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先輩の忠告

 順調に学院生活最初の授業をこなし、気がつけば明日には学院が始まってから最初の休日が訪れるという1サイクルの終了日になっていました。


「アーシャ、起きてください。朝ですよ」


「うぅん。ルーナは早すぎ」


眠そうに目をこしこしと搔いているアーシャに、おはようございますと挨拶をします。

 この一週間でアーシャも他のクラスメイトの方も大分砕けた調子で話されるようになりました。きっかけは特にありません。自然にです。


「明日から二日間お休みがあるのですから、最終日くらいしっかり起きてください」


「まだ眠いのに」


 アーシャに顔を洗わせると、私たちは制服に着替えて、私も表向き鞄を持って、朝食へ向かいました。




「おはようございます、トゥルエル様」


「おはよう、ルーナ。今朝も早いねえ」


 私とアーシャは朝食のトレイを受け取ると、近くの席に着いて食べ始めます。今朝も私たちが食堂へは一番乗りで、上級生も同級生もまだ姿が見られません。


「今日は何の科目があるんだっけ?」


「先程準備をしたではないですか。お昼の前に基礎魔法学、お昼の休憩の後に運動科目ですよ。しっかりしてください」


「……何でお昼の後に運動しなくちゃならないんだろうね」


「アーシャはきっとお昼の前でも同じように言うのでしょうね」


 何でお昼の前に運動しなくちゃならないの、と。


「仕方ありません。他のクラス、他の授業との兼ね合いですから」


「他の人からも聞いているかもしれないけど、運動科目は気を付けた方がいいわよ」


「イングリッド先輩」


 私たちが今日の科目について話していると、朝食のトレイを持ってこられたイングリッド先輩が、失礼するよ、と私たちの正面に座られました。


「お声をかけていただいてありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。元より準備運動はしっかりとするつもりですから」


 ルグリオ様もセレン様も武術等の訓練をなさる前にはしっかりと準備運動をこなされていました。私はやらせてはいただけなかったのですけれど。


「いやいや、そうじゃないのよ」


 そう思っていたのですけれど、イングリッド様が心配されていたのは怪我についてではなかったようです。

 物事を知らない人に言い聞かせるような口調で語り始められました。


「運動科目の女子の担当教師が誰だか知ってる?」


「ジュール・グフビル先生ですよね」


 アーシャが答えます。頂いた授業表に書かれていたのはその名前だったはずです。


「そそ。そのジュールだけどね、気に入った女子生徒には粘着質に絡んでくるってので有名なの。私たちの学年でも何人かそういうセクハラじみた目に合っているみたいなことを言っていたし」


 私は大丈夫だけどね、と深刻そうな顔で語られました。それは有名というのでしょうか? どちらかと言えば悪名では。それに。


「教師にまでなろうという方がそのようなことをされるのでしょうか?」


 私は思ったことをそのまま口に出します。


「甘い。甘いよ後輩。この朝食のパンケーキにかかっているシロップよりも甘い」


 イングリッド様は、パンケーキにシロップをたくさんかけられた後で口に入れられて、甘っ、と顔をしかめられました。明らかにシロップの掛け過ぎです。


「少し分けてあげましょうか」


「いただきます」


 私とアーシャは揃ってまだシロップをかけていなかったパンケーキの乗っているお皿を差し出します。


「ありがと」


 そしてナイフでパンケーキを食べやすい大きさに切って口の中へと入れられました。


「とにかく、先輩として忠告しとくわ。ジュールには気を付けなさいよ」


 イングリッド様は朝食を食べ終えられると、去り際にも忠告してくださいました。私とアーシャは顔を見合わせた後、イングリッド様にありがとうございますと声をかけました。




「あー。その話なら私たちも先輩方から聞かされたよ」


 朝のHRの直後、午前中の授業が始まるまでの間にクラスメイトの方々に話をしてみると、どなたも同じような話を先輩方から聞かされているようでした。


「今までクビになってないのが不思議なくらいだって」


「証拠が残らないとか、誰も話さないとか、色々言われてたよね」


 連鎖するように広がっていきます。


「ですが、やはり実際に自分で確かめなくては判断できません」


 私はそう思っていたのですが、皆さんにもみくちゃにされました。


「ルーナってばやっぱり可愛いわ」


「天使みたいよね」


「どうやったらこんな子が育つのかしら」


「やっぱりルグリオ様とセレン様のおかげじゃないかしら」


「抱きしめてしまいたい」


 私は午前の授業の先生が教室に入ってこられるまで大変な思いをしました。




 午前の授業は基礎魔法学。担当はリリス先生です。

 この日は演習ではなく、教室での講義でした。リリス先生はお城でも講師に招かれるほどの方なので、教え方もとてもよく、しっかり内容も頭に入ってきます。

 明日から2日間休日ということもあり、たくさんの宿題もいただきました。

 周りのクラスメイトからは悲鳴もたくさん漏れていました。


 お昼には学院の食堂で寮でいただいたお弁当をクラスメイトの方と一緒にいただきます。


「とうとう、次の授業だね」


「調子はどう?」


 お弁当のサンドイッチをいただきながら、なぜか皆さん、私に向かって問いかけられます。


「私は大丈夫ですけれど。先程からどうされたのですか?」


「いや、だって一番可愛いくて綺麗なのはルーナだから」


「そのうえ、お姫様だし」


「つまり、一番危ないってことだよ」


 皆さん、本気にされているのでしょうか。


「だって、先輩たちの経験に基づいているのよ。用心するに越したことはないじゃない」


 そうかもしれませんけれど。


「いざとなったら、私たちを盾にして逃げるのよ」


「ルーナが逃げる時間くらいは稼いでみせるから」


 あまりにも皆さんが真剣に言われるので、私も少しだけ注意はしておこうと思いました。



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