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私たちもあんな風に

 会場内に選手が姿を見せると、おそらく審判だろうと思われる方々によって競技用の舞台が整えられました。私たちが学内の選抜戦で使用したのは学院の敷地そのものでしたが、対抗戦の本戦で使用される舞台はその時によって異なるようで、今回の場合には私たちの目の前には岩場が広がりました。


「すごいですね」


 そんな陳腐な称賛の言葉しか発することができないような衝撃を受けていた私に、隣にいらしたアリア先輩が捕捉をしてくださいました。


「審判を務められているのは各校から選ばれた先生方だもの。当然のことながら実力のある方達ばかりよ。とは言え、これほどの技量、想像力は確かに称賛、驚嘆に値するけれどね」


 私もルグリオ様やセレン様と一緒にログハウスを作ったことはありましたが、ルグリオ様とセレン様をもってしても一軒のログハウスを組み立てるのに綿密な話し合いとかなりの時間を要されたのですが、人員は多いとはいえこれだけの広大な舞台を整えるというのは、一体どれほどの労力が割かれたのでしょうかと思わずにはいられません。分かっていたことではありますが、学院教師にもなろうという方々の実力には驚愕させられてばかりです。

 今回創造された岩場にしても、会場に直接大きなものを運び入れることはされずに、用意された石や砂等を使用して障害となりうるような大きさ、形、質量のものになるまで変形、合成していらっしゃいました。

 その上、今回創造された舞台は毎回使用されるのではなく、競技ごとに変更されることもあるのだそうです。それらの舞台を毎回準備されるだけの体力、気力、そして何よりも想像力。一体、どれ程の修練を積むと可能になるのでしょうか。まだ学院1年生の私にはとても想像がつきません。私だけではなく、周りの同級生や先輩方、それにこの試合を見に来ている他校の方々も同じ思いだったようで会場内には大きなどよめきとそれに続く夥しい喝采と拍手が広がります。私も精一杯の拍手を送り、心から称賛の気持ちを表しました。


 


 光を使用、利用した魔法によって、試合の模様はどこにいても見ることができます。ですが、やはり会場に詰め掛けている方々の数を見るに直接見る方が迫力や臨場感なども全く違うのでしょう。私たちも応援団など関係なしに、お腹の底から叫び、心の底から熱くなり、力の限りに手を振り地面を踏みしめました。

 自分の学校が攻め入ってチャンスを迎えるとより多くの歓声が、反対側からは同じくらいの声援が飛び、同じ学院の先輩方や他学院の選手の技量に驚嘆し、各校の戦術に感心してどよめきや雄たけびが上がり、掛け声は試合が進むにつれて、試合の盛り上がりと呼応するかのように一層の激しさを増します。


「とても同じ学生とは思えません」


「授業で見るルーナの魔法の技量も確かにすごいと思っていたけど、やっぱり先輩方は違うね」


「学内の選抜戦もかなりすごかったけど、本戦になると気合というか緊張感というか、一層力が入っていて、何か別物みたい」


 同級生や先輩方からも代表選手に対する感想が口々に漏れて聞こえます。


「私たちもあんな風になれるのかな」


「ちょっと想像もつかないよね」


「なれるさ」


 そんな感想が聞こえているのか、アイネ寮長は試合から目を離して振り向かれると素敵な笑顔を浮かべておられました。


「私たちが争った学内の選抜戦のことを覚えているだろう。私やアリア、他の寮の先輩の試合を見ても今日の試合と同じような感想を覚えただろう」


アイネ寮長の言葉に耳を傾けていた全員が首を盾に振ります。


「私たちも入学したてのころには同じようなことを言い合っていた。私たちの場合にはセレン様やルグリオ様もいらしたから、おそらく初めてセレン様やルグリオ様の技量を見た時の衝撃は、今皆が感じているものの比ではなかっただろうと私個人はそう思っている」


 低学年のルグリオ様やセレン様の実力を直接見ることができなかった生徒は、おそらく思い出されているのであろう先輩方を羨望の眼差しで見つめています。


「しかし、皆が感じてくれているように私たちも、自分で言うのはちっとばかし恥ずかしいが、自分たちが憧憬を抱かれる立場へと変わっている。確かに今は想像するのも難しいだろう。しかし、イメージの力はそのまま私たちの魔法の技量へと還元される。だから、自分たちの今抱いている気持ちを忘れずに授業や訓練に精を傾けていけば自ずとそれは自らの力へと変わるだろう」


「寮長って時々格好いい風のことをおっしゃりますよね」


「普段は、トゥルエル様にしてやられてばかりの印象ですけれど」


「寮長に選ばれるだけのカリスマはお持ちなんですね」


 アイネ先輩の演説が終わるとしばらく静寂が訪れましたが、先輩方のそんな言葉が良い感じだった雰囲気をお祭りにふさわしい空気へと変質させます。


「いい度胸だな、お前たち。試合が終わったら覚えていろよ」


「いえ、お祭りらしくすぐ忘れます」


「もう忘れました」


「そんなことより応援しましょう、先輩」


「目を離していると終わってしまいますよ」


 アリア先輩に諫められてアイネ先輩が応援に戻られたので、他の同級生や先輩方も応援を再開されました。

 私はルグリオ様やセレン様の試合を見られなかったことを少し残念に思いました。もちろん、そんなことを口にすればなんと言われるのかは想像に難くなかったので、口に出したりはしませんでしたけれど。



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