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ボートに揺られて

「ルグリオ様。セレン様とハルミューレ様をお二人きりで残してきてしまって大丈夫なのでしょうか」


「心配いらないよ。何かあっても姉様なら逃げ・・・たりはしないと思うけれど対処できると思うから」


 セレン様とハルミューレ様を浜に残して、私とルグリオ様は水着に着替えると舟を使って沖に出ていました。私の水着はセレン様と一緒に選んだもので、フレアで覆われている濃い黄色のビキニタイプのもので、下の方は両横を紐で結ぶタイプのものです。もちろん、船に乗るときには上から羽織るものも着て来ています。

 舟といってもたくさんの人が乗れるような大きなものではなくて、二人で乗ると結構スペースを取ってしまうような小さいものです。

 ルグリオ様は風と波とを上手に操られていて、私たちを乗せた舟はゆっくりと海の上を進んでいきます。


「うぅ、しょっぱいです」


「ははっ。それは海水なんだから、舐めたらしょっぱいのは当たり前だよ」


 舟から手を出して海水に指をつけて舐めてみると、吹いてくる風と同じく、でももっとしょっぱい味がしました。

 



 しばらく波に揺られながらのんびりと漂っていたのですが、砂浜からそれほど離れるでもないところでルグリオ様は舟を止められました。


「ルーナ、これを」


 ルグリオ様に渡された物はゴーグルのようでした。しかし、水泳の授業のときに使ったものよりは覆われる部分が広く、鼻の下あたりまでをすっぽりと覆ってしまえるようなものでした。


「空気の膜で覆ってしまった方がいいのかもしれないけれど、それだと万が一、急に海水がとぎれているところに入ってきてしまった魚を殺めてしまうことになるからね」


 合図をしたら息を大きく吸い込んでそれから止めてと言われたので頷くと、手を引かれて、抱き寄せられる格好でルグリオ様の腕の中に同じ方向を向くような形になりました。私は渡されたゴーグルを装着すると、羽織ってきた上着をしまいました。


「じゃあいくよ」


 ルグリオ様の合図に合わせて息を止めると、しっかりと抱き寄せられたまま海の中へと入っていきました。




 海の中で私の瞳の中に入ってきた光景はそれは雄大で幻想的なものでした。

 周りは海に囲まれているので聞こえてくるのは水の流れと生き物たちのたてる音、それに自分の鼓動くらいの静かなところです。

 海の底の方で仰向けになって水面を見上げていたのですが、太陽の光が水面に反射して眩しくきらきらと波に揺られています。魚たちが横切ると、その部分の光が遮られて小さな影を落としました。水面に映る太陽に届くかと思って手を伸ばしてみたのですが、全然掴めそうにはありません。

 思わず口元が緩みそうになるのを慌てて抑えると、ルグリオ様が私を連れて水面まで上がってくださいました。


「はあー、はあー」


 水面に上がると、大きく息を吐き出します。私はすっかり興奮していて、心臓が早鐘を打つのが感じられます。


「ルーナ、苦しかったかい」


私が口を押えていたので、呼吸が苦しくなったのだと思われたのでしょうか。


「いいえ。あまりにも素敵な光景でしたので思わず口元が緩みそうになって。ありがとうございます、ルグリオ様」


「ルーナに喜んでもらえたのならよかったよ」


そう言って飲み物をカップに入れて差し出してくれました。


「ありがとうございます」


私は再度お礼を告げてカップを受け取りました。その間にルグリオ様は真っ白なタオルを取り出されて、私の髪を優しく拭いてくださいました。少しくすぐったかったので、私は目を閉じて首をすくめました。




 そのまましばらく波に揺られてから浜辺に戻ってくると、セレン様とハルミューレ様はお二人でシートを敷かれてその上に座ってこちらを眺めておられました。シートの近くには複数の足跡が残されていました。


「今は一応プライベートだから、悪かったのだけれど他の人には遠慮して貰ったわ」


「姉様ならさぞ人目を引いたことだろうね」


 セレン様はルグリオ様と同じでとっても美人ですし、それは見事なプロポーションをされているので、王女様ということを抜きにしても人目を引くことでしょう。

 ハルミューレ様も他の方からしてみれば、ルグリオ様と同じくらい格好良く見えることでしょう。私にとってはルグリオ様が一番なのですけれど。


「ルーナ。しっかり浄化の魔法はかけておきなさい。日焼けをすると痕に残るわよ。私は海には入らないから、サンオイルを自分で塗ったけれど」


「わかりました」


 魔法を使えば治るのですが、少しの間でも痕に残るのは嫌だなと思ったので浄化の魔法を使ってからサンオイルをセレン様から受け取ります。


「姉様は自分で塗ったの」


「ええ。サンオイルだって水のようなものだったから、案外簡単に自分で全身に塗ることはできたわ」


 セレン様は面白そうに目を細められると、私の方を見られました。


「ルーナはルグリオに塗ってもらったらいいんじゃないの」


「どうする、ルーナ」


ルグリオ様は一瞬戸惑われたようですが、私の方を見て尋ねられました。


「よろしいのでしょうか」


「大丈夫だよ」


「では、よろしくお願いします」


私は上着を脱ぐと、上の水着の紐を外してうつ伏せに寝ころびました。


「なんだ、残念。もっと慌てるかと思ったんだけど」


「そんなことはないよ姉様。今だって心臓はドキドキしているよ。でも、ルーナとはもう一緒にお風呂にも入ってしまったし、今更もういいかなって」


「その話、私は聞いていないのだけれど」


 セレン様は鋭い目つきで問われました。


「前はそのことは省略したんだよ」


「なんでよ」


「こういう風に問い詰められると思ったからだよ」


ふーん、とおっしゃられてセレン様は残念そうな顔を浮かべられました。おそらく、以前一緒にアースヘルムへと来られなかったことを思い出されているのでしょう。


「今度は一緒に行こうと言ったよね」


「そうね」


私も今度はもっと大勢で、セレン様やハルミューレ様とも一緒に帰りたいなと思いました。


「ルグリオ様とルーナ様はもう一緒にお風呂まで入られたのですか」


 ハルミューレ様も興味を引かれたご様子でした。


「ええ。以前、ルーナのご両親にご挨拶に行ったときに」


 それから私にオイルを塗ってくださる間、ルグリオ様はセレン様とハルミューレ様に詳しい話をされていました。サンオイルを塗られるのはくすぐったかったので、変な声が漏れそうになりました。






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