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夏期休暇の予定?

「ルーナ。このところのあなた達はどうやら気分が優れないようですね」


「ええ。コーストリナも雨季に入っていますから」


 外ではしとしとと雨が降り続き、休みの日でも外に出られない分、勉強や課題に取り組むには殆ど支障はないのですが、寮から一歩外へ踏み出すとそこら中に水たまりができていたり、慎重に歩かなくては水しぶきがかかったり、髪の毛のお手入れが大変な方もいらっしゃったりと大変な時期でもあるのです。

 その他にも、ブレザーから半袖へと移り変わる時期でもあり、半袖の学生とブレザーの学生が入り混じる非常に限られた期間でもあります。


「私たちにとっては労せず全身で水を浴びることができ、若干の視界の悪さを除けば別段どうということのない、むしろありがたい時期なのですが、あなた方人間にとっては違うようですね」


「私たちとユニコーンではやはり感じ方も違うようですね」


 私はアーシャと一緒に部屋で課題をこなし、書物を広げて勉強しています。

 ハーツィースさんが心配だということもありましたし、あまり動きたくなかったということもあります。


「私たちが学院に通っている間、ハーツィースさんはどのように過ごされていらっしゃるのですか?」


「この部屋で人間の書物を読み漁るのも悪くはない暇つぶしにはなるのですが、水浴場を使わせてもらったり、トゥルエルの手助けをするのも別に悪くはないと思っていますよ」


「お手伝いですか」


 アーシャも驚いているようでしたが、私も少し驚きました。人間にはあまり慣れていない、それに良い感情をお持ちだとは思ってもいませんでしたから。


「何を驚くことがあるのですか。受けている恩義は必ず返します。トゥルエルには世話になっていますからね」


「帰りたいとは思わないのですか」


「もちろん思っています。ですが、今の状況がどうなっているのかはわかりませんが、私だけが戻っても、あの人間共に対抗するには戦力が足りないでしょう。おそらくは逃げ延びていると信じていますし、できるだけはやく同胞の情報は得たいと思いますが、難しいでしょうから。それに情報がない以上、逆にまずい状況に陥る可能性を考えると、下手にここを動くこともあまり得策とは言えません。」


 ハーツィースさんは、諦めているようではありませんでしたけれど、どことなく悲しそうな、寂しそうな雰囲気を漂わせていらっしゃいます。


「そうですね。今は私もこの学院から出ることは出来ませんし。夏季休暇に入れば少しは情報も手に入れやすくなるとは思うのですが」


「なんですか、その夏季休暇というのは?」


 どうやら少しは光を当てられたようで、ハーツィースさんの興味を引くことができました。


「夏の間、学院にお休みが貰えることです」


 アーシャが簡潔に答えたのですが、ハーツィースさんの疑問は深まったようでした。


「何故、その夏季休暇とやらに入ると同胞の情報が手に入る可能性が高まるのでしょうか?」


 私もアーシャの後を引き継ぎます。


「夏期休暇には私もお城へ戻るので、ルグリオ様、セレン様、それにアルメリア様、ヴァスティン様ならば、そういった情報の入手も、この学院にいる私たちよりは比較的容易だろうと考えられるためです」


「ふむ。そうですか。その者たちがここの人間の長というわけですね」


「近いものではあると思います」


 率いていらっしゃるわけでも、直接養っていらっしゃるわけでもないのですが、あまりややこしく説明するつもりもありませんでしたし、今はその認識でもそれほど大きく違っているわけではないので曖昧に肯定します。


「ですから、夏期休暇にはハーツィースさんも私と一緒に帰りませんか」


「一緒にというのは、そのコーストリナの城にということですか?」


「はい」


 この土地からそれほど遠くはないとはいえ、離れてはいるので、確認の意味も込めて尋ねます。

 もし、この土地を離れないと決められていた場合、夏期休暇の間のことが不安にもなります。ルグリオ様やセレン様はそのように思われないでしょうけれど、学院までご足労頂くのも何だか悪い気もしますし、かといって、ハーツィースさんをここに一人で残すわけにもいきません。トゥルエル様にもご予定はあることでしょうし。 


「そのあなたが挙げた者たちは何者ですか?」


「ルグリオ様は私の大好きな方で、私の婚約者なんです」


「つまり、あなたの番ということですか」


 着飾らない物言いに、アーシャは何故だかむせ返っているようです。その前から、顔は赤くなっていたようですけれど。


「番、あなた方の言うところではそうなるのでしょうか」


 ハーツィースさんはしばらく黙って考え込まれていたようでした。


「人間を警戒することに変わりはありませんが、あなたの番というのなら少しは見どころもあるのかもしれません」


「ええ、きっと」


「もちろん、自分で直接確かめるまでは信用はしませんけれど」


「それは私のことは信用してくれているということでしょうか?」


「今のところは、ですが」


 今のところは私とアーシャとトゥルエル様だけのようですが、信用してもらえるというのはもちろん嬉しいことです。私はアーシャと顔を見合わせると、互いに微笑みを漏らしました。


「そうですか。それでどうされますか?」


「今しがた告げたように、自分で確かめるまでは信用も信頼もいたしません」


「つまり、会ってはくださるということですね」


「わかり切っていることを聞くことはやめなさい」


「はい」


 何だか少し嬉しくなった私は、より一層勉強に励むのでした。セレン様もお城にいらっしゃると良いのですけれど。

 しかし、そうなるとメル、それにレシルやカイにも事情は説明しておいた方がいいのかもしれません。

 とりあえず最初はメルと会って貰おうと決めた私は次の休みまでの日数を数えました。




「メル、それにシズクも少しいいですか」


 ハーツィースさんに許可をいただいた私とアーシャは、休みを待ってメルとシズクに声を潜めて告げました。


「そうしたの、ルーナ。改まって」


 学院が休みということもあり、朝食の後、メルやシズクに誘われて一緒に勉強していたのですが、せっかくの機会を逃すつもりはありませんでした。

 私はアーシャの顔を見合わせて頷きあうと、口を開きました。


「実は告白したいことがあるのですが」


「ルーナが私たちに告白」


「待って、まだ心の準備が。それにルグリオ様になんて言ったらいいのか」


 メルとシズクはなんだか盛り上がっているようですが、私にはよくわかりませんでした。


「まあ、冗談はこのくらいにして。何か重大そうだけど、どうしたの」

  

 少し待っているとと元に戻ったようで、メルが私に問いを返しました。

 絶対に秘密にして欲しいことなのですがと前置きすると、それなら部屋に戻った方がいいのではないかと言われたので、部屋に問題があることを告げました。


「実は、先日から、とはいっても随分前なのですが、私とアーシャの部屋にある方を匿っているのです」


 声を上げそうになった二人を、私とアーシャで慌てて口を塞ぎました。二人が首を振るのを待って、手を放します。


「それで、本当ならレシルやカイにも話さなくてはならないと思うのですが、とりあえずメルに、それから同室のシズクには話しておこうと思いまして」


「どういうこと?」


「つまり、絶対に他の方に話をされては困るのですが」


 もう一度念を押すと、そこで一旦話をやめて、二人の反応と周りの様子を確認してから話を続けます。


「その方を夏季休暇にはお城へ招待しようと思うのですが、その前に知っておいてもらいたいと思いまして」

 

「それはわかったけど」


 メルはともかく、どうして私も? という表情をしているシズクに説明します。


「もちろん、秘密を知る人数が少ないに越したことはないのですが、メルだけでは、何かあるかもしれませんし、同室の方にあまりたくさん秘密を抱えたくはないでしょうと思いまして」


 二人が納得してくれた様子だったので、私とアーシャはメルとシズクを連れて部屋へと戻りました。

 私たちの行動に注意を払っているような方はいらっしゃらなかったようで、それほど注目もされずに部屋へと戻ることは出来ました。


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