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楽しみ方は人それぞれだと思います

 私たちが朝食を済ませるころになると、ルグリオ様とセレン様も寮の食堂まで姿をみせてくださいました。


「おはようございます、ルグリオ様、セレン様」


「おはよう。前にも言ったけれど、セレンお義姉様でもいいのよ」


「おはようルーナ。それに皆も朝早くからやる気も十分、気合が入っているみたいだね」

 

 私たちが挨拶をすると、セレン様は悪戯っぽく微笑まれて、ルグリオ様はそんなセレン様を横目に仕方ないなあといったように苦笑されていました。

 私たちは焼き立てのパイやタルトに苦戦しつつも食べやすい大きさに切り分けて、冷蔵庫に入れて冷やしたり、保温、保存の魔法をかけて冷めないようにしたりしました。


「今日の宣伝用に試食分もつくってみたよ」


 食べてみてと言われたタルトは、パイはサクサク、カスタードのクリームはなめらかで程よい甘さが乗せられたフルーツと調和していて幸せなお味でした。皆、頬を押さえてうっとりとした表情を浮かべています。


 開業、販売、接客の準備が整うと、寮の前に看板を出して扉を開き、もちろんホールまでですが、外で待たれていた方々をお通しします。宣伝の効果もあってか、朝食代わりにいただきに来てくださった方もいらっしゃるようで、朝から大変な賑わいです。


「朝食をここでいただこうと思って、夜中から馬車に揺られて来たんです」


「ありがとうございます。それではこちらへどうぞおかけになってお待ちください」


用意した分のお菓子は順調に売れていきました。




「じゃあ、販売に行きましょうか」


 しばらくしてお客様の足が途絶えぎみになったところで、セレン様が提案なされました。


「また学院の外へ行かれるのですか」


「いえ。今日は学院内でも男子寮の方と先生方の方へいくつもりよ。女子寮には近づきにくいと考えている男子生徒も少なくないはずだし、先生方も見回りなどでお忙しくされていて、ここへ寄られてのんびりと休まれている暇はないと思うの。だから販売に回れば、商品が売れて私たちも嬉しいし、向こうも喜ぶと思うの」


「じゃあ、僕は父様と母様、それにお城の人たちに配ってくるから」


 セレン様が女子生徒を連れて出ていかれた後、失礼とおっしゃられて人の輪から離れられたルグリオ様が私に耳打ちをされました。


「できれば、アースヘルムにも持っていって、アリーシャ様、アルヴァン様にも届けて来るからね」


「よろしくお願いします。ルグリオ様」


 ルグリオ様はいくつか袋を収納されると、外へ向かわれました。


「ルグリオ様はどちらへ向かわれたの」


 その場に残された私は、セレン様のように開き直って正直に告げることも出来ずに、尋ねてきたクラスメイトにどう説明したものかと愛想笑いを浮かべて誤魔化しました。





「ルーナはここでお菓子を焼いたりしているだけでいいの」


 お昼になったので寮の食堂で焼き立てのパンなどをいただいていると、隣にいるメルから話しかけられました。


「メルの方こそ、カイやレシルと一緒に回ったりしなくていいのですか」


 メルも朝から私たちと一緒にずっと食堂、厨房に入り浸っています。昨日も私たちと一緒に広告を配ったりしていたので、カイやレシルと一緒にいる時間はなかったと思うのですが。


「私はここでこうしてお菓子を作っていたりしているのが楽しいからいいんだけど、もしかしてルーナも同じ理由なの」


「ええ。私も普段は厨房に入ることはないですし、お城でも頻繁にやっているわけではないですから、たまにこうして皆で一緒にお料理をするのも楽しいです」


「花嫁修業って言ってたもんね」


 メルはふふっと笑うと私もと言って、パンを千切ると口へ運んでいました。


「私も自分で作ったものをサラやみんなに食べてもらいたいって思ってる。本当は自分で届けられたらいいんだけど、ルノやニコルはきっと学院まではまだ来られないから」


 来ても寝てるだけだろうけど、とメルは楽しそうな表情を浮かべました。


「ええ。きっと喜んでくれていると思います」


「だったら嬉しいな。本当なら自分で渡したかったけど」


「お城に戻ってからでも時間はたくさんありますよ」


「そうだね。そのときは手伝ってくれる」


「ええ。もちろんです」


 私たちは顔を見合わせて微笑みあうと、コップに口を付けました。私も自分で焼いたお菓子をルグリオ様にもいただいて欲しいと思いました。



 ルグリオ様が戻られたのは、夕方近くなってからでした。

 学院内だけを回られていたセレン様は早くに戻られていたのですけれど、お城、もしくはアースヘルムまで行かれたかもしれないルグリオ様はさすがに時間が掛かったご様子でした。


「ただいま、ルーナ」


「お帰りなさいませ、ルグリオ様。それで、あの」


「うん。ちゃんと届けてきたよ。感想もいただいたけれど、お世辞ではなくおいしいといってくださったよ」


「そうでしたか」


 安心した私はほっと一息つきました。自分で食べた時には確かにおいしく感じられたのですけれど、他の人にはどのように感じられるかわからなかったものですから。


「僕もお昼に食べさせてもらったけれど、おいしかったよ」


「ありがとうございます、ルグリオ様」


「お世辞じゃなく、本当にそう思っているよ」


「わかっています」


 ルグリオ様は私の髪を撫でてくださって、その後一緒に食堂へ向かいました。




「今日も夕食を一緒にできたらよかったのだけれど」


「母様と父様に帰ってくるようにと言われているものですから」


 特にヴァスティン様はセレン様とご一緒されるのを楽しみにしているご様子とのことでしたので、挨拶をされた後にすぐ馬車の方へと向かわれました。


「では、お時間はよろしかったのですか」


「ありがとうございます。ですがご心配には及びません」


「また是非いらしてください」


 先輩方や同級生に別れを惜しまれながら、ルグリオ様とセレン様は馬車に乗り込まれました。


「ここからお城まで半日はかかるわよね。セレン様もルグリオ様も体力がおありなんですね」


「それなのに連日学院までいらして、ルーナは愛されているわね」


「本当にありがたく思っています」


 実際にはおそらく途中で転移されているので移動時間はそこまでかかっていないはずだとは思いましたが、事情をご存じではない先輩方に無暗に私から話すことは憚られたので感謝の意だけを表しました。

 

 


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