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ハルミューレ様の主張

 夏季休暇が始まりコーストリナのお城に戻ってきた私は、もちろん、ルグリオ様に誘っていただいたデートにも出かけるのですが、普通に出かけようと思うと転移ではなく馬車を使うことになり、その度に城の外にいらっしゃるハルミューレ様ともお会いします。

 当然ですがハルミューレ様もずっと門の前に座り込まれているようなことはなされていないようで、お城の隣の孤児院で、サラや子供たちと交流を深めておられたり、セレン様はいらっしゃらないのですが、アルメリア様はよくいらしているようで楽し気に談笑などをされたりしています。

 私もルグリオ様やアルメリア様と一緒にお話を伺ったりします。


「セレン様のどこがお好きなんですか?」


「そうですね。もちろん、私も男ですから顔や身体に興味がないということはありません。最初にセレン様をお見かけした時には本当に美しい方だと思いました」


 ハルミューレ様は、ハハハと遠くを見るような、思い出されているような瞳で中空を見つめられました。


「そこで思わず、一言目から結婚を申し込んでしまったのがいけなかったのでしょうかね。まさにゴミでも見るかのような表情をされてしまいましたよ」


 お城を抜け出されて自由を満喫されようとしたところで、いきなり初対面の男性に求婚されたら、それはセレン様の気分を害されたかもしれません。セレン様は自由に楽しく生きることを至上と掲げられていますし、結婚されるつもりは、少なくとも今のところはないのかもしれません。


「そうしてセレン様はどこかへ消えてしまわれたので、のちほど転移して戻られたと聞いたときにはとても驚きましたが、私は一目見たセレン様の容姿を頼りにここまで辿り着いたというわけです」


「それはすごいですね」


 結婚を申し込まれて実質断られたのにもかかわらず、容姿だけを頼りにセレン様に辿り着くなど並大抵のことではありません。


「それでこのコーストリナに辿り着いたわけなのですが、セレン様はよくお城を抜け出されて国民の方や国外の方ともよくお顔を合わせられるのだと、コーストリナのどこへ行ってもそう聞きましたよ」


 学院の方まではそのような、セレン様に求婚していらっしゃる方がいるなどという噂は届いていませんでしたが、この近くは盛り上がっていたのでしょう。もしかしたら今もそうなのかもしれません。


「それなのにすみませんね。まったくセレンも話くらいは聞いてみてもいいと思うのだけれど……」


 アルメリア様も真っ白なテーブルと椅子を運び出されていて、すっかりこの場になじまれていらっしゃるようです。


「いえ、アルメリア様。私もすぐにセレン様が振り向いてくださるとは思っておりません」


「ですが、姉様もそれほど嫌っているわけではないと思うのです。もし逃げ出そうと思えば、いつでもこの城くらいは抜け出せるだけの準備はしていましたから」


「まずは、セレンをここに連れて来ることからはじめましょう」


 アルメリア様はとても楽しそうでした。ヴァスティン様とは態度が正反対でしたので、父と比べて、父親というのはどこでも父親なのだなと思いました。




「セレン、ちょっといいかしら」


 アルメリア様と一緒にセレン様のお部屋までついてきたルグリオ様と私ではありましたが、セレン様は一向にお部屋から出て来られる気配はありません。


「仕方ないわね。二人とも捕まっていて」


 私とルグリオ様がアルメリア様に捕まると、アルメリア様は転移の魔法でセレン様のすぐ前に出られました。

 セレン様は予期していたようではありますが、やはり少しは驚かれたようでした。


「セレン、あなた何をそんなに嫌がっているの?」


「ですから、私は出会ってすぐに結婚を申し込むような軽薄な方と結婚する気はありませんと申し上げたはずです」


「それは仕方がないわよ」


 アルメリア様はセレン様の両肩を優しく抱かれます。


「だって、あなたは私の自慢のこんなに素敵の娘ですもの。世の中の男性が皆あなたに一目で求婚してもまったくおかしくないわ」


「そんなことはわかっています」


 セレン様は椅子に座られたまま顎を手にのせられると、窓から外を見降ろされました。


「だったら、とりあえずデートにでも行ってきなさい。全く知らずにお断りするのも失礼ですから。ハルミューレ様の為人を少しも知らずに帰ってきたのでしょう」


「ちょっと、お母様」


「いいからいいから」


 アルメリア様は強引にセレン様を連れて行かれてしまいました。

 ですが、私もセレン様はそれほどひどくは嫌がっていないのではないかと思うのです。ただ面倒くさいだけなのではと。逃げ出そうと思えばいつでも転移で逃げ出せるのですから。


「きっと姉様もそれほど嫌がってるわけじゃないと思うんだ。もしかしたらどうでもいいと思っているだけなのかもしれないけれど」


 ルグリオ様が私の方を見ておっしゃいました。


「本気ならどこへでも行けるし、直接断ると思うんだよね」


「そうですね。マーレス様がいらしていた時には抜け出されましたし」


「姉様も母様にはまだ勝てそうにないからね」


 私は部屋からアルメリア様と連れ出されたセレン様の後を追うことはしないで、ルグリオ様と一緒に部屋に戻って、これから先の夏季休暇の予定を立てたり、巷で人気と言われている双六などをしてお帰りを待ちました。

 その予定も、セレン様がご結婚なさると泡となって消えてしまうのですけれど、それはそれで素敵だと思いました。


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