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水泳の授業

 雨季も明けると、コーストリナでも本格的な夏が始まります。それまで地上を照らすことができなかった太陽が、これでもかというくらいに地上に降り注ぎます。

 暑すぎるということもないのですが、さすがに私たちエクストリア学院の学生も、世間の方達と同じように、薄地で半袖の夏服へと装いを替え、少しでも涼しさを取り入れようとブレザーやネクタイ、リボンに秋までのしばしの別れを告げます。

 この時期になると学院では休みの日に、もちろん男女別ではありますが、プールも解放されています。 試験勉強の息抜きや、運動の目的などでも利用する生徒や教師の方も少なくない数がいらっしゃるという話です。

 それと同時に、運動科目でも水泳が実技種目として扱われることになります。




「ルーナって、もしかして泳いだこともないの?」


 夕食後に部屋で勉強をしながらアーシャに尋ねられました。

 今日は二人部屋を使って勉強しているため、周りに他のクラスメイトや同級生、先輩方はいらっしゃいません。


「ええ。さすがに水遊びをしたことがないわけではありませんが、授業で行われる水泳のようなことは今まで経験したことはないですね」


「……もしかして、ルーナ泳げないの?」


 しばしの沈黙が部屋を支配します。

 私も成長していますから、ペンを取り落とすようなことはしません。ノートも無事です。


「いえ。人が水に浮く構造は理解していますから、手と足で水を掻けばいくら私が初めてだといっても水中を進むことは出来るでしょう」


 アーシャがノートから目を上げて、机の向こう側からじとっとした目で私を見ています。

 決して圧力に負けたわけではありませんが、私はノートに目を落としました。試験勉強をしているのですから、不自然なところはないはずです。


「わかった。じゃあ、私が教えてあげる」


「本当ですか」


「やっぱり泳げないんだね」


 ぐっ、引っかかりました。

 思わず顔を上げてしまった私に、アーシャはふふっと小さく笑いました。


「大丈夫。私に任せなさい」


「お願いします」


「はい。お願いされます」


 私たちは顔を見合わせて笑い合いました。


「ところでここなんだけど」


「これはこちらの式を使うんです」


 こうして夏の夜も更けていきました。




 迎えた休日前の最終日、昼食を摂った私たちは水着に着替えるためにプールの近くの更衣室へと向かいました。

 不本意ながら先日スクール水着の試着は済ませてしまったので、今回は着方がわからないということはありません。


「いや、それが普通だから」


 私は水泳をしたことはないのですが、クラスメイトの皆さんは泳いだことがないはずもなく、当然水着を着るのに手間取るようなことはされていません。


「寮のお風呂でルーナの裸は見たこともあったけど、なんか違う魅力に溢れているよね」


「制服や体操服のときも思ったけど、私たちの水着とは別の物みたい」


 幸い、と言ってい良いものかわかりませんが、今回はポーズをとらされるようなことはなく、私たちはプールへ向かいました。




「今日からは短い期間ではあるが水泳の授業を行う」


 私たちがプールサイドの集まってからしばらくすると、体育教師のジュール先生がいらっしゃいました。

 通常の体育の授業と同様、男子生徒は別の場所で授業を受けているためこの場にいる男性はジュール先生だけです。

 今日は初めての水泳の授業ということもあり、いきなり泳げと言われることもなく自由時間だったため、私はアーシャに泳ぎ方を教わりました。


「は、離さないでくださいね」


「わかってるわかってる」


 アーシャに見本を見せて貰ってから、私はアーシャに手を引かれながら両足を恐る恐るプールの底から離します。


「そうそう。上手上手」


 アーシャの指導が上手なのか、しばらくは私がアーシャの片手に捕まり、アーシャがもう片方の手で私のお腹を支えてくれながら進んでいたのですが、しばらくするとアーシャに手を引かれるだけでも進めるようになりました。


「今度は顔を水につけながらやってみよう」


 私は言われた通り、顔を水につけてゆっくりと足を動かします。顔の前に空気の膜でも作れば楽になるのでしょうが、それでは意味がないので作りません。


「ルーナ、これ」


 アーシャにゴムで縁取られたサングラスのような物を渡されます。


「ゴーグルって言うんだけどね。あった方が全然違うから」


 私がグラスの部分を持っていると、アーシャが頭の後ろにゴムをかけてくれたので、私も目に合わせます。


「本当に全然違いますね」


「そうでしょう」


 先程、水の中で目を開けた時とは全然違います。先程はまったく視界が定まらなかったのですが、今ははっきり見えます。


「上手になったじゃない」


 視界があるのとないのとではまったく違います。


「ありがとうございます」



 その後、息継ぎの仕方を教えてもらった私は、アーシャに助けられながらではありますが、2時間続きの授業が終わるころにはプールの端まで泳ぐことが出来ました。


「アーシャの教え方が上手だったからです」


「そんなことないよ」


 アーシャは少し照れているようでした。




 

 授業が終わり、身体を流して浄化の魔法を使ってからタオルで身体を拭いて着替えようとしたところで、反対側で着替えていたクラスメイトの方からざわめきが広がってきました。

 私はアーシャと顔を見合わせると、急いで着替えを終わらせました。

 複数人の生徒が水着を着たまま立ち往生しています。

 まさかとは思いつつも、尋ねないわけにはいきませんでした。


「どうかされたんですか?」


「それが」


「この子たちの着替えが違うものらしいの」


 



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