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ユニコーンのハーツィース

 傾きはじめた陽に照らされてきらきらと眩しい背中の辺りまで伸びた艶めく金髪。まるで自ら光っているかのように輝く螺旋状の綺麗な筋の入った一本の角。胸も私たちと比べると大きく、腰にかけてくびれができています。ここが男子寮の近くであったならば、間違いを起こすような生徒が出ていたかもしれない、もしかしたら女子寮でも間違いが起こるかもしれないような美貌の少女の姿をしています。


「どうやら気を失っているようですね」


「すごい。この角、自分から光っているみたい」


「とにかく、一度女子寮まで運びましょう」


 私の力では、少女一人を抱え上げることなど到底できようはずもありません。もちろん、収納するなどもってのほかなので、彼女を起こしてしまわないように自分の制服の上着を脱いで彼女にかけると、魔法をかけて浮上させて、落とさないように慎重に女子寮まで連れてゆきます。学院ではなく女子寮なのは単純に女子寮の方が近かったという理由です。それにこんな姿の女の子を大勢の前に晒すわけにもいきません。


「アーシャ、トゥルエル様を呼んできていただけますか?」


 寮の前まで辿り着くと、ゆっくりと彼女を地面に下ろします。勝手に寮に上げるわけにもいかず、かといってこの場に一人で放置することもできないので、アーシャにトゥルエル様を呼んできてもらうのを待っている間、私は地面に足を崩して座り込むと、スカートの上、腿の辺りに彼女の頭を乗せました。

 その状態のまま待っていると、すぐにアーシャがトゥルエル様を連れて来てくれました。これから夕飯の仕込みをするところだったらしく、丁度女子寮にいらしたトゥルエル様はエプロンをつけていらっしゃいます。


「ルーナ、連れてきたよ……って羨まし、じゃなかった、まだ目を覚まさないの?」


「ええ」


 アーシャとトゥルエル様を待つ間にも、彼女が目を覚ます様子はありませんでした。呼吸も脈拍も正常だろうと思われましたし、茂みや枝に引っ掛けたらしい怪我をしていたところは勝手ながら治癒の魔法をかけさせていただきました。


「その子があんたたちを襲ってきたっていう、例の学院に侵入したって噂の子かい?」


「おそらく。確証はありませんが、複数という話は聞かないのでおそらく彼女だけでしょう」


「とりあえず、目を覚ますまではあんたたちの部屋に運んでやりな」


「よろしいのですか?」


「私がそんなに非道にみえるのかい」


 私はアーシャと一緒に彼女を私たちの部屋まで運び込みました。









「うぅ……」


「気がつきましたか?」


 私たちが夕食へ向かうときにはまだ気を失われていたご様子だったのですが、夕食から戻ってくると、丁度彼女が目を覚ますところでした。


「っ……ここは」


「落ち着いてください。ここはコーストリナ王国のエクストリア学院女子寮で、私がお借りしている部屋の中です。わかりますか?」


 彼女は目を覚ますと、辺りをきょろきょろと見回していたのですが、はっとした様子で飛び起きると、ベッドの隅で身体を丸めて私たちを威嚇するような声を上げます。


「捕まってしまったようですね……。だからといって、私が大人しくあなた方の好きなようになるとは思わないことです、人間」


「先程もそうでしたが、あなたは何者ですか? 角が生えている以外では、あなたも私たちと同じ人間の姿をされているようですけれど」


 私が尋ねると、彼女はふんっと鼻を鳴らして、尊大なポーズを取りました。


「私のことを知らずに捕らえるとはいい度胸ですね。そして、私たちをあなた方人間のような穢れたものたちと一緒にしないでいただきたいですね。私は誇り高いユニコーンが一人、ハーツィースですよ。控えなさい、人間」


「ユニコーンって一人って数えるんだ」


「何か言いましたか?」


 アーシャのつぶやきにも鋭く反応されます。


「いえ、何でもありません」


 アーシャは体を隠すように、私の背中へと回り込みます。私は出来る限り彼女、ハーツィースさんを刺激しないように声をかけます。


「先程も申し上げましたが、私はルーナ・リヴァーニャ、こちらはアーシャ・ルルイエです。私たちはここの学院に通っている生徒なのですが、今日の帰りにこの女子寮の近くであなたと遭遇して、その後あなたが倒れてしまわれたので、勝手ながらこちらまで運ばせていただきました」


「ほう、それで?」


「知っていただきたいのは、私たちにはあなたを害するつもりはないということです。このルーナ・リヴァーニャの名前にかけて、あなたがこちらにいらす間にはあなたに危害を加えることはありませんし、他の人も同様です」


「ふむ。まあいいでしょう」


 一応納得はしてくれたようで、話は聞いてくださるようです。


「聞きたいことは沢山あるのですが、とりあえず、何か食べ物が必要ですよね」

 

 私は仕舞っていたトレイの上に乗せられた夕食を取り出します。


「何ですか今のは?」


 どうやら、収納の魔法のことはユニコーンであるハーツィースさんもご存じではないようです。私が説明すると、なんとかわかって貰えたようで、トレイを受け取って夕食を食べてくれました。





「まずまずといったところですね」


 夕食への評価を口にしたハーツィースさんは、まだ警戒はしているようでしたが口は聞いてくれるようでした。


「どうかしましたか、アーシャとやら」


 私が隣へ顔をむけると、アーシャは少しばかり驚いているような表情をしていました。


「いえ。私たち人間のことを警戒しているご様子でしたのに、食べ物はすんなりと口にされたので」


「なるほど。私たちのことは本当に知らないようですね。ならば、私たちを利用しようとしてきたあの者どもとは違うということですか」


 ハーツィースさんはこちらを探るような目を向けた後で、小さく息を吐き出しました。


「どうせ知られていることですからまあいいでしょう。私たちユニコーンには毒などといった穢れたものは効果を及ぼさないのです。よって、如何なるものがこの食物に入っていようとも、私たちを犯すことは出来ません」


「そうなんですか」


 私は余計なことは言わずに、核心に迫ることにしました。


「それで、あなたは何故あそこで倒れていたのですか?」


「何故も何も、あなた方人間のせいではないですか。白々し、いえ、あなた方は私のことを知らなかったのですから、関係がない……いや、それとも知らないふりをしているという可能性も……」


 ハーツィースさんは随分と考え込んでいらっしゃいましたが、意を決した様子で話してくださいました。


「私たちはここから少し離れた場所に暮らしていたのですが、先日、私たちの棲み処に人間が立ち入ってきたのですよ。同胞も幾人か殺され、或いは捕らえられ、逃げ延びたかもしれない皆も散り散りになってしまったのです」





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