ルーナを見に来てるんでしょう
収穫祭の準備も始まろうかという頃になると、夏季休暇を終えて学院に戻ってきた私たちエクストリア学院の生徒も、間近に迫った対抗戦も相まって、まさにお祭り騒ぎの様相を呈しています。
「この時期になると皆授業にも身が入っておらず、私たちも頭を抱えているのです」
リリス先生に対抗戦の詳細を伺いにいった際にも、若干のあきらめを含んだような口調でため息をつかれていました。
「昨秋のようなことはないと思いますが、それだけに今回の気合の入れようも大きいのでしょう」
上級生の先輩方の気持ちの入りようは一段と違っていて、特にアイネ寮長やアリア副寮長をはじめとした5年生の先輩方は、学院にいる間の最後の収穫祭ということもあるようで気合の入りようも一入です。
「残念ながら代表からは漏れてしまったが、何も祭りはそれだけではない。最高学年だからこそ、そして昨年の不完全燃焼を吹き飛ばすためにも今年は最高に盛り上がっていこう」
「私たちが学生いでいられるうちにはこれが最後の収穫祭だものね」
「学生でいるうちにたくさん楽しんでおかないと」
「学院では何か催しでもあるのですか」
1年生は初めて学院で迎える収穫祭が気になる様子で、食事のときなどにも積極的に情報収集を行っていました。
「そうねえ。例えば私の話しでよければ、私は去年は演習場で行われていた模擬戦を見にいったりもしていたよ」
イングリッド先輩のお話によれば、普段は学院内の生徒にしか解放されていない演習場ですけれど、収穫祭の際には学院内の一部区画も解放されるのだそうで、その中で他校の生徒や同学年、先輩や後輩とも模擬戦を行えるようにもなっているのだとか。
「対抗戦とは規模も大分違うけれど、中々ない機会だからね。参加してみるのも面白いかと思っているわ」
対抗戦に出られる方にとっては前哨戦、或いはリベンジの舞台になったりもするのでしょうか。
「先輩方の中にはご自分たちで模擬店を出されてた方もいらしたわね」
「そうなんですか」
「そう言えば、今回は収穫祭の前後のどちらで対抗戦が行われるのですか」
「一応、前ということになっているけれど」
「そうですか」
少し声のトーンが落ちたのは否めませんでした。
「ルーナ。もしかして、前の方が忙しいからルグリオ様がいらっしゃらないのではないかと思ってるの」
隣りで聞いていたアーシャの鋭い指摘に、思わず反応してしまったので素直に白状しました。
「そうですね。きっと来てくださるとは思いますが、お忙しい中で無理をされるのではないかと」
「そんなわけないじゃない」
アーシャは自信たっぷりでした。
「私が直接ルグリオ様とお会いしたのは盗難事件のときだけだけれど、ルーナが想っているのと同じかそれ以上にルグリオ様はルーナのことを好きでいらっしゃるように感じたよ。だからご無理何てされるはずはないし、いらっしゃらないはずもないじゃない」
「そうでしょう、いえ、そうですね。きっと来てくださいます」
前回も約束いたしましたし。
「楽しみだね」
「そうですね」
そしてついになのかようやくなのかはわかりませんが、私たちは対抗戦を迎えたのです。
応援団といっても普通は一つしか身体はありませんから、他の会場まで一人が全ての会場を回っているとさすがに、選手は別にしても、疲れてしまいますから多くの生徒は自分のホームに一番近いところに陣取ることになります。
「あの、本当にこの衣装で応援するのですか」
「いまさら何言ってんの」
「大丈夫大丈夫。とってもよく似合っているから」
私は例の応援用の衣装に身を包んで、ポンポンを身体の前に持って来て、ホームの応援用の席で隣にいるメルの陰に身を隠します。
「どうせ他の学院の生徒からは見えないし、まあ、男子はいるけれど、私たちはもう見てるから」
「でもやっぱり短すぎると思うのですか」
一応、アンダースコートは履いているのですが、何となく気になります。それに、アンダースコートなら見えても構わないと開き直ってもいません。
「大丈夫よ。この衣装には古の魔法がかけられているから」
「アリア先輩」
アリア先輩が着ると、同じ衣装なのに私の物とは全く別物に見えます。主に上着やスカートの膨らみが。胸の位置には校名が書かれているのですが、芸術家の方が描かれたようになっています。
「古の魔法とは一体何ですか」
自分のスタイルのことは考えないようにして、気になったことを質問しました。
「それはね。この衣装、いかにも見えそうだけれど、絶対に見えることはない。けど見えそう、だけどやっぱり見えない。そういう風になっているのよ」
「本当ですか」
そのような魔法があるとは知りませんでした。
「だから安心して飛んだり跳ねたりしていいのよ」
「いえ、そこまでは」
「そう。残念」
間もなく選抜戦の開始の宣言が出され、しばらく待っているとエクストリア学院の選手生徒も私たちのいる会場に姿をみせました。
「すごい気合の入れようですね」
対戦相手の学校の方たちは選手だけでなく、応援の方も会場を移動されていらっしゃいました。決して近いとは言えない、どころかむしろ遠いとも言える距離を移動されてくるというのは、転移の魔法を使っていらっしゃるわけでもないでしょうからとても大変だと思うのですが。
そして、エクストリアの選手の方を含めて、皆さんの顔は私たちの学院の方へ向けられています。これから戦う相手の情報を少しでも収集しようということでしょうか。
「どうしたのですか、アーシャ」
私が対戦相手の学校の方々に驚いていると、アーシャは呆れたような顔をされていました。周りを見ると、アーシャだけではないようで、なぜかほとんどのこの場にいらっしゃる学院の生徒から同情するような、何とも言えない視線をむけられました。
「いや、普通はあんなに大勢で移動なんてしてこないわよ」
「私たちだってこの会場から移動したりしないでしょう」
「そうですね」
なぜか私一人だけが状況を理解していないようでした。
「つまり、あの人たちの目的はこの会場に来ることってことでしょ」
「この会場が私たちのホームなのはわかり切っているからね」
「だから、自分の学校の応援というのももちろんあるだろうけど、ルーナを見に来てるんでしょう」
「だからって隠したりはしないけどね」
そして歓声とともに試合も開始されました。