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2年生

「辞退するっていうのはどういうこと?」


 2年生に進級を果たし先輩も同級生も少し浮かれているような時期、とはいってもまだ入学式が行われていないため新入生はいないのですが、私は寮の食堂に座らされて多くの先輩方が面白そうに、或いは同級生にはハラハラおろおろされながら見守られる中でイングリッド寮長に詰め寄られていました。


「そのままの意味です。私は今年の選抜戦に出ることは遠慮いたします」




 2年生に進級する私たちですが、新入生が入ってきて後輩ができるということ以外、1年生のときと大きく変わるわけでもありません。変わることといえば、教室と、少し身長が伸びたような気がするということでしょうか。

 春期休暇には、今回は忘れずにルグリオ様とセレン様のお誕生日をお祝いしました。

 正確にはルグリオ様もセレン様もお誕生日を迎えられてはいらっしゃらないのですが、私は学院にいて当日にお祝いすることができないので、雪がどけてお花見をするころに一緒にお祝いいたしました。いや、したはずです。前回とは違ってお兄様とお姉様はコーストリナのお城でのお花見にはいらしていなかったのですが、ルグリオ様とお城に戻られていたセレン様、ヴァスティン様、アルメリア様、それからお城で働かれている方たちと一緒に庭で食事をいただいたりして、その辺りまでは楽しかったことを覚えていました。

 翌日の朝、ルグリオ様に感謝を告げられただけで、私自身にはお祝いのケーキをお城の料理長さん方に手伝っていただきながらたくさん練習して試作を繰り返しながら作ったということ以外、お花見のことはほとんど記憶がありませんでしたけれど。

 


 

 春期休暇の終了と新学年が近づくと、エクストリア学院の寮は再び賑やかさを取り戻します。

 新入生が入って来るまでは卒業された先輩方の分だけ寮内が広く感じられるのですが、賑やかさは相変わらずで、先輩方も同級生も新しい学年、新しい生活への期待に胸を膨らませているようでした。

 私自身も、つい先日まで過ごしていた部屋に戻ってきただけのはずなのに、なんだか別の新しい部屋に入ったかのような新鮮さを感じました。


「久しぶり、ルーナ、メル」


「お久しぶりです、アーシャ」


「久しぶり、元気だった?」


 私が学院に戻ってきた翌日にはアーシャもこの部屋へと戻ってきました。

 1年生を終えるときには寒かったこの部屋も、今では春の陽気が舞い込んできて陽だまりのような心地よい暖かさを感じられます。窓を開けると、穏やかな春の風に髪がさらさらと揺られます。私は目を閉じて、しばらく吹き抜ける風を感じていました。


「アーシャ、少し身長伸びましたか」


「そうみたい。成長期だからかな」


 私も春休みに計った時には私と同じ年齢の女の子の平均身長にはおよびませんが、成長を続けているようで少しは伸びたのですが、アーシャはもっと伸びているようで私よりも上に目線があります。1年生のときには、身長は同じくらいだと思っていたのですが。

 ちなみにメルは私よりも少し高いくらいで目線もほとんど変わりません。

 私も2年生が始まるのに合わせて制服のサイズを合わせるために計測したため、身長以外のサイズもおそらくは順調に育ってきていることはわかるのですが、メルやアーシャと比べると、どことは言いませんがなんとなく敗北感を感じます。


「大丈夫です。お母様やお姉様も小さいわけではありませんから」


「どうしたの、ルーナ」


 私が呟くと、アーシャに不思議そうな顔をされました。何でもありませんよと答えて、それから私たちは春期休暇の思い出や、2年生の生活への期待、新入寮生のことなどを話しました。途中、春期休暇の話をしている最中に、メルに耳打ちされたアーシャが何か顔を赤くしてメルと一緒に黄色い声をあげていましたが、私にはその内容は教えてくれませんでした。



 トゥルエル様も寮に戻っていらっしゃったので、私たちは挨拶に窺いました。


「2年生でもよろしくお願いいたします」


「あんたたちも後輩ができるんだね。しっかりしなさいよ」


「はい」


「それから分かってると思うけど、新入生に余計なことを言うんじゃないよ」


 私たちは昨年のことを思い返します。おそらくはお花摘みのことだろうと予想されたので、わかりましたと返答しました。


「昨年のような事態にならなければいいのですが」


「それなら大丈夫よ」


 トゥルエル様がおっしゃるには、以前シルヴァニアウルフまでこの辺りの人前まで姿を現したのは、アースヘルムで魔獣が大移動していて、その余波で棲み処を追われた個体が現れたからだそうです。今回はすでに鎮圧されているとのことなので、おそらく心配はないとのことでした。


「3年生になれば現地実習もするようになるから。リベンジはそのときまでおあずけだね」


「そうなんですか」


「その現地実習というのはなんでしょうか」


 私は少し気になる程度でしたが、アーシャやメルは興味深々のようでした。


「学院の外へ出て魔物の調査なんかをしに行くことさ。もちろんそれだけじゃないけれど、将来、冒険者になったりするような生徒は特に皆楽しみにしているよ」


「現地実習ですか」


 確かに学院やお城だけではなく、様々な人たちと触れ合うのはルグリオ様にも望まれていたことですし、私自身も楽しみではあります。この学院に来るまで、正確にはクンルン孤児院を訪れるまででしたが、知っている人以外とは会うどころか見かけることもほとんどありませんでしたから。


「そのためにも、2年生ではしっかりと実力を蓄えることだね。学院にいる間というのは一番吸収できる時期だから、自分の身を守るためにもね。特にルーナは誘拐なんかされないように気を付けるんだよ」


 学院にいれば誘拐など起こらないとは思いますが、ペルジュの件もあります。それでまた休学するような事態になることは避けたいです。それと同時にセレン様やルグリオ様の姿を思い起こします。お祭りのときや誘拐犯と対峙されていた時のセレン様やルグリオ様は本当に格好良かったですから。


「ありがとうございます」


 私たちは心配してくださっているトゥルエル様に頭を下げました。

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