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はじめての友達 † (期間限定ラフ画公開中)

http://14615.mitemin.net/i248341/挿絵(By みてみん)


††(ハーモニア視点)


 その後、3時限目も副担任のエレン先生の『精霊魔法講座』だった。


 4時限目は『精霊魔法概略』だった。


 5時限目が『精霊魔法の歴史』にならなかったのは、単にその日の授業日程が短縮設定で、5時限目以降が存在しなかったからに過ぎない。


 と、ハーモニアは考察していた。

 まったく、とんでもない教師が担任になったものである。

 ハーモニアは思わずため息をついた。

 ハーモニアがこの学院に入学した理由は、魔術の真理を解明するためである。

 魔術を極め、その力で弱き人々を救うため、魔術師を志したのだ。

 祖父のように立派な魔術師となり、その力を社会に役立てたかった。

 ゆえに魔術師の最高学府に入学することを志したのだ。

 幼き頃から研鑽を重ね、血の滲むような努力を重ね、なんとか入学してみれば、この有様である。


 精霊魔法は魔術のひとつではあるが、エレン先生が説明したとおり、己の身に精霊力を宿していないと意味はない。


 ハーモニアは精霊魔法を極めるためにこの学院に入学したわけではないのだ。

 錬金術師になるためにこの学院にやってきたわけではない。



「ああ、神様は私を見放したのかしら……」



 思わず吐息が出る。

 この学院は3回生までは担任制で、それも不動のものとなる。

 つまり、3年間はあの無責任でやる気のない魔術師カイトを師と仰がなければならないのだ。

 そう考えると頭痛がしてくる。


「自習はたしかに生徒も楽だし、自主性を尊重してくれるのはいいけど、今、楽をすると、4年後、4回生となったとき、単位制になったとき、他のクラスの子たちと大きな差が開きそう」


 実際、カイトの授業放棄はだけ初日だけでなく、その後一週間続いた。

 副担任のエレン先生任せか、エレン先生が不在のときは自習となった。


 きまぐれに授業をする日もあったが、そのときも錬金術関連のテキストを渡され、


「錬金術は素晴らしいぞ」


 と、魔術師でなく、錬金術師になるよう啓蒙(けいもう)された。


 楽をしたい子たちからはすこぶる評判が良かったが、ハーモニアのように己の魔術を高めるために入学した生徒からはものすごく評判が悪かった。


 ハーモニアは一回、カイトに不満を持つ生徒を集め、学院長に直訴をしたが、あのとぼけたおじいさんには暖簾に腕押しだった。


「まあ、どんなにできが悪くても3回生までは放校にならない。3年間、あの青年の指導に従うのも悪くはない。たしかにあの青年は無気力に見えるかもしれないが、それでも無責任な男ではない。君たちが困っていれば救いの手をさしのべてくれるだろう」


「今現在、授業をしてくれなくて困っているのですが」


 と苦情を述べても無駄だった。


「世の中には反面教師という言葉もある。師が無能ならばその姿を見て弟子も育つであろう。諸君らの奮闘を期待する」


 と、かわされるだけであった。

 その言葉で諦めた他の子たちは、自分の運命を受け入れ、自主的に勉強に集中を始めた。


 元々、このクラスは筆記試験の成績は良いが、魔力素養の低い子が集められているらしく、勉強に関しては問題のない生徒が多かった。


 あるいはもしかしたら、あの学院長はそのことを見越してそういった配置をしているのかもしれない。

 そう思い込むしかなかった。



 正直、最悪の学院生活がスタートしたわけであるが、救いがないわけでもなかった。

 この学院にきて、初めて友達ができたのである。

 ハーモニアは極々普通の魔術師の家系に生まれた。


 曾祖父の代は帝国の名門貴族に連なる一族だったらしいが、この世界では魔術師は貴族になれない。ゆえに父親が魔術師ならば必然的に平民となる。


 もっとも何代も魔術師を続けているということは、その一族には才能があり、才能があるということは、それなりの役職に付けるということで、ハーモニアの家は比較的に裕福だった。


 ただ、この魔術学院にはそれ以上に裕福な家の娘も多い。


 爵位や領地を継げない貴族の三男坊や四男坊、あるいは将来の婚姻のため、有力な魔術師の妻にするため、取りあえず魔術学院に娘を入れておけ、という金持ちが多いからだ。


 ゆえに魔術師の家としては極々平凡な収入しかないハーモニアは彼ら彼女らと話が合うこともなく、友人作りに難儀していた。


 修学初日に担任教師に食ってかかり、徒党を組んで学院長に直訴するという気の強いハーモニアをトラブルメーカーと見なし、忌避されているのかもしれない。


 そう思っていたところに現れたのが彼女だった。

 ハーモニアはいつものように学食で購入したサンドウィッチと牛乳を学院の中庭で食べていた。


 学院生活も始まり、数週間が経過すると、自然と仲の良いグループができあがり、中庭で食事をするのもはばかれるようになってくるのだが、ハーモニアは気にすることもなく、黙々とサンドウィッチを口に運び、牛乳を流し込む。


 時折、教科書に目を通す。それを交互に繰り返していた。


 昼食の最中も勉強をやめない。その堅苦しさが友人を遠ざける要素になっているのは疑いなかったが、それでも構わないと思っていた。


 彼女に出逢うまでは、であるが。

 二つ目のサンドウィッチを口に運んだとき、彼女はハーモニアに話しかけてきた。


「ハーモニアさん、一緒にご飯を食べてもいい?」


 ひとり、中庭のベンチの一角を占領していたハーモニアに声を掛けてきたのは、彼女が初めてだった。

 彼女はなんの偏見や予断も持たない、さわやかな笑顔でそう語りかけてきた。


 その屈託のない笑顔と、太陽に照らされる金色の髪が相まってか、最初は天使が話しかけてきたのか、そう思った。


 しかし、彼女が天使でないことはすぐに分かった。

 頭には天使の輪っかもなかったし、背中には翼もない。

 あるのは人なつっこい笑顔だけだった。

 彼女の名はフィオナ、といっただろうか。

 件の無責任教師の娘である。

 入学初日の挨拶でその名を知っていたが、それだけの関係だった。


 ハーモニアのように友人を遠ざけるようなタイプの生徒ではなく、人との間に壁を作らない性格で、入学初日にはすでにクラス内で友達を作っているような生徒だ。


 ハーモニアの目から見れば、その無邪気さは幼年学校の生徒のように幼く見えたが、ただ、その素直で可愛らしい性格はハーモニアには足りないもので、羨ましい気持ちで見ている側面もある。


 そんな彼女が話しかけてくれるというのは、ある意味必然なのかもしれない。

 彼女はクラスで孤立している子を見過ごせないタイプのように見えた。


ハーモニアは無言でベンチの隣を開ける。筆記用具やサンドウィッチの包みを片付けると、ベンチの隅に移動し、もう一人座れるスペースを作る。


 それを見て了承と見なしたのだろう。彼女はハーモニアの隣に座った。

 ふわり、と学院指定の制服のスカートが舞う。

 彼女の髪の毛から芳しい香料の匂いがしたような気がした。

 そんな彼女に気を取られていると、彼女は小脇に抱えた包みから、何かを取り出す。

 彼女もサンドウィッチを食べるようだ。


 ただ、同じサンドウィッチでもハーモニアが食べているような学食の安っぽいものではなく、明らかに手作りで手の込んでいる美味しそうなものだった。


 彼女はハーモニアの視線が気になったのか、説明をする。


「これはクロエが作ってくれたの。クラブ・サンドウィッチっていうんだって」


「クロエ?」


「わたしの家のメイドさん」


 とフィオナは補足してくれる。


「あなた、メイドさんがいるの? もしかして貴族のお嬢様かなにか?」


「ううん、お父さんは普通の魔術師。いや、すごい魔術師だけど、特別にお金持ちじゃないよ。むしろ、研究にばっかりお金を使って、クロエによく怒られている」


「でも、お弁当は豪勢ね。クラブ・サンドウィッチに、スープや副菜まである」


 見れば豪華なのはサンドウィッチだけではない。


 スープは冷めないよう魔法瓶に入れられているし、副菜も手作りでとても美味しそうであった。どれらも高級食材が添えられているわけではないが、一品一品に愛情が込められているのはすぐに分かる。


 スープは煮込料理、副菜も時間と手間の掛かる調理法のものであった。

 これを準備するには、朝5時くらいに起きて支度をしなければならない。


 クロエなるメイドがどのような人物かは知らないが、金で雇われただけのメイドならば、そのような手間の掛かることはしないだろう。


 正直、羨ましかった。

 ハーモニアには父親も母親もいない。


 無論、ハーモニアは、ホムンクルスでもなければ、コウノトリが運んできた子供でもないので、血統上の父親と母親は存在したが、面識はない。


 ハーモニアが生まれてすぐに死んでしまったからだ。


 その後、祖父に引き取られ、祖父の雇ったメイドに育てられたわけであるが、彼女は給料分以上の仕事は絶対にしないタイプの女性だった。


 とくに珍しいタイプのメイドではなく、また陰険なメイドでもなく、それが極々普通のメイドだった。彼女のメイド、クロエのように愛情や真心を持って接してくれるメイドの方が珍しいのだ。


 そんなふうに金髪の少女の持っている弁当を見つめ、彼女の境遇を推察していると、彼女は唐突にくちを開いた。


「良かったらハーモニアさんも食べますか?」


 と、彼女は、クラブ・サンドウッィチのひとつをこちらに差し出してくる。


「美味しいですよ」


 という言葉と共に。

 ハーモニアは軽く赤面する。物欲しげな目で見てしまっていたのだろうか。

 ならば恥ずかしい真似をしていたものである。


 彼女の食べているサンドウィッチは学食のものよりも遙かに美味しそうに見えたが、ハーモニアが羨ましく思ったのは、愛情一杯の環境で育っている彼女の境遇であった。


 無論、ハーモニアの祖父は愛情を持って自分を育ててくれたが、ハーモニアには彼女のように愛情深く接してくれるメイドも両親もいなかった。


 少なくともフィオナは幸せな家庭を持っている。それが羨ましかったのだが、無論、口に出してはいえない。


 ハーモニアはそれを隠すため、フィオナのサンドウィッチの相伴(しょうばん)に預かることにした。


「でも、そんなには食べられないから、私のサンドウィッチと交換しましょう」


「そうだね! わたし、一度、学食のサンドウィッチも食べたかったんだ。でも、お父さんが学食のは不味いし、栄養も偏ってるから駄目だって買ってくれないの。けちんぼだよね」


「毎朝、そんな美味しいサンドウィッチを作ってくれる方が贅沢よ」


 ハーモニアはそう言い切ると、クロエの作ったサンドウィッチを口にした。

 やはり見た目どおりの味がした。


 幾重にも重ねられたハム、ちりばめられた小エビ、それに良質のマヨネーズを使ったそれは、学食で食べる味気ないサンドウィッチよりも遙かに美味しかった。


 また勧められた副菜も美味しく、栄養のバランスが考えられていた。


「とても美味しいわね。こんなのを毎日食べられるなんて贅沢だわ」


 軽く皮肉めいた言葉にもフィオナは正直に答えてくれる。


「……う、うん、改めてそう思ったよ。学食のサンドウィッチはあまり美味しくない。帰ったら、お父さんは正しかった。あとクロエに毎朝ありがとう! って御礼を言う」


「……正直な子ね。交換した食べ物をまずいと言い切るなんて」


「クロエの料理と比べてだよ」


 フィオナは慌てて否定する。


「でも、私は毎日これを食べてるのよ?」


「なら、毎日、わたしのサンドウィッチと交換しよう。そうすればハーモニアは半分だけ美味しいサンドウィッチが食べられる」


 フィオナがそう言い切ると、ハーモニアはどきり、と胸を脈打たされる。


(毎日交換するって、それはつまり友達になるってこと?)


 そう解釈するしかなかったが、事実、彼女はハーモニアと友人になりたい旨を伝えてくれる。


「わたし、ハーモニアさんと友達になりたいの」


 フィオナは己の意思を明確にする。

 ハーモニアはどうして? と問うた。


 自分のように気が強くて、なんでもくちにしてしまう少女を友達にするメリットがどこにあるのだろうか、そう尋ねた。


 その問いにもフィオナは、明瞭に、自信を持って答えてくれた。


「友達を作るのに理由なんていらないんだよ」


 彼女はそう断言すると、手を差し出してきた。

 友人になろう、という意思表示なのだろう。

 その手を握り返さない、という選択肢もあった。

 事実、ハーモニアとフィオナは、その環境も性格も正反対である。

 合わないことこの上ないかもしれない。

 それにフィオナの手には少々、マヨネーズが付いている。握り返すと自分の手にも付着するだろう。

 しかし、それでもハーモニアはその手を握りかえした。

 ここで手を握り返さなければ、一生後悔する。そう思ったからだ。


 後年、その選択は間違っていなかったことを知ることになるのだが、その話は今、するべきではなかった。


 さらに後日談として、その友人であるフィオナの父親の魅力に気がつき、ハーモニアの人生設計に大きな影響を与えるのだが、それについてもハーモニアは気がついていない。


 ともかく、ハーモニアはこの学院で終生の友人と、その父親と出会う。


 それはとても幸福なことであった。



 †



「へっくしょん!」


 自宅のリビングで寝そべりながら本を読んでいると、唐突にくしゃみが出た。

 その姿を見て、クロエは心配げに尋ねてくる。


「あるじ様、風邪でもひかれたのでしょうか?」


 不老は達成しても、風邪は根絶できていない。

 有り得る話であるが、幸いなことに体調は万全だった。


「ならば誰かがあるじ様の噂をしているのでしょう」


機械人形(オートマトン)のくせに迷信的だな」


 と、茶化したが、クロエはそれを無視すると、わたわたと慌てだした。


「きっと、どこかの女があるじ様のことを恋い焦がれながら、あるじ様の話をしているのです。悔しいです。機械人形三原則がなければ武力で解決したいです」


 物騒なことをいうメイドである。あとで機械人形三原則のひとつ、『人間を傷つけてはならない』がちゃんと作動しているかチェックする必要があるだろう。


「お前は主を過大評価しすぎだ。こんなおっさんがもてるものか」


「そんなことありませんよ。あるじ様はもてもてです。街を歩けば、妙齢の女性の五人に一人は振り返っていますよ。気がつかれませんか?」


「気にしたこともないね」


 興味なさげにそう返すと、クロエに今日の夕ご飯を豪勢にするように指示した。

 きょとんとするクロエ。


「ご指示とあれば従いますが、なにかいいことでもあったのでしょうか?」


「俺にではなく、なにか娘にいいことがある気がする」


「フィオナ様にですか? なにか連絡があったのですか?」


「ない」


「それではなぜ、分かるのですか?」


「親の勘かな」


 自分でそうつぶやいて、それこそ非科学的というか迷信の極地であると気がついたが、それは言葉にはせず、クロエが台所へ向かうのを見送った。


 数時間後、フィオナは幸せ一杯の顔で帰ってくる。

 俺は娘から友達ができた報告を受け、娘以上に喜ぶ。

 娘の喜びは俺の喜びでもあるのだ。

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