一休さん(もうひとつの昔話1)
将軍様から呼び出しを受けた、一休。
将軍様の屋敷まで来たところで、橋のたもとに「このはしわたるべからず」という立て札を見ます。
一休は橋の真ん中を歩いて渡りました。
将軍様が出迎えて言います。
「一休、しばらくぶりだのう。ワシとの知恵比べをおそれ、雲隠れしておったのだな」
「いいえ、将軍様。所用がございまして、しばしのおいとまをいただいておりました」
「ところで一休や。オヌシ、あいもかわらず知恵者だのう。だがな、橋の端にいた赤子を捨ておいてくるとは、たとえ知恵があろうと、人の道としてはあるまじき行いであるぞ」
「というのも、そこの屏風の虎が逃げ出して、赤子を食いでもしたらと思いまして。それであえて、ここには連れて参りませんでした」
「なら、心配にはおよばんぞ。オヌシがそう申すと思うてな、ワシも準備しておったのだ」
将軍様がポンポンと手をたたきます。
するとなんと。
屏風のすき間から、白黒模様の大きな獣が飛び出してきました。
「これはパンダと申してな、竹を食べるおとなしい生き物だ。なので赤子を食ったりはせんのだよ」
将軍様の命令によって、すぐさま赤子が連れてこられました。
パンダは赤子を抱いてあやし始めました。
「どうだ一休、参ったであろう」
将軍様がニタリと笑います。
「ですが、その白黒は赤子に乳をやれません。ですからこの一休、こういうこともあろうかと、このとおり牛の乳を持って参りました」
一休は懐から哺乳筒を取り出しました。
「いや、それにはおよばんぞ。赤子には、やはり人の乳が一番だ。して、このパンダの乳を与える」
「では、その白黒が人の乳を出すと?」
「まあ、見ておるがいい」
将軍様はパンダの背後にまわると、それからパンダの背中をなでるようにしました。
するとです。
パンダの背中がパカリと割れて、中から乳母が出てきました。
「将軍様、そろそろ授乳の時刻でございますね」
乳母がうやうやしく頭を下げます。
「しばしお待ちくだされ。授乳は、この一休におまかせ願えませんか」
一休は将軍様の前に進み出ました。
「で、だれの乳を飲ませるというのだな?」
「わたくし、一休めの乳でございます」
「オヌシ、乳が出ると申すのか?」
「はい、今は出るのでございます。実はわたくし、子の母でございますので」
「なんたるざれごとを! 知恵者の一休も、ついに知恵が尽きたようだな」
将軍様が勝ち誇ったように笑います。
「ざれごとなどではございませぬ」
「なら、赤子に乳を飲ませてみよ」
「では、これより」
一休は胸元を開くと、ポロリと豊満なオッパイを出して、赤子に授乳を始めたのでした。
目を丸くしている将軍様に……。
一休がニヤリとします。
「この一休、今は産休の身でございまして」