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ユニコーンについてと

「こちらがユニコーンのハーツィースさんです」


 私とアーシャの部屋に、ハーツィースさんの名前とユニコーンであるということ以外では、ある方を匿っていると告げていたので、そのことに対する驚きは小さかったようですが、まさかユニコーンだとはさすがに予想できなかったらしく、幸い、声を上げることはありませんでしたが、メルもシズクも口に手を当てて、目を見開いてハーツィースさんを凝視しています。

 特別目を引く容姿を抜きにしてみても、額付近から生えている立派に光り輝く1本の角が、人間ではないということを証明しています。


「あの、ユニコーンってどういうもの、いえ、生物なのですか?」


 しばらくすると、メルもシズクも我に返ったようでした。

 しかし、シズクは驚いていて声を出せないのか、それともある程度の知識は持っているのか、はたまた尋ねることを考えているのか部屋に入ってからもずっと黙ったままですが、メルはユニコーンに対する知識を持ってはいないらしく、未知のものに対する不安と期待の入り混じったような声で、遠慮がちに口を開きました。


「それはあなた方人間に対して、人間とはどのような生物ですかと尋ねることと同義なのではありませんか?」


 ハーツィースさんの答えはもっともなことではありましたが、それではメルの疑問は解消されないので、代わりに私があれから書物で得た知識をハーツィースさんに確認するような形で答えます。


「ユニコーンは主に森の中に生活していらっしゃる方々で、形態としては馬に似ているとのことでしたが」


「今の私の姿を見ているあなた方ならば理解できるでしょうが、それは私たちの形態の一つに過ぎません。おそらく、そのことを伝えた人間は私たちのことをよく知りもしないまま、自分の見た、もしくは聞いた知識のみを伝えていたのでしょう」


「しかし、ハーツィースさんのお仲間が捕らえられていらっしゃるということは、少なくとも私たち人間の側にも正しい認識の書物なり、正確なことを知っている方がいらっしゃる、もしくはいらっしゃったということなのでしょう」


 私が答えると、皆納得したような頷きを返してくれます。私はそれを確認してから、さらに続けます。


「ユニコーンの角や生き血には毒を浄化し、万病を癒す力があるとされているそうです。そして、これはハーツィースさんから直接お聞きしたことですが、ユニコーンである彼女たちには毒などといった穢れたものは効果を及ぼさないのだそうです」


「んーっと、つまり角や血の力の副作用ってことなのかな?」


 アーシャは宙を見つめて考えていたようですが、思いついたように手を叩きました。


「そうとも言えるかもしれませんし、逆なのかもしれません」


「逆って?」

 

 シズクが首を傾げます。


「ハーツィースさん達ユニコーンに元々そのような力が備わっていて、それが角や血に効果を及ぼしているということです」


「それって同じことじゃないの?」


「いえ、違いますよ、アーシャ。角や血に効果があるのなら捕らえられたユニコーンの方々は殺されてもおかしくはありませんが、ユニコーンという種であることに意味があるのなら、殺されるとその効果も消えるはずですので、捕らえられるだけで済んでいる可能性もあるということです」


「うーんと、つまり」


「つまり、角や血、それら自体に力が宿っているのか、それともユニコーンという肉体から角や血などへと力が供給されているのかということです」


「なるほど」


 なるほどとは言いつつも首を傾げているので、おそらく3人ともなんとなくしか理解していないか、雰囲気だけ程度なのかもしれません。確認をしようと思ってハーツィースさんの方を向きましたが、案の定、首を横に振られました。自分たちのことですから、そのように考えたことなどないのでしょう。





「それで、どうするつもりなの?」


 話がひと段落したところで、メルに改めて尋ねられました。


「ひとまず、夏期休暇まではこの部屋にいて貰った方が安全だろうと思っています。夏期休暇になったら、お城へお越しいただいて、アルメリア様やヴァスティン様、それからルグリオ様、セレン様のご意見も伺おうと思っています」


「学院に通うのは……ちょっと無理がありそうだもんね」


「はい。あまり広めたくもないですし」


「ルーナなら転移すればいいことなんじゃないの?」


「何を言っているんですか、アーシャ。そんなに気軽に転移の魔法を使えるわけがないではないですか」


「セレン様は使ってこそだっておっしゃられていらしたけど」


「転移の魔法。そんな魔法を人間は使えるのですか」


 ハーツィースさんの好奇心を刺激してしまったようです。


「はい、一応。利便性よりも悪用された場合を考えて、秘匿されてはいるのですけれど」


「つまり、長たるものの責任ということでしょうか」


「似たようなものではあると思います」


「知識の共有と独占。どちらにもそれなりに意味はあります。あなた方の危惧もわからないではありません」




「とりあえず、ハーツィースさんのことは分かっていただけたようですし、私たちも勉強を再開いたしましょう」


 わざわざ場所を移動する必要も感じられませんでしたし、都合よく勉強の途中でしたので部屋まで取りに戻る必要もありません。

 私は机の上を綺麗にすると、ノートを広げました。


「いい感じに話を逸らせたと思ったのに」


 私とハーツィースさん以外の3人は何やら不満げです。


「ルーナ。別に今日まで勉強しなくても」


「確かに課題は終わらせましたが、試験も近いですし」


 雨季が明けて、本格的に暑くなってくる頃にはすぐに試験が始まります。


「ルーナは真面目過ぎ。試験はまだまだ先だよ。夏期休暇だってまだまだなのに」


「息抜きも大切」


「あなた方が勉強しようと言ってきたのではないですか」


 それでなくても勉強するつもりではありましたけれど。


「勉強しようという口実でおしゃべりしてただけだよ」


「放っておくとルーナは勉強してばかりだし、たまには息抜きする日も必要かなって」


「勉強してばかりということはありませんよ」


「そうだね。演習場に行って訓練もしているね」


 同じようなことでしょとアーシャにも若干呆れられているようです。


「そもそも、学院とは勉強するところではないですか。メル、サラにも楽しみにされていたではないですか」


 サラもお城の近くに出来た孤児院でメアリスやルノ、ニコルをはじめ、新しく集まってきている子供たちとも楽しげに、休みのときに私とルグリオ様が顔をみせると、いつも感謝を告げられて、一緒になって遊んだりします。

 サラはルグリオ様の勧めもあって、お城で授業を受けたりもしているはずです。


「私も人間の娯楽には興味がありますね」


 ハーツィースさんの援護も受けて、アーシャやメル、シズクが遊びたいという雰囲気を醸し出していたので、私もメルたちに付き合うことにしました。


「わかりました。では今日のところは休憩ということにしましょうか」


「そうしよう」


「ルーナは超人かもしれないけど、私たち普通の人間には休息日も必要なんだよ」


「そのための夏期休暇や春期休暇なのでは?」


「いいからいいから」


 私もメルやシズク、アーシャたちと遊んだりするのは好きですし、そこまで勉強ばかりしなければならないという観念にとらわれているわけでもありませんから、一緒になって遊ぶことにしました。






「ところで、この恋愛双六というのは何でしょうか」


「よくあるやつだよ」


「そうそう」


「ですが、説明によると男女でやるものだと」


「じゃあ、休みにルグリオ様と一緒にすればいいんじゃない」


「その予行演習ということで」


「対象年齢が」


「気にしない気にしない」








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