制服盗難?
「落ち着いて、状況を説明してください」
更衣室中ですでにこの事件のことを知っていて、すぐにでも騒ぎ出す生徒が現れないとも限りません。そうすると収拾がつかなくなる恐れがあるため、機先を制して落ち着くように声をかけます。とりあえずは、私の声を聞いてくれたようでざわめきは少し治まりました。
私は第三者、先生方に説明するべく状況の説明を頼みました。
「制服が違うものというのはどういうことでしょうか?」
私が尋ねると、タオルを身体に巻き付けたままの方が話をしてくれました。
「私たちは、授業が始まる前に着替えを済ませた時には、間違いなくこのロッカーに脱いだ制服を入れておいたんです」
「ですが、今、授業が終わって着替えようとしてみたら、制服と、その、下着が自分の物とは違うんです」
失礼とは思いつつも拝見させてもらうと、どれもどうやら新品のようでした。
「やっぱり」
「きっとそうよ」
「先輩たちが言っていた通り」
「教官室に文句を言いに行きましょう」
他の生徒の方が感情の高ぶりが大きいようで、今すぐにでも駆けだしていってしまいそうな勢いです。
「待ってください」
私は彼女たちが先走って行動を起こしてしまう前に呼び止めます。
「ルーナ」
「どうしてとめるの」
私は努めて冷静に話を続けます。
「確かにあなた達が感情的になって走っていきそうになるのもわかります。先輩方がおっしゃっていたようにジュール先生が犯人なのかもしれません。ですが、現在の段階では証拠も何もありません。こちらの思い込みだけで行動してしまって無理が通せるほど私たちは強くはありませんから。もしかすると、より悪い方向へ転がってしまう恐れもあります」
ルグリオ様やセレン様なら無理を通してしまうことも出来るのでしょうけれど。
「より悪い方向というのは一体どういうことになるのでしょうか?」
「考えられる可能性の一つとしては、言いがかりだと責められて、逆にこちらが悪いかのように言われてしまうということです」
「そんな」
私は既に着替えが終わっているクラスメイトの方たちに頼みます。
「申し訳ありませんが、どなたか購買まで行って制服を一式購入するか、女子寮の彼女たちの部屋に行って代わりの制服を用意してきてはいただけないでしょうか」
同意の声とともに、数名が更衣室から出ていきます。
「ルーナはどこへいくの?」
アーシャに尋ねられます。
「私はリリス先生のところへ。担任で女性の先生ですし、個人的にも相談しやすいですから」
私は付いて行くと言われるのを特に断ることもなく、少し失礼しますとこの場に残るクラスメイトに告げて、リリス先生の下へと急ぎました。
簡単に状況の説明だけをしてリリス先生に更衣室まで来ていただくと、まだ購買に行かれた方たちは帰ってきてはいないようでした。
「なるほど。状況は理解しました。とりあえず、着替え終わり次第、教室まで戻ってきてください。帰りのHRを済ませてしまいましょう。放課後の方が何かと動きやすいですから」
「それで、リリス先生。ジュール先生がどちらにいらっしゃるのかご存知でしょうか?」
私がクラスメイトが気になっていることを代表して尋ねます。
「確かに、一番疑わしい人物ではありますが。彼がボロを出すとは考えられにくいですね」
教員の間でも有名なのか、リリス先生も難しい顔をされています。
「残念ながら。ですが、リリス先生が少し目をつぶっていてくだされば、私がルグリオ様かセレン様に頼みに行って参ります」
今はまだ自分で解決することは出来ません。私にはまだその権限がないからです。だからといって、クラスメイトの危機に甘んじているほど、何もできないわけではありません。
私はリリス先生の顔を正面から見つめます。
「馬車を用意するのには時間を要しますが」
「必要ありません。一刻を争いますから」
私に考えがあると思ってくださったのでしょう。リリス先生は、わかりましたと頷いてくださいました。
「学院の方では私がどうにかしておきましょう」
「ありがとうございます」
私は更衣室を出て、人目のつかないところに来たことを確認すると、ルグリオ様のところまで転移しました。
私が現れると、公務の途中だったらしいルグリオ様は大変驚かれました。
「どうしたの、ルーナ? なんでここに……。まだ、夏休みまでは時間があったよね?」
私が謝罪をする前に、ルグリオ様は手で制されました。
「いや、ルーナが学院から転移して直接僕のところまで来たということはよほどの事態が起こったんだね?」
「はい」
「……姉様もいた方がいいのかな?」
少し待っていてね、と言われて出て行かれたルグリオ様を、ルグリオ様に勧められた椅子に座って待っていると、しばらくしてセレン様を連れて戻ってきてくださいました。
「久しぶりね、ルーナ。それじゃあ、事件の内容を聞かせて貰えるかしら」
「はい」
私は学院で起こった事件の内容を、私の知る限りで話しました。
「ふーん。ジュール先生ってそんな噂になっていたんだね」
ルグリオ様もセレン様もジュール先生のことはご存知ないようでした。
「おそらく私たちがいたからあまり過激な行動は控えていたのね」
ルグリオ様とセレン様は頷かれると、私の方へと顔を向けられました。
「わかったよ。とりあえず、学院に行こう」
「私はお母様に説明だけしてくるわね」
私はセレン様が戻られるのを待ってから、ルグリオ様とセレン様と一緒に学院近くへと戻りました。