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2年選抜戦

「それではトゥルエル様、よろしくお願いいたします」


「任せときな」


 翌日、ユニコーンのハーツィースさんを保護しているという理由で学院を休むわけにはいかず、学院に行っている間のお相手をトゥルエル様にお頼みして、私たちは学院へ向かいます。

 

「トゥルエル。ルーナとアーシャはどこへ行くのですか?」


「学院だよ。魔法のこととか、一般常識なんかを学びに行くのさ」


「一般常識というのは、あなた達が身に纏っているその洋服とかいう物のことなどですか?」


「それは一般常識以前の問題なんだけどねえ」


 私たちが発見した時には素っ裸だったハーツィースさんですが、どうやらユニコーンには洋服を着るという文化は存在していないらしく、いまだに身体には何も纏っていらっしゃいません。曰く、私の身体のどこに隠さなくてはならないところがあるというのですか、とのことです。


「ハーツィースさん。お願いですから、どうかこの寮からは外に出ないでくださいね」


「いいでしょう。あなたはどうやら私を助けてくれたようですからね。私にも受けただけの恩を返すという気持ちはあります。ここを出ていくときにはルーナ、あなたに声をかけることにしましょう」


 彼女が約束を破るとは考えられなかったので、私はひとまず安心してアーシャと一緒に寮を出ました。




 学院についてから、私はリリス先生にハーツィースさんのことを話しても良いのかどうか考えましたが、人間に対して良い感情は持っていないだろう彼女のことを無暗に話すことは憚られたので、結局話さずにいました。

 今の天候は雨。外でお弁当をいただくわけにはいかず、教室でクラスメイトと一緒にいただきます。


「ルーナ、それにアーシャも、何かあったの?」


「今日はどこか上の空といった感じだったけど」


「悩み事なら相談に乗るよ」


 たしかに悩み事なのですが、話すわけにもいかず、私とアーシャは愛想笑いを浮かべるしかありませんでした。

 どうやら、朝食ではハーツィースさんは皆の前に姿を見せることはしなかったようです。それとも、トゥルエル様がお止めになられたのでしょうか? いずれ分かってしまうことではあると思いますが。

 おそらく、彼女たちの興味は直近に迫った学内選抜戦に向けられると思うので、あまり気にしすぎる必要もないとは思いますが。



 その学内の選抜戦ですが、結局、私は出場はせずにアーシャに譲りました。

 先輩方や同級生は何事か思うところもあったようですが、私自身が言い切ったことでしたし、特に反論らしい反論も出ずに決定となりました。


「本当に良かったの?」


「アーシャのことなら心配いりません」


 アーシャは女子の中では私の次に実技の成績が良かったですし、体力に関しては女子の中でも最低値の私よりも全然あります。前回の私のように途中で倒れるということもないでしょう。


「そうじゃなくて、ルーナは出なくて良かったのかなって」


「前にも言いましたけれど、メル。ルグリオ様がおっしゃられていたのをあなたも一緒に聞いていたと思いますけれど、学院というのは様々な体験をして色々な経験を積むところです。私一人が毎回出ていては、それだけ他の皆さんの機会を奪ってしまうことになりますから」


 勝敗も確かに重要な要素ではあるでしょう。ですが、それ以上に重要なことも、学院生活という枠組みで見れば、選抜戦にも色々とあるはずです。


「そろそろ始まるようですよ」


「うん」


 私とメルが話している間に準備は整えられたようで、選抜戦が開始されました。







「人間というのは、興味深い生き物ではあるようですね」


 前回までの雪辱を晴らすかのようなイングリッド先輩やロゼッタ先輩の活躍により、久しぶりに女子寮の勝利となった学内選抜戦が終了し、それは大変な盛り上がりを見せている祝勝会が開かれている中を私は抜け出して、料理を自分の部屋まで運びました。

 私の運んできた料理に、まずまずといったところでしょうかと感想を述べたところで、ハーツィースさんが選抜戦に対する感想らしきものを漏らされました。


「どういうことですか?」


「ルーナ。あなたのことですよ」


「私ですか……?」


 面白いものでも見るような顔で、ハーツィースさんは私のことを見つめていらっしゃいます。


「アーシャの話を聞く限りでは、あなたは最も優秀なのだそうではないですか。そのあなたが他人に譲るとはどういうことでしょうか?」


「ユニコーンにはそのようなことはないのですか?」


「ありえません。私たちの中で最も強く美しきもの、まあ私だったのですが、私には群れの皆を守らなければならない責任がありましたから。それを誰かに譲ることなどできません。長がしっかりとしていなければ、皆が不安になりますから」


 結局こうなってしまいましたけど、とハーツィースさんは溜息を漏らされました。


「そうですか」


 たしかに、ルグリオ様やセレン様は毎回出ていらしたみたいですけれど。


「その考え方も理解は出来ます。皆のお手本になるようにということですよね。ですが、この学院では外のように常に危険と隣り合わせということはありません。いずれ外に出るときのために、皆が多くの経験を積めるというのは良いことなのではないでしょうか」


「まあ、結局決めるのはあなた方自身ですから、私が何か言うつもりはありませんが」


 そうおしゃられると、ハーツィースさんはベッドの半分で横になってしまわれました。

 





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