選抜戦の結果を受けて
ハーツィースさんとの話しをひとまず切り上げた私は、続けられている祝勝会の会場、女子寮の食堂へと向かいました。前回の残念会も盛り上がってはいたのですが、今回は祝勝会、それもここ最近では久しく勝利がなかったため、それはそれは大変盛況な様子でした。
すでに陽は落ち、外は闇に包まれていましたが、ベッドに入っている生徒はほとんどいないようで、ホールに食堂にと女子寮の生徒が先輩も後輩も同級生もこれでもかと溢れかえり、特に対抗戦に出場した生徒を取り囲んでは笑い合っい、勝利を分かち合っています。
私が食堂の入り口をくぐると、私が来たことに気付いたアーシャや周りの同級生が笑いながら手を振っていました。
「ルーナ」
「アーシャ。おめでとうございます」
「ありがとう。でも私はほとんど何もしていないんだ。イングリッド寮長やロゼッタ先輩、ミリア先輩たち5年生の先輩方や、マリスターナ先輩、キャシー先輩方をはじめ4年生の先輩方もとっても気合が入っていらしたから」
「そうでしょうか」
マリスターナ・キャンデリー先輩もキャシー・マリンナ先輩も攻撃陣を担当されていらしたのですが、マリスターナ先輩は空気や水を使って鏡や蜃気楼を作り出されて、ご自身の担当されていらした攻撃だけではなく守りにおいても活躍されていらっしゃいましたし、キャシー先輩は、光、とまではいかないですが、全身に雷を纏われたかのような動きで、とても私の眼では捉えきることは出来ないような速さで、開始早々から男子寮へと肉薄されていらっしゃいました。
「参加できるだけでも楽しいと思っていたけど、やっぱり勝利するともっと楽しいね」
私が言うことでもないんだけど、とアーシャは笑っていました。私はアーシャの手を強く握ります。
「そんなことありませんよ、アーシャ。1年生の時よりもそれだけアーシャが頑張って、その結果の今回の勝利です。もちろん、先輩方の力によるところは大きいでしょう。だからと言って、あなたが勝利に貢献したということは疑いようもありません」
「1年生のときは、まさか自分が参加するとは思ってなかったんだけどな」
アーシャが私のことをじっと見つめます。
「本当はルーナと一緒に出たかったけど、まさか3年生のときもでないとは言わないよね? 3年生からは多分選ばれるのは一人じゃなくなるし」
「3年生になろうとも、私の意見は変わらないとは思いますが。今のところはまだ何とも言えないというのが本音です」
「でも、考えておいてよね。私も、私だけじゃなくて2年生の皆、ルーナと一緒に出たいと思ってるんだからね」
「ええ。心に留めておきます」
私はメルやシズクとも合流して、しばしの談笑の後、先輩方に祝言を告げるために食堂内を回りました。
「イングリッド寮長。おめでとうございます」
「ありがとう、ルーナ。それに皆も」
イングリッド寮長のところへ向かった私たちは、代表して私がお祝いを告げました。イングリッド寮長はロゼッタ先輩やミリア先輩たちと一緒に立ち話をされながら飲み物を飲まれていました。
「前回までの借りを少しは返せたってところかな」
「今回はじゃんけんではなかったんだから、実質的に前回の負けは数えなくてもいいんじゃない」
「そんなことはないでしょ。アイネ先輩やアリア先輩もいらっしゃったというのに勝利できずに引き分けに持ち込まれたってことだったのよ」
「でも、結果は結果」
「先輩方の中にも結局一度も選抜戦に出ずに終えられた方もいらっしゃいますよね」
私は気になっていることを聞いてみると、先輩方は顔を見合されました。
「そりゃね」
「5年間いるとは言っても、結局人数は決まってるし」
「5回分合わせたって20人くらいしか出られないんだから、重複を考えたらそれは大勢いるわよ」
「私だって出てないし」
先輩方には、それが何か、と全く気にされていない口調で逆に尋ねられました。
「確かに出てみたいとは思っていたし、羨ましいとも思うけどさ」
「出ている友達は私たちの憧れなのよ」
「何百人もいる私たちの学年の中で、選抜に選ばれるほどの実力者ですもの。1年生のときから選ばれたイングリッドなんて、当然羨望の的だったわよ」
「もちろん悔しさもあるわ。でも、だからって私たちの情熱が薄れるかといえば、むしろ逆よ」
「だからね、ルーナ。あなたも何も気にすることないのよ。経験なんて、体験なんて、これからもいつだってできるんだからね」
「だからあなたは皆を引っ張っていける立場にいなさい」
「あなたにだって憧れている方はいらっしゃるでしょう」
言葉にされずとも、アーシャにもメルにも伝わったことでしょう。もちろん、私にも伝わりました。
「あなただってここにいる誰かの、少なくともあなた達2年生の中では憧れの的なんだから」
「憧れが大きすぎますけどね」
アーシャが、メルが、微笑みながら私の手をしっかりと握りしめてきたので、私も負けないように握り返しました。
「心に刻みます」
「でも、今回はルーナのコスプレ、じゃなかったチアリーディングを見られないと思うとそれだけが残念で心残りだわ」
「そうね」
話がひと段落したと思った私は、その場から失礼しようと思っていたのですが、雲行きが怪しくなってきました。
「大丈夫です、先輩方。収穫祭のときに思いっきりすればいいんです」
「そうです。前回は外回りに行っていましたが、今回は寮で接客をしてもらえれば、ルグリオ様やセレン様もいらして、さらに集客が増えます。それに私たちも拝めますし」
「そうね」
「それはいい意見だわ」
その場にいたクラスメイトも便乗して、まだまだ先の収穫祭のことまで決まりつつあります。
「あの、収穫祭はまだ先では」
「まあ、とにかく今日は勝利を祝して盛り上がろう」
「そうだ、そうだ」
私の意見はまだまだ消えそうにない歓声にかき消されました。