外伝 賢い賢者 (新作投稿記念SS)
なろうで新作を投稿しました。
日間ランキング上位の作品です。面白いので是非読んでいただけると嬉しいです。
悪役令嬢ものですが、恋愛要素は薄いtueeものなので男性でも面白いと思います。
下記のURLをクリックすると読めます。
鮮血の魔女の異名を待つイリスの屋敷にて――
「今日は私がフィオナをお風呂に入れる」
「娘をお風呂に入れるのは父親の仕事です」
「いいや、ここは伯母である私の出番だ」
「お風呂に入れなれている俺が一緒にはいるべきです」
上記は帝国随一の大賢者と千年の時を生きた賢者の会話である。
威厳もへったくれもない痴話げんかであるが、当人たちは真剣そのものであった。
ここ最近、フィオナをお風呂に入れる当番を巡って、師と弟子は暗闘を繰り広げていた。
師であるイリス・シーモアは、フィオナに甘いお菓子、それも口元や手がべたべたになるようなものを与え、お風呂に入れる口実を作った。
「仕方あるまい。このままだとアリが行列を作る。フィオナ、一緒にお風呂に入ってそのべたべたを取ろう」
と――。
フィオナの父親であるカイトは最初こそ笑って見過ごしたが、連日のようにお風呂当番を奪われると、ついに立ち上がり、師に刃向かうことにしたようだ。
「そもそも、フィオナは父親である俺と入りたがっているのです。師匠の出る幕はありません」
「女は女同士一緒にはいるのがいいのだ。男親は薪でも焚いていろ」
「師匠はフィオナを甘やかすから駄目です。ちゃんと肩まで湯船に付けて百まで数えさせないと」
「それは虐待だろう」
「教育です」
などと最初はある程度趣旨が通った口喧嘩だったのだが、その後の会話は魔術師らしい知的さも、賢者らしい威厳もなくなる。
「このロリコン賢者!」
「師匠と入ると師匠菌が付着して乳がでかくなる。性格も悪くなる」
「おまえのかーちゃんでべそ」
「一千二百歳以上さば読み魔女」
あげく、つかみ合いの喧嘩になりそうになったので、ここでクロエが仲裁に入る。
メイド服をまとった少女は両者に提案をする。
「ここはジャンケンで決着を付けてはいかがでしょうか?」
「ジャンケン?」
カイトとイリスは同時にそうつぶやき、クロエを見つめる。
「ええ、ふたりは大人です。いえ、賢者です。その死闘がエスカレートすればこの館は消し飛びましょう。それはフィオナさまも望まれないでしょう」
見れば騒ぎを聞きかけ付けたフィオナが柱の陰からこちらを見つめていた。
その瞳は潤んでおり、「なんでお父さんと伯母様は喧嘩しているの?」と悲しい表情に満ちあふれていた。
そんなフィオナの顔を見て喧嘩を続ける根性はカイトにもイリスにもないようだ。
ただ、それは表面上だけのことで、白黒は付けるようだ。
カイトとイリスはフィオナに近寄るとそれぞれ頭を撫でながら尋ねる。
「フィオナはどちらと一緒にお風呂に入りたい?」
優しげに尋ねるが、気迫がみなぎっている。フィオナは最初こそおどおどしていたが、イリスが棒付き飴を差し出しと、それを舐めながらにこりと言った。
「両方!」
その答えを聞いて、ふたりはうんざりとした顔をする。
フィオナには聞こえないように小声でささやき合う。
(今さら愚弟子と風呂に入るなどプライドがゆるさん)
(こっちもです。羞恥心で死にたくなります)
ならば、と、クロエの提案通り、ジャンケンをする。
しかし、千年賢者と鮮血の魔女のジャンケン、容易に決着はつかない。互いに魔法で心を読み合い、凡人には理解できない心理戦を繰り広げるからだ。
結局、決着をつけるのに三時間のときが必要だった。
三時間後、勝者であるカイトは幸せいっぱいの顔で娘の頭を撫でたが、娘の頭は湿っていた。
どうしてだろう? 思わずクロエの方を見るカイト。
すぐに答えは分かった。クロエの髪もまた濡れていた。
どうやらカイトとイリスが戦っている間に二人は一緒にお風呂に入っていたらしい。
この館で一番賢い賢者はもしかしたらクロエなのかもしれない、カイトはそう思った。
なろうで新作を投稿しました。
日間ランキング上位の作品です。面白いので是非読んでいただけると嬉しいです。
悪役令嬢ものですが、恋愛要素は薄いtueeものなので男性でも面白いと思います。
下記のURLをクリックすると読めます。