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もっと静かに登場できないもんかね

 私たちが渡されていた広告は、とても配り切れないだろうと思っていたほどたくさんあったのですが、馬車に乗り込もうとするころにはすっかりなくなっていました。


「ここからエクストリア学院まで馬車に乗っても1日かかるというのに」


「すごいです」


 アーシャとシズクは驚いているようで、それでいてどこか納得しているような雰囲気でルグリオ様とセレン様、それに私をみていました。


「お役に立てたようだね」


 私たちが馬車に乗り込んだ後にルグリオ様が微笑まれながら声をかけられると、アーシャとシズクは顔を赤く染めて、照れるように背けました。


「私たちはルーナたちと、それからルグリオ様とセレン様とご一緒できてとても嬉しいのですが、本当によろしいのですか」


 アーシャがここから学院に戻るまでの時間を考慮して恐る恐る尋ねたことに、シズクも控え目に同意を示します。


「大丈夫よ。何も問題ないわ。だって、ここから転移すればいいことじゃない」


 セレン様がさも当然のように言われたので、ルグリオ様と私はたいそう驚いてセレン様を見つめました。


「姉様、それはさすがにまずいんじゃないの。一応、秘匿するように言われていることだし、馬車にまで乗ったのに御者の方に悪い気がするけれど」


ルグリオ様の意見に私も全く同じ気持ちだったので、肯定の意を込めて首振りました。


「まあ、確かに御者の方には悪い気もするけれど、使うことに対しては何も心配していないわ。魔法はね、使うためにあるのよ。 お母様はあのようにおっしゃっていたみたいだけれど、私は大丈夫だと思っているの。特にここにいる皆ならば別に転移の魔法を使ったところで問題は起こさないでしょう」


セレン様はそうおっしゃられると、大丈夫よねとアーシャとシズクの顔を確認されました。


「はい。もちろんです」


「決して話したりは致しません」


「ほらね」


セレン様は得意げにルグリオ様の顔をみられました。


「話した後に確認しても、なんだか脅迫みたいだよ」


「問題ないわ。普通は見ただけで使えるほどのものでもないし、もし本当に気になるのだったら、あなたがお城で雇ってしまえばいいのよ」


「姉様、大胆過ぎるよ」


「あなたが慎重すぎるのよ」


そこまでおっしゃられると、セレン様はルグリオ様が反論される前に私たち全員を連れて学院の寮の私とアーシャの部屋へと転移されました。





「ちょっと、姉様。ここ女子寮なんだけど」


 転移直後、場所を把握したルグリオ様が慌てたように声をあげられました。


「些細な問題よ。誰も気にしないわ」


「そんなことはないでしょ」


 ルグリオ様が確認されるように私たちの方を向かれたのですが、メルとアーシャそれにシズクは、ほとんど初体験のような転移に何が起こったのか分かっていない様子でした。今まで馬車で移動することが普通だった、というよりも今後もおそらく使うであろう移動手段以外で、速いなどという言葉すら生易しい移動を実際に体験してしまったのですから、割と時間をかけて説明までされてから使った私とは衝撃の度合いが段違いでしょう。というよりも、想像することができません。


「それに、急に中から僕たちが現れたら、ここに残っている生徒やもしいらっしゃった場合に、トゥルエル様が驚かれるでしょう」


「生徒はともかく、トゥルエル様は驚かれないと思うけれど」


 確かに。その部分は私もセレン様に賛成でした。トゥルエル様はきっと驚かれたりはしないでしょう。


「せっかく、はやく戻れたのだからお祭りを楽しみましょう」


 セレン様に手を繋がれると、ようやく衝撃から冷めたらしいメルとアーシャが嬉しそうな、感動したような表情でその手を握り返していました。


「僕たちも行こうか」


「はい」


 ルグリオ様が差し出された手を、シズクにしては珍しくとても感動したような表情を露わにして握り返して顔いっぱいの笑顔を浮かべました。


「ルーナ」


「はい」


私もルグリオ様が差し出してくださった手を、シズクに負けないくらいの笑顔で握り返しました。


「ルグリオ様」


「どうかしたのかな。たしか、シズクさんでよかったよね」


 数度しか顔を合わせていないはずのシズクのこともルグリオ様はしっかりと覚えていらっしゃいました。


「ルーナは嫉妬深いので、私よりもルーナに構ってあげた方がよろしいかと思いますが」


「そ、そんなことはありません。ルグリオ様」


「でも男の方は女性には嫉妬された方が嬉しいって本に書いてあった」


 私は慌てて否定したのですが、続けて私に向けられたシズクの言葉に少し考えました。その程度のことで嫉妬するようでは、呆れられてしまうのではないかとも思っていたのですが。


「そうなのですか、ルグリオ様」


「どうだろう。それはルーナが嫉妬してくれるのは嬉しくないと言ったら噓になるけれど、きっとルーナはそんなことでは嫉妬したりはしないと思うんだ」


「そうですか。大変失礼しました」


「いいや、失礼なんてことは全然ないよ。それよりも、もっと話を聞かせてほしいな。ルーナの学院や寮での様子とか、もちろんシズクさんのことも」


「はい。是非お話させてください」


 シズクはキラキラとした顔をルグリオ様に向けて、学院でのメルとの話や、寮での話を楽しそうに話していました。

 もちろん私も、ずっとシズクに話し役を任せていた訳ではなく、私自身のことや最近あった出来事、例えば対抗戦の話などをしました。

 話している間に寮のホールに出ると、すでにセレン様は取り囲まれていらっしゃいましたが、ルグリオ様がいらしたことにも気づかれた先輩やクラスメイトが私たちの方にも集まってきて、まさにお祭り状態でした。ルグリオ様やセレン様がここにいらっしゃることにつっこむような方はいらっしゃいませんでした。


「あんたたちはもっと静かに登場できないもんかね」


「いつもいつもすみません。トゥルエル様」


「仕方がないのです。私たちは目立ってしまいますから」


「あんたは口が減らないねえ」


 トゥルエル様に挨拶をすると、セレン様は全く困っていらっしゃる様子もないのに困ったような口調で返事をされました。


「それにルグリオ。あんたはここが女子寮だってことを少しは意識しな」


「それはいつも意識していますが」


「まったく。まあいい、今日はお祭りだからね」


トゥルエル様はこれ以上水を差されるつもりはないようで、手を振られて厨房に戻られたようでした。


「じゃあ、行こうか」


 一足先に寮から外へ向かわれたセレン様とその周辺の女子生徒の後に続くようなかたちで、私たちも寮の外、お祭りの真っただ中へと進んでいきました。

 寮に残っていた生徒といってもそれほど多かったわけでもなかったのですが、寮を出て進むにつれて、人が人を呼ぶように、周りには女子生徒、だけではなく男子生徒も集まってきてますます歩くのが大変になったのでした。



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