4人で夏期休暇のバカンス
お城の外にハルミューレ様が泊まり込まれているということは、当然ですがコーストリナ中の人に知れ渡っています。ハルミューレ様もずっとお城の門の前に座り込まれているというわけではないようで、私もルグリオ様も出かける時などにはお会いする方皆様にセレン様とハルミューレ様のことを尋ねられます。
「セレン様もご結婚なされるのですね」
「結婚式はいつ頃あげられるのでしょうか」
「お相手はこの前訪ねていらしたハルミューレ様ということですが」
「私もハルミューレ様がコーストリナへいらしたときにセレン様のことを尋ねられました」
「遠いところから記憶を頼りに追いかけていらっしゃるなんてとても情熱的な方なのですね」
国中ではすでにご結婚されることが決まっているかのような盛り上がりを見せています。周りが盛り上がると当人の気持ちは冷めていくものだとはよく言われるそうですが、ハルミューレ様はそのようなことはないようです。
「先日もアルメリア様に連れて来られたセレン様とお茶をいただかせてもらったのですが、とても幸せなひと時でしたよ」
「姉様の様子はどうでしたか?」
ルグリオ様に尋ねられると、ハルミューレ様は首を振られました。
「私に付きあってくださっているので嫌われているわけではないと思いたいのですが。私もセレン様の気持ちを無視してまで結婚を申し込むつもりはありませんから、セレン様にもこういったことに興味を持っていただければ嬉しいのですが」
セレン様は結婚や恋愛には興味がおありにならないご様子なので、ハルミューレ様のことをどうこうと思っていらっしゃるわけではないと思うのですが。
「何かきっかけでもあればよいのでしょうけれど」
セレン様が好きにしろ嫌いにしろ、ハルミューレ様に心を動かされるようなきっかけが。
「そうだね。じゃあ、そのきっかけを作りに行こう」
ルグリオ様は私の手を取られると、失礼しますとハルミューレ様に断ってからお城へと戻られました。
「姉様、ハルミューレ様と一緒に出掛けませんか。せっかく夏期休暇でルーナもお城に戻ってきていることですから」
セレン様の部屋まで来られると、ルグリオ様は遠まわしな言い方はされずにセレン様を直接誘われました。
「なんで一緒に出掛けなければならないのよ」
セレン様は面倒そうな口ぶりで気乗りしない様子で私たちを見られました。
「出かけたければ、あなたとルーナが一緒に行けば済む話じゃない」
「姉様だっていつまでもハルミューレ様がお城の外で構えられっていると、母様が毎日のようにやってきてすこしうるさく思っているでしょう。だから、一度一緒に遠出でもして、そこで本当に結婚する気がないのかどうか確かめればいいじゃない。もちろん、僕とルーナも一緒についていくから」
セレン様は考え込まれている様子でしたが、私たちが引かない様子だったのと毎日アルメリア様にせかされるのが面倒だと思われたのか、仕方ないわねと了承してくださいました。
「じゃあ、僕は母様に出掛ける旨を伝えて来るから」
ルグリオ様は私にセレン様がどこかへ行ってしまわれないように見ていてと頼まれてアルメリア様のところへ向かわれました。
「ルーナはハミューレ様のことをどう思っているの」
ルグリオ様が部屋から出ていかれるとセレン様に尋ねられました。
「少しお話しただけですけれど、正直な方だとは思いますよ。まだ数度しかお話させていただいておりませんので本当のところはわかりませんけれど」
「そうね、いきなり結婚を申し込んでくるような軽薄な方だと思っていたけれど、見た目で判断してはいけないものね」
「では」
「ええ。ずっとこの城に閉じこもっているのは性に合わないし、ルグリオの言う通りいつまでもお母様にこられるのもあれだものね」
そう言われると、セレン様は衣装ダンスや小物入れから旅行支度と思われる準備をされ始めました。
「ルーナも準備してきたらいいのではないかしら。海でも山でもどこへでも行けるように」
「わかりました」
私が準備に戻ろうとしたところで、扉がノックされてルグリオ様が戻っていらっしゃいました。
「本当に4人だけで行かれるのですか?」
「ええ」
「私たちが警護を」
「バカンスに警護なんて必要ないわ」
私たちが出かけるときになっても、4人だけ、ルグリオ様、ハルミューレ様、セレン様それから私だけで出かけるということには、お城の警備をされている騎士の方達から危険視する声も上がりましたが、アルメリア様は全く心配されていないようでした。
「国王様のことなら気にしなくていいわ」
私はヴァスティン様のお姿が見えないことを不思議に思っていたのですが、アルメリア様はそちらも大丈夫よと微笑まれました。
「せっかく出かけるのだからだから、命一杯楽しんできなさい。でも、あまり危ないことはしてはだめよ」
「出かけていいのなら、私一人ででかけるのに。ルグリオもルーナも二人の方がいいでしょう」
「それだとあなたはすぐに逃げ出すでしょう」
アルメリア様はルグリオ様を見据えられて、セレン様をしっかり見ているようにと告げられました。
「じゃあしっかりとするのよ」
「出かけ先は一応残しておきます」
ルグリオ様は私と一緒に考えてくださった出かけ先のメモをアルメリア様に渡されました。
「では、行ってまいります」
「セレン」
「わかっています、お母様」
「よろしい」
アルメリア様は微笑まれるとセレン様を抱きしめられました。
「私はいつでもあなた達のことを想っているわ。本当に嫌ならこれ以上の無理強いはしないから」
それから私のことも抱きしめてくださいました。
「せっかくの夏期休暇なのだから、たくさん思い出を作ってきなさいね」
「はい」
私たちは離れ離れにならないようにしっかり手を繋いで、バカンス先まで転移の魔法を使いました。
転移した先はコーストリナからは大分離れた、うだるような暑さではなくカラっとした暑さの真っ白な砂浜でした。目の前には底の方まで透けて見えるような綺麗な海が広がっています。
「これが海ですか」
私はドレスではなく、真っ白なノースリーブのワンピースを海風にはためかせながら目の前に広がる光景に目を細めました。
「ここは無人島という訳ではなさそうだけれど、それほどたくさん人がいるわけではないから、僕たちでも思い切り楽しめそうだね」
「そうですね」
私がルグリオ様としばらく景色を眺めていると、セレン様と少し離れた後ろからハルミューレ様がいらっしゃいました。
「まあ、元々海には来るつもりだったからいいのだけれど。とりあえず、寝泊まりするところを作りましょう」
そうおっしゃられると、セレン様は以前作ったログハウスを設置されました。
「本当にしまっておけるんだね」
「ええ。それにあれから私も成長しているから、今ならもっと大きなものでも作ってしまっておけそうね」
とても驚かれている様子のハミューレ様には、ルグリオ様が収納のことと以前抜け出したときのことを大分省かれながら説明されていました。