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お花摘み

 翌朝、友達と出かけるというのが楽しみで、私はいつもよりも早くに目が覚めました。隣りのベッドを見ても、アーシャはまだ眠っているようです。窓の外からは光が差し込んできていて、天気は良さそうです。

 アーシャを起こさないように静かにベッドから抜け出ると、昨夜着ていた白と青のストライプの寝間着を脱いで、白い肩ひものワンピースの上から淡いピンクのカーディガンに袖を通します。髪の毛も結わえてまとめ上げます。


「ルーナ、おはよう」


 私が髪を結い終わると、起きてきたアーシャに声をかけられました。まだ眠たそうに眼を擦っています。


「おはようございます、アーシャ。起こしてしまいましたか」


「ううん、大丈夫」


 悪いことをしてしまいましたと思っていましたが、アーシャには首を振られました。

 私は自分の準備を終えると、アーシャの準備が終わるのを待ってから、顔を洗って、一緒に食堂へと向かいました。


 


 休日の朝早くから起きている人はいないだろうと思っていたのですが、私たちが食堂へ入るとロゼッタ先輩とイングリッド先輩がすでに朝食を始めていらっしゃいました。


「おはようございます。ロゼッタ先輩、イングリッド先輩」


 私たちが挨拶をすると、先輩方にも声をかけられました。


「おはよう。どうしたのこんなに朝早くから」


 ロゼッタ様は珍しいものを見たような表情をされています。


「はい。実は目が覚めてしまって」


 昨日、トゥルエル様からしていただいた話をすると、お二方は顔を見合されました。


「なるほどね。だから」


「ロゼッタ、黙って」


 ロゼッタ様が何事かおっしゃられかけましたが、イングリッド様に制されて口をつぐまれました。


「気を付けてね」


 イングリッド様に一言だけ忠告されました。


「はい」


 私たちが返事をして朝食を受け取り戻ってくると、メルとシズクも食堂へ入ってきたので、4人で一緒に朝食をいただきました。





「じゃあ、無事に帰ってくるんだよ」


「行ってまいります」


 朝食を済ませてお弁当を受け取ると、私たちはトゥルエル様に見送られて出発しました。先輩方は私たちよりも早くに出ていかれました。

 トゥルエル様に頂いた地図によると、目的地は学生寮の裏の山というか森の中にあるようです。私たちは、周りの景色を楽しみ、鳥の戯れる声を聞きながら、おしゃべりをして歩いて行きました。

 寮の近くは回廊とでも言うように木々の立ち並びも整理されているのですが、森にまで差し掛かるとさすがに整備はされておらず、進むのにも苦労を強いられました。運動科目のときに使う運動靴を履いてきて良かったです。ワンピースには似合わない感じでしたけれど。


「ルーナはその髪一人でやってるの?」


「ええ。時間がないときはリボンで縛るだけですけれど、今朝は少し時間があったので」


「大変じゃないの?」


「もう慣れてしまっていますから。アーシャにも今度教えましょうか」


「うん。お願い」


「じゃあ、私も」


 シズクも声を上げます。


「メルはどうしますか?」


「私は前にサラに聞いたことがあるから大丈夫。今はやってないけれど」


「メル、サラって誰?」


 アーシャは初めて聞くサラの名前に興味を示したようです。


「サラは、うーん、何だろう。お姉ちゃん、とは違うし。サラは何だろう?」


 メルが私に顔を向けたので、代わりに答えます。


「サラの本名はサラ・ミルラン。メルやレシルやカイがいたクンルン孤児院のシスターで、現在はお城の隣にある孤児院で院長をされています」


 私はサラやメルたちと出会った時の話をしました。

 私の話を黙ったまま聞き終えたアーシャとシズクはうんうんと頷くと、私とメルを見て、私に視線を止めました。


「よーくわかった。つまり、ルーナの恋敵ってわけね」


「なっ」


「そうね。いかにルーナが気にしているのかよくわかった」


「そ、そんなことはありません。嫉妬だなんて、そんなことはありません」


「でも、胸の大きさは気にしているんでしょう」


「うっ」


 私は自分の足元に視線を落とします。運動靴が見えました。つまり、途中で下を見るのを遮るようなものはなかったということです。

 そんな私の様子を見たアーシャに肩を叩かれます。


「まだまだこれからだよ、ルーナ」


 このままでは私の話ばかりになってしまうと思ったため、私は友人を差し出しました。


「ですが、メルもサラのことは気にしていたようです。カイがサラの話をすると拗ねていましたから」


「そ、そんなことはない」


「詳しく聞かせて」


 アーシャもシズクも女の子ですから、他人の惚れた腫れたには興味津々のようです。

 私たちはしばらく恋の話に花を咲かせながら、時には楽しく、時には焦って話をやめさせようとしたりしながら進んでいきました。




「うわー。きれーい」


 開けた視界の先には、一面の花畑とも言えるような光景が広がっていました。

 色とりどりの花々の間からも、まさに今にでも花開きそうな蕾が顔を見せています。

 春の陽気につられて花も開いたのか、周りの木々からも穏やかな風に揺られてひらひらと花びらが舞い落ちてきます。

 

「後で形は整えることにして、まずは摘ませていただきましょう」


 綺麗に花を咲かせているところをすみませんと思いつつも、私たちは手分けをして色とりどりの花束を括ります。寮の食堂や廊下に飾るだけでなく、私たちの部屋にも飾れたら素敵かもしれません。

 花を摘んで地面が開けたところにシートを広げます。私たちはその上に足を崩して座ると、預かっていたお弁当を広げます。


「いつも思うんだけど、ルーナってどこに色々仕舞っているの?」


 アーシャに不思議そうに尋ねられました。ルグリオ様に伺ったところでは、アルメリア様は悪用されることがないようにと広めることには乗り気ではなかったご様子だったとのことですが、魔法の存在自体ならば話してもいいかもしれません。


「あまり広めないようには言われているのですが、収納の魔法というのがありまして、そこから取り出しているのです」


 飲み物の入ったポットとカップをとりだして、飲み物を注いで渡します。


「温かさも変わらないのね。すごい」


 香りなどを楽しんでいると、周囲から何者かの気配がしました。よく耳を澄ませると足音も聞こえます。どうやらこちらへ近づいてきているようです。


「どうしたの、ルーナ」


 3人はまだ気づいていないようで、立ち上がった私を不思議そうに見上げています。

 

「わっ」


 急に突風が押し寄せて、私のワンピースのスカートをはためかせました。


「おしい、もうちょっと」


 アーシャは余裕がありそうにしていますが、私は油断なく背後の森を見据えます。私の態度が気になったのか、それともこの気配に気がついたのかはわかりませんが、3人とも立ち上がったようです。


「アーシャ。少しの間頼みます」


 アーシャに注意しているように頼むと、私はお弁当とシートを素早く収納します。

 収納し終えたところでアーシャから声をかけられました。


「ル、ルーナ」


 私が振り返ると、少し離れたところでは蹄のついた4本の足と大きめの2本の牙を持ったこげ茶色の体毛の生物が、今にも襲い掛かってきそうにこちらを睨んでいました。


「あれは……図鑑によると、たしか、ワイルドボアと呼ばれている生物ですね」


 ワイルドボア。森に生息していて、たくさんの子供を産み、縄張りも持って行動しているようです。

 ルグリオ様やセレン様ならば私達全員を連れて転移で逃げることも可能だったでしょうが、私だけでは自身を含めた全員を一緒にというのは、まだできません。つまり、全員無事に戻ろうと思ったなら、目の前の個体をどうにかしなくてはならないわけです。


「ブフォオオオオオオ」


 どうやら縄張りに侵入してしまった私たちに対して怒っているようで、雄たけびを上げながら、鼻息も荒く突っ込んできます。


「回避してくださいっ!」


 私は叫びましたが、突然すぎて皆動けないようです。私は魔法で風を起こすと、私たちを包み込んでワイルドボアの射線から外します。


「しっかりしてください。アーシャ」


 私は声をかけながら、ワイルドボアの様子を窺い、出かける前の寮でのことを思い出します。


「なるほど。……おそらくこれのことですね」


 先輩方が言いかけたことは、おそらく、このワイルドボアことなのでしょう。ということは。


「アーシャ、メル、シズク。大丈夫です。おそらくですが、私たちでも対処できるでしょう」


「な、なんでそう思うの」


「おそらく、先輩方も同じような経験がおありになるのだと思ったからです」


 きっとトゥルエル様は、毎年新入寮生には似たようなことを頼んでいるのでしょう。今回のこともおそらくですが、目的は花を摘みに行かせるということではなく、この経験を積ませるためですね。

 

「だからと言って油断はできませんが、私たちにも対処は可能なはずです」


 私は改めて目の前のワイルドボアを見据えました。


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