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夏季休暇にあたって

 2年生の前期も終わりに近づき、教室の話題はやはり夏期休暇のことへと移っています。試験も直近に控え、息抜きをする話題が持ち上がるのは当然のこととも思えます。

 水泳の授業では前回のように事件や騒ぎが起こることもなく、かといって私の泳ぎが格段に上手くなるわけでもなく、それでも1年生のときと比べると、プールの端から端まで泳ぐのにそれほど苦労もしなくて済みました。


「これもアーシャたちのおかげですね」


「そんなことないよ。ルーナが頑張ったからだよ」


 1年生のときには泳いだ経験が全くなかったのでそれから比べれば当然とも言えるのでしょうが、それでも嬉しいものは嬉しいですし、私の練習に付き合ってくださっているアーシャやクラスメイトの方には感謝の念が堪えません。


「ありがとうございます」


「いいのいいの。私たちも良いものを見せて貰ってるから」


 彼女たちの言う良いものの正体はわかりませんでしたが、私が泳いでいるの見ていてくださった皆さんがとても良い笑顔をされていたので、私も深くは追及しませんでした。






「今回は良かったね、ルーナ」


「ええ。本当に」


 夏季休暇前の試験当日、1年生の末にしっかりと主張していたので心配ないとは思っていましたが、因縁をつけられるようなこともなく、私は学院に入ってから初めて、とてもいい気分で試験に臨むことができました。

 試験にいい気分で臨むというのも、試験を楽しみにしているようで誤解されそうですが、のびのびと受けることができるというのはとても気持ちのいいものでした。

 前回まではもしかしたら、自分では気にしていないつもりでも、心のどこかには引っかかっていたのかもしれません。

 そのおかげなのかどうかはわかりませんが、私の試験の結果は1年生の時に引き続いて最高の物でした。アーシャの名前も私の名前のすぐ下に発見することができたため、私たちは試験の終了した解放感と、結果に対する満足感、夏期休暇が始まることへの嬉しさで手を取って喜びあいました。


「すごいね、ルーナ。満点って」


「ありがとうございます。アーシャも良かったですよね」


「ルーナにもたくさん教えてもらったおかげかな」


「アーシャが頑張ったからだと思いますよ」


「そうかな。ありがとう、ルーナ」


 メルやシズクのことは一緒に勉強していたので分かっているつもりではありましたが、レシルやカイも男子寮の方で頑張っているみたいで、尋ねてみると前回よりも良かったと少し興奮している様子で話してくれました。

 丁度いい機会だったのでレシルとカイにも話をしておこうと思って、私たちは人混みを抜け出すと、連れ立って学院の食堂へと向かいました。




 トゥルエル様にいただいたお弁当を開きながら、声を潜めてハーツィースさんのことを告げます。案の定驚いた二人が挙げそうになった声は、メルとシズクが塞いでくれました。


「どうして今僕たちにその話を?」


「お城へ帰る際に余計な騒ぎを避けるためです」


「どういうことだ?」


「過剰に驚かれると、何をしようとも注目はされるのですが、余計に人目を引いてしまいますから。ハーツィースさんには今のところ、ルグリオ様に事情を説明して、了承していただけたなら、人目を避けるために、お手数とは思うのですが、転移して馬車内もしくは直接お城まで移動していただくつもりです。ですからその際に、驚いたりはしないで欲しいのです」


「馬車に乗る人数のこともあるのではないですか?」


「今までも余裕はあったので大丈夫とは思いますが、もし入らないようなら、私が御者台にでも乗るか、或いは馬車の中から転移してお城まで戻るので大丈夫です」


 私が戻るのは、私ではまだ馬車に乗った全員を馬車ごとお城まで転移させることができないため、おそらくいらっしゃるだろうセレン様、もしくはルグリオ様にお頼みしなければならないからです。


「わかりました。そういうことならば」


 レシルとカイは理解してくれたようで、話し終えると頷きを返してくれました。




「そういう訳ですから、ハーツィースさんもあまり驚かないでいただきたいのです」


 寮の部屋へ戻って、ハーツィースさんに考えていたことを説明します。


「私個人としては、その人間をどうにかしてしまえば見つかっても構わないとは思うのですが。まあ、いいでしょう。一応、あなたの言う通りにしましょう」


「ありがとうございます」


「お礼を言うのはこちらも同じことです。同胞の捜索、および救助に協力していただけるのでしたら、私としましても助かりますから」

 

 アーシャと一緒に試験の復習をして、当日の段取りをハーツィースさんと練っていると、あっという間に時は過ぎ去りました。





 そして当日、帰りの馬車などで混み合い、いつもより人が多くなっているエクストリア学院ではありますが、ルグリオ様はとても目立たれていらっしゃるので、私はすぐに見つけることができました。もちろん、目立たれていらっしゃらずとも見つける自信は大いにありますけれど。


「ルーナ。また少し大きくなったみたいだね」


「そうでしょうか」


 ルグリオ様とお会いした私は、抱きしめてキスをしていただいたので、当然見世物にされていたのですけれど、レシルやカイ、メルが馬車に乗り込んだのを確認してから、ルグリオ様に内密の話なのですがと切り出しました。


「わかったよ。とりあえず、そのハーツィースさんに会いに行こうか」


 話し終えると、私はルグリオ様と一緒に女子寮内の自分の部屋まで転移しました。




 事前に説明してあったので、私たちが目の前に現れてもハーツィースさんはそれほど驚かれたご様子でもありませんでした。いつもは服を着ていらっしゃらないハーツィースさんでしたが、さすがに今回はお願いして着ていただきました。


「初めまして、ハーツィースさん、でよろしいのでしょうか。私がルグリオ・レジュールです」


「ハーツィースです。あなたのことはルーナからよく聞いております」


 挨拶を済ませた私たちは、一応、馬車へと戻りました。

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