盗難事件の決着
「セレン様、ルグリオ様。私は上手くできたでしょうか?」
セレン様の腕に抱かれたアーシャが感触を確かめるようにぎゅーっとセレン様の腰に抱き着いています。
「ええ。怖かったでしょう、もう大丈夫よ」
「えへへ」
セレン様はアーシャの髪を大事物を扱うように優しく撫でられていて、アーシャはセレン様の胸に埋もれて至福の笑顔を浮かべています。もちろん、その間もルグリオ様やリリス先生、それに私もジュール先生から視線を逸らしたりはしませんでした。
「さて。ジュール・グフビル教諭、と今はまだそう呼ばせていただきましょう」
ひとしきりアーシャがセレン様の胸に埋もれるのを堪能して離れたところでルグリオ様が話し始められました。
「現行犯であるあなたには、本来尋ねる必要はないのですが。一応聞いておきましょう。何か弁明はおありですか?」
ルグリオ様は双眸も険しくジュール教諭を睨んでいらっしゃいます。私はアーシャのルームメイトとして、部屋でじっと待ってはいられなかったのでこの場に残りました
私も囮になろうかと一応志願したのですが、アーシャに、実力がある生徒よりも1組とは言えただの1年生の私の方が適任でしょ、と押し切られてしまい、結局アーシャにその役目を譲りました。
「何を弁明しなくてはならないことがあるでしょうか」
ここに至ってもいまだに誤魔化すことができると思っているのかどうなのか、本当のところはわかりませんが、ジュール先生は逃げようという素振りも見せずにとぼけるようにこちらを振り返られました。
「もちろん、今回のことを含めた一連の制服盗難及び強姦、セクハラに対するものですよ」
「言いがかりも甚だしいですね。強姦にセクハラなどと」
しかし、その程度のお粗末な言い逃れが通用するはずもありません。ルグリオ様は冷静な口調で追及を続けられます。
「そうでしょうか。今もこちらの女子生徒、アーシャ・ルルイエさんに迫っておられたように見受けられましたが。同意もなく女性に、ましてや自分の学園の生徒に対してそのような行為を働くことはセクハラ以外の何物でもありませんよ」
「ちなみに、あなたがこの部屋に入ってからのことは全て私たち全員で監視していたわ。あなたが部屋に入り鍵をかけるところも、嫌がる女子生徒に迫るところもすべてね」
セレン様もアーシャの髪を撫でられてながらも、冷ややかな視線をぶつけられます。
「ぐっ」
小さな歯ぎしりがジュール先生から洩れました。
「なぜだ、なぜ今回に限ってこんなにタイミングよく」
ジュール先生が呟かれた言葉は、小さくて私のところからは口が微かに動いているところしかうかがえませんでしたが、内容の想像はつきました。
「まさか」
ジュール先生が愕然とした表情を私たちへと向けられました。
「ええ。どうやらあなたは余程上手くやっていたようね。先程あなたがここに足を踏み入れるまでは、噂のような想像された情報はあっても、決定的な証拠というのは押さえられてはいなかったのよ。だから今回も徒労に終わる可能性は十分にあった。あなたが今までどれほどのことをしてきたのか私にはわからないし、その方法、手段もわからないわ。けれど、とにかくあなたは今まで失敗することはなかったし、露見するとも考えてはいなかった。その油断が今回の結果をもたらしたのよ」
セレン様が話し終えるのを待たれてから、ルグリオ様が再度問われました。
「もう一度お聞きします。今回の制服盗難、及び女子生徒からあげられているセクハラに対する弁明は何かおありですか」
ジュール先生は何も答えられませんでした。
「ではリリス先生。後はお願いしてもよろしいですか」
「はい。ご協力してくださり感謝の言葉もございません。これで、生徒も不安なく試験に臨むことができるでしょう」
リリス先生はジュール先生を連れていかれました。
「つまり、私たちがいなくなってから行われるようになったということでしょう」
私たちが学生寮に戻るのをルグリオ様もセレン様も送ってくださいました。
遅くなってしまったので、トゥルエル様や先輩方に事情を説明しなくてはならなかったですし、私たちだけでは、危ないことをするんじゃない、そんなことは任せておけばいいんだよ、とお説教されることは目に見えていたからです。
寮に着くなり、私やアーシャは当然としても、セレン様はともかくルグリオ様まで女子寮生に歓迎されていました。
「あの、僕は女子寮に入るつもりはないんだけれど」
「いいえ、ルグリオ様ならば構いません」
先輩方も同級生と同じ意見のようで、ルグリオ様は抵抗されていたのですけれど結局セレン様が、いいんじゃない、とおっしゃられてそれに後押しされた先輩方に連れ込まれておられました。
夕食の席にはルグリオ様もセレン様も一緒に着かれて大層盛り上がりました。
ジュール先生が捕まったことも、先輩方には悩みの種が一つ解消したようで、その日の夕食はまるで試験のことなど忘れているかのような盛り上がりを見せました。
「じゃあ、今回はチアリーディングをやるんだね」
「そうなんですよルグリオ様」
「ルーナの衣装姿はとっても可愛かったんです」
「その他にも色々着て貰ったのですけれど、どれもとても似合っていて」
私は恥ずかしかったので自分からは言わないようにしていたのですけれど、最近は雨やら試験やらで楽しい話題もありませんでしたし、何より先輩方がお祭りを楽しむかのように楽しそうに話されていたので、私は妨害も相まってその話題を止めることは出来ませんでした。
「どうぞ、お持ち帰り下さい」
「まだまだたくさんあるので」
「いや、それは」
「是非いただくわ」
あれらの衣装の持ち帰りを、ルグリオ様は遠慮されていらしたのですが、セレン様が全て持ち帰られることに決められてしわれました。セレン様はとても楽しそうなお顔をされていました。
それからも他愛のない話が多かったのですけれど、とても楽しい時間でした。