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上級生ってやっぱりすごいね

 シルヴァニアウルフは体格こそワイルドボアに劣りますが、集団行動とそれに伴う手数の多さを利用した狩りを行います。獲物を囲い込むとじりじりと範囲を狭めるようにして獲物を追い詰め、体力が削られ弱った獲物に一斉に襲い掛かります。そのため、動きは素早く、攻撃を当てることは困難です。その上集団で襲い掛かってくるため、一頭を倒そうと集中していても他の個体が襲い掛かってきてなかなか頭数を減らすことができません。結果、体力、魔力がジリ貧になってしまうことがあるのだそうです。

 しかし、一頭としてイングリッド先輩に襲い掛かることができた個体はいませんでした。

 イングリッド先輩は私たちを囲むように炎の壁を作り出していて、シルヴァニアウルフがこちらへ近づいて来られないのです。それにも関わらず、地面を覆う草花にはその炎が燃え移っている様子はありません。おそらくは、空中でのみ燃え広がって地面には飛び移っていかないように範囲を設定しているのでしょう。そしてその設定が明確にイメージされているため、元々生えている草花に影響が及んでいないのです。

 その上、壁の内側からは、これも炎で作られた矢を飛ばし、命中したシルヴァニアウルフのみを倒れさせています。こちらは、体内でのみ燃えているのでしょう。やはり周囲には被害を出されていません。

 瞬く間に目の前の半数以上のシルヴァニアウルフが地面に倒れ伏しました。



 私たちを挟んでイングリッド先輩と反対側に構えられたロゼッタ先輩は、実戦だというのに楽しそうな雰囲気で鼻歌まで歌っておられます。


「いやあ、後輩のピンチに颯爽と登場する私、おいしい。じゃんけんに勝ってよかった」


 ロゼッタ先輩は、シルヴァニアウルフから目を離されて私たちの方を振り向かれると、ニカッという音が似合いそうな爽やかな笑顔を向けられました。


「真面目にやりなさい、ロゼッタ」


 イングリッド先輩が後ろにも目がついているかのように叱責を飛ばされます。


「はいはい。イングリッドが怖いから、大事な後輩との楽しいコミュニケーションを放棄して、仕方なくウルフに向き合うとしますか」


 頭の後ろで手を組まれると、ロゼッタ先輩は半回転され、再びシルヴァニアウルフと向き合われました。


「イングリッドは火の魔法を使ったみたいだし、せっかくだから私は違うやつを」


 そうして話している間にも、おそらくは私が使ったものと同系統の、しかし練度は段違いの壁に阻まれて、シルヴァニアウルフはこちらへ近づいては来られない様子でした。


「見てなよ」


 ロゼッタ先輩が地面に両手を向けられると、地面がシルヴァニアウルフを囲むように隆起しました。地面の壁がせり上がるのは速く、囲まれたシルヴァニアウルフは壁を跳び越えて逃げ出すことは出来ませんでした。

 シルヴァニアウルフが全て囲われたのを確認されてから、ロゼッタ先輩はイングリッド先輩の方をちらりと見やります。


「燃やしちゃったら焼肉にしか使えないけど」


 地面に囲まれたシルヴァニアウルフの上から、土で出来た蓋のようなものが落ちてきます。


「ジワジワ殺すような歪んだ趣味はないからね」


 かなりの速度で落下してきたその蓋は、下にいたシルヴァニアウルフたちを一気に押しつぶしたようです。

 なるほど。障壁を作り出すのではなく、地面を隆起させて壁として使えば、その後に壁を維持するための魔力を消費しなくて済むのですね。長い時間使用する場合は有効でしょう。


「それじゃあ、皆の倒したワイルドボアと合わせて持って帰ろうか」


 あっという間にシルヴァニアウルフの群れを倒してしまわれた先輩方に声をかけられました。


「今日の夕食に並ぶはずだからね。あんまり遅くなると、夕食の時間がどんどん遅れるんだよ」


「それから今日のことは他の1年生には黙っていること。いいわね」


 私たちはこのような形で実戦を経験させていただくことになりましたが、他の新入生にも同じような課題は出されるはずなのです。


「よしっ」


 私たちが頷くのを確認されてから、イングリッド先輩とロゼッタ先輩が今日の獲物を持って歩いていかれてしまったので、私たちも後ろから付いて行きました。もちろん、摘んだ花も忘れはしませんでした。





「よしよし、ちゃんと無事で帰ってきたみたいだね」


 寮まで辿り着いた私たちをトゥルエル様が出迎えてくださいました。


「失礼な。私たちが付いて行ったんだから無事なのは当たり前だよ」


「実際、シルヴァニアウルフが出なければ彼女たちだけでも十分、もっと早くに帰って来られたはずです」


 私たちは今日の「お花摘み」で起こった出来事を説明しました。


「ふーん。そいつは妙だね。この時期にこの辺りまで出てくることはないと思ってたんだけど……」


 頬に手を当てられて思索にふけっておられる様子のトゥルエル様に、アースヘルムで起こっているらしい魔獣の大移動のことを話します。


「なるほどね。わかったよ。私の方でも確認してみよう」


 今日の獲物を浮かせると、トゥルエル様はそのまま寮の中へ入って行かれました。


「1年生も今日はお疲れ様。先にお風呂に入ってきて構わないわよ」


「いえ、先輩方、どうぞお先にお入りください」


 イングリッド先輩に先にお風呂を譲られたのですが、さすがに先輩を差し置いて入ることに抵抗のあった私たちは、先輩方に先を譲ろうと遠慮しました。


「じゃあ、一緒に入れば問題ないでしょ」


「そうね。そうしましょう」


 疲れていた私たち4人はそのままお風呂に連れていかれました。



 お風呂から出て夕食の席に着くと、言われていた通り、ワイルドボアとシルヴァニアウルフのお肉が並んでいました。


「いただきます」


 私たちは、自分たちだけでとはいきませんでしたが、初めての獲物をよく味わいながら噛みしめました。


「いつもより美味しく感じるよ」


 アーシャの意見に、私たちも揃って頷きました。


「私たちもこれからしっかりと学んで、数年後には新入生に見本を見せられるようにならなくてはいけませんね」


 私たちは顔を見合わせて頷きあうと、決意を新たにしました。

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