観察してみる。

 娘は、自己紹介をすることで老婆の親切心を受取ることにしたようだ。


「わたし、リーングラード魔術学校に通っているフィオナといいます」


 朗らかな笑顔で自己紹介をした。

 老婆も自分の名を明かす。

 これで『知り合い』になったわけだ。

 フィオナは林檎を受取ると、ぺこりと頭を下げ、もとの道へ戻っていった。


 老婆は手を振りながら、

「フィオナちゃんに神の祝福があらんことを――」

 と祈りを捧げた。


 これで本道に戻り、学院に到着すると思ったが、そうはいかないのが我が娘。


 根っからの巻き込まれ体質というか、善人というか、困った人を見捨てられないタイプのようだ。


 フィオナは眼鏡を無くして困っている老人を見つけると一緒に探してあげていた。


 およそ30分、老人と一緒に眼鏡を探すがなかなか見つからない。


 老人でさえ、


「ありがとう、おじょうちゃん、これだけ探しても見つからないということはもう誰かに拾われたか、どこか違う場所に落としたのだろう」


 と諦めていたが、それでも娘は、


「眼鏡は大切なものです。なんとか見つけないと」


 と、捜索をやめなかった。


 その姿とやる気満々の表情をみて、俺は呆れると同時に納得した。

 時折、娘が門限ギリギリに帰ってくるのはこういうことだったのか、と。

 困っている人を見つけて人助けをしていれば、時間がいくらあっても足りない。

 懐から懐中時計を取り出す。

 約束の時間だと思われる時刻をだいぶ過ぎていた。

 見かねた俺は、呪文を詠唱する。

 上空で円を描くように旋回している鷹に目を付けると、鷹の視界を借りる。

 鷹の目は、数百メートル下で這いずり回るネズミのわずかな動きも見逃さない。

 レンズの放つ太陽光の反射も容易に確認することができた。


 老人のものと思われる眼鏡を見つけると、その場所を娘に伝えるため、小石に魔力を込め、指弾で石を飛ばす。



「かこん」



 という小気味が良い音が石畳に響き渡る。

 その音に気がついた娘はそちらの方に振り向くと、きらんと眼鏡が光る。


 ちょっとわざとらしすぎる演出かな、自分でもそう思ったが、フィオナは素直に眼鏡が見つかったことを喜んでいるようだった。


「おじいさん、眼鏡が見つかったよ!」


 と、見知らぬじいさんと小躍りをしている。


「いや、これはありがたい。お嬢ちゃん、眼鏡がないとなにも見えないし、ワシのような年寄りには眼鏡は貴重なものだ。本当に助かる」


 なにか御礼を――、と老人は胸から財布を取り出すが、フィオナは両手を突き出し、断る。


「だめです。お父さんが知らない人からお金は貰っちゃだめだって」


 と、ぶるんぶるんと首を横に振りながら、御礼を断る。


 老人はそれでもフィオナに御礼をしようとするが、娘はかたくなに断ると、「それじゃあ、あっちに分教会があるのでそこに寄付してください」という折衷案を出した。


 老人はその案に感心する。

 というか俺もだ。


 老人は先ほどの老婆のように、


「良くできたお嬢ちゃんだ。きっと親御さんの教育が行き届いているのだろう」


 と、言い残し、教会に向かった。


 同感である、とは言わない。

 娘の心根が優しいのは生来のものだろう。


 たぶん、娘ならば俺以外の誰かに育てられてもこのような善良な娘に育ったに違いない。


 そんなふうに娘の行動を観察しながら、娘が目的地に到着するのを見守った。

 これ以上、余計なトラブルに巻き込まれないように祈りながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ