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私たちも先輩になったんだね

 入学式当日、女子寮内には朝からそわそわと落ち着かない雰囲気が、特に新2年生を中心に漂っています。初めてできる後輩に、隠しきれない嬉しさが溢れ出ています。


「ルーナ。いよいよだね」


「アーシャ、少し落ち着いてください。何度目ですか」


 アーシャに限ったことではないのですが、数日間、私たちの間では新入生の話題で持ちきりでした。


「でもやっぱり待ちきれなくて」


「うん」


 メルもシズクも楽しみで仕方がないという様子です。


「まだ入学式が始まってすらいないのですよ。そんな調子で本番まで持つのですか」


「大丈夫大丈夫」


「ていうか、やっぱりルーナは硬すぎるよ。もっと肩の力を抜いたほうがいいって言われてたじゃん」


「そう言われましても、そんなに簡単に変えられるものでもありませんし」


「歓迎会なんだから、新入生に楽しんでもらうためにも私たちがまず楽しまなきゃ」


「そうそう」


 以前にも似たようなことを言われています。成長してはいるつもりなのですが、なかなか簡単にはいきません。


「ほら、ルーナ。楽しいことを思い浮かべてみて」


「最近で一番楽しかったことは」


「最近一番楽しかったことですか」


 そうですね。春休みにルグリオ様と一緒にお出かけしたことでしょうか。セレン様やサラやみんなとも一緒に遠出したことでしょうか。それとも、セレン様やアルメリア様、ヴァスティン様たちと一緒にルグリオ様のお誕生日を一足早くにお祝いしたことでしょうか。それとも―—。


「ルーナ」


 メルに体を揺さぶられて我に返ります。少し自分の世界に入り込み過ぎていたようです。


「すみません、何でしょうか?」


「いや、何でもないけど。何か帰って来なさそうな表情だったから」


 うんうん、と周りの同級生や先輩方も頷いておられます。


「まあ、大体何考えてたのかは想像つくけどね」


「聞きたいのはやまやまだけど、今日はその時じゃないから」


「私は見てるだけでもうご馳走様って感じだったけど」


 私は数度瞬きをしてから尋ねてみました。


「そんなにわかりやすいでしょうか」


「うん」


 一斉に頷かれました。




 お昼前には新入生の物と思われる荷物を載せた馬車に乗ってトゥルエル様が寮へ戻っていらっしゃいました。


「じゃあ、新入生が入って来るまでにこの荷物を運び入れといて貰えるかしら」


「わかりました」


 私たちは新入生の部屋割り通りに荷物を運び入れます。

 重すぎたり、形の関係で運び辛い物などは、荷物そのものに移動させる魔法や宙に浮かせる魔法ををかけたりして運んでいました。

 私は荷物をいくつか収納すると、そのまま歩いて部屋へと向かいました。私が成長するのに合わせて、収納しておくことができるものの量や大きさにも若干の変化が見られました。


「やっぱりその収納の魔法って便利だよね」


「どうやってるの?」


 同級生だけではなく、先輩方にも尋ねられました。一応、この魔法も転移の魔法と同じく例のお城の本棚に収められていた書物に書かれていた魔法なので、私の一存で教えても良い物かどうか決めかねます。


「それは、その、一応機密事項なのでおいそれとお教えすることができないのです。すみません」


「機密事項って」


「コーストリナのお城に伝わるものだそうです」


 それだけで、何となくの事情は察してくれたようで、あまり深くは聞かれませんでした。


「どうしてもとおっしゃられるのならば、夏季休暇に是非お城までいらしてください。私の一存ではお教えすることはできませんが、セレン様はいらっしゃるかどうかわかりませんが、アルメリア様やルグリオ様はきっと歓迎してくださると思います」


 ルグリオ様のお話では、ミカエラさんもお使いになられたということでしたが、魔女と名乗る方があの方しかいらっしゃらない以上、他の国でもあまり広まっている魔法だとは思えません。もっとも、ミカエラさんは知られていても構わないといった雰囲気でいらしたそうですけれど。


「そっかあ。それならまあ仕方ないね」


「ちょっと残念だけど」


 それきり収納の魔法やその他のことについては深く尋ねられることもなく、私たちは準備を進めていきました。






「最初の新入生が来たみたいだよ」


 皆でおやつ代わりに、作った料理の味見などをしていると、おそらく道の途中まで様子を見にゆかれていた先輩が戻っていらっしゃいました。

 私たちが到着したのは陽も大分傾いていたころでしたから随分と早いなと思いましたが、そう言えば私たちのときにはマーキュリウス様がルグリオ様に決闘を申し込まれるという理解不能な事態が起こっていましたし、それを見物されていた方も多かったでしょうから、本来ならばこのくらいに寮まで到着するのが妥当なのでしょう。


「それじゃあ皆、準備はいい?」


「はい」


 イングリッド寮長の一声に、私たちは元気よく返事を返しました。それから私たちはホールや食堂、それぞれ配置につきました。

 寮の扉が開かれて、新入生と思しき女の子達が緊張した足取りで恐る恐る扉の向こう側から顔をのぞかせます。

 扉の近くにいた先輩方が扉を開いて寮の中へと新入生を連れ込まれます。私たちは精一杯の想いを込めて拍手で迎え入れました。


「入学おめでとう」


「わわっ」


 新入生たちがこぼした驚きの声を受けて、私は自分のときのことを思い出して、きっとこの子たちも目を白黒させているんだろうなと思うと、自然と笑みがこぼれました。


「さあさあ、新入生いらっしゃい」


「歓迎するよ」


「ようこそエクストリア学院女子寮へ」


 先輩方に手を引かれて、新入生たちは食堂へと連れていかれました。食堂の方からも拍手と歓声が聞こえてきます。


「ついに私たちも本当に先輩になったんだね」


 アーシャがしみじみといった風につぶやいています。


「そうですね」


「1年生のときよりももっと楽しくしようね」


「ええ」


 私は心から頷きを返しました。

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