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新入寮生歓迎会

「お城ではどのようなことをされていたの?」


「初めてルグリオ様にお会いした時の感想を」


「思い出深い出来事は?」


 始まった瞬間から、私は、同級生や上級生に取り囲まれて、怒涛のような質問の嵐に呑まれていました。

 一つ答えるたびに歓声が上がり、とても食事どころではありません。

 もちろん、ルグリオ様との思い出だけではなく、私自身のことも聞かれました。


「入試で先生を吹き飛ばしたって聞いたんだけど」


「私は入学式中に姿を見ただけの生徒が倒れて途中で連れていかれたって聞いてるけど」


 先輩方のお話には尾ひれだけではなく、角や牙までがついていて、化け物じみていました。


「私はセクハラしようとしてきた男性教師を微笑み一つで撃退したって聞いたよ」


「それってジュールのこと」


「そうそう。あの豚」


「豚さんが可哀想」


「あいつまだ捕まってないのが不思議だよね」


「ねー」


「ほんと、ほんと」


「あんな豚の事よりもルーナのことを聞かせてよ」


「好きな食べ物は?」


「クラス分けの試験は満点だったって聞いてるけど、一番得意な科目は?」


「ちょいとあんたら。そんなに詰め寄って、ルーナも困っているだろう」


 声のした方へ視線を向けると、人垣が割れてトゥルエル様が追加の料理を運んでいらっしゃるのが見えました。


「節度ってものを学びな」


 運ばれてきた料理を机に並べると、ジロリと一睨みして、皆さんを黙らせてしまわれました。


「まーまー。硬いこと言うなよ。大丈夫だって。あたしが見てっから心配すんなって」


「あんたが見てっから心配なんだよ」


 椅子に座ったまま首を後ろにもたげさせたアイネ寮長の両頬をトゥルエル様が思い切り引っ張られた。


「いはいいはい」


 トゥルエル様は摘まれたアイネ寮長の両頬をぐりぐりと回されると、思い切り引っ張られてから手を離されて、ため息をつかれました。


「まったく、セレン様、ソフィー、リリーとどうしてこんなのばっかり寮長になってしまうんだろうねえ」


「それはな」


 頬をさすりながら、若干目尻に涙を浮かべつつなのですが、不思議と格好良くアイネ寮長が胸を張ります。


「先代の寮長が次期寮長を指名するからだ」


「本当にセレン様には困ったものだよ」


 どうやら昔からあるしきたりではなく、セレン様が決められたことらしいです。


「とにかく」


 ジロリとアイネ寮長を睨んでから、みんなを見回します。


「節度は守るんだよ」


「はい」


 女生徒の皆さんは一斉に清々しいほど元気な返答をされました。


「よろしい」


「トゥルエル様、心配されずとも大丈夫ですよ」


 部屋の前方奥で静かに飲み物を飲まれている、茶色い長髪の上級生と思しき方がカップを下ろしてトゥルエル様の顔を見られました。


「アリア」


「本当にまずそうなら私が止めますから」


「頼むよ」


「ええ」


 アリア先輩から視線を外され、トゥルエル様は再びアイネ寮長の顔を見られておでこを弾かれました。


「アリアに任せっきりにするんじゃないよ。寮長はあんただろ」


「わーってるよ」


 あんまり遅くなるんじゃないよ、と言い残されてトゥルエル様は出ていかれました。




「助かったよ、アリア」


 トゥルエル様が出ていかれてから、アイネ寮長はアリア先輩にお礼を言われていました。


「いつものことだから。あなたもいい加減学びなさい」


「わーってるよ」


「でもアリアがいるってわかってるからトゥルエル様もアイネを放っておいてるんでしょ」


「本当、本当」


 5年生と思しき方たちが話を再開されたのを皮切りに、私の周りでも先程までとはいかないまでも楽し気なおしゃべりが再開されました。

 私も答えられる範囲で質問に答えたり、上級生の方に学院のことを教えていただいたり、上級生の方が主催されたレクリエーションに興じたりしました。 


「今年は勝てるんじゃないの、対抗戦」


「そうね。昨年はリリィ先輩がいらしたけれど、私たちの力が及ばず僅差で負けてしまったし」


「一昨年はルグリオ様がいらしたから、さすがのソフィー先輩も敵いませんでしたし」


「その前の年は」


「セレン様とルグリオ様が最後まで争われていて、結局時間切れじゃなかったかしら」


 上級生の方が口にされる対抗戦という言葉は、私達新入生にはなじみのない言葉でした。


「あの、対抗戦というのは?」


 代表して私が聞くと、近くにいらした薄い緑色のショートカットの活発そうな上級生、ロゼッタ・マクシミリアン先輩が教えてくださいました。


「対抗戦っていうのはね、男子生徒と女子生徒に分れて行われる、まあ魔法の演習会みたいなものかな」


「演習会ですか」


「そそ。秋に収穫祭と前後して行われる他校との対抗戦の選抜戦みたいなものかな。詳しい話は近くなったら先生から話があると思うけど、その学内代表を決める試合みたいなものかな」


「でしたら、そちらに力を注がれればよろしいのでは?」


「それを言っちゃあお仕舞いよ」


 ロゼッタ様はおどけたような口調で私の近くにいる新入生に言い聞かせるように笑われた。


「お祭りなんだから楽しまないと」


 濃い茶色の髪を後ろで一つに纏めてポニーテールにされているイングリッド・アインシュタット先輩は心底楽しみにしている様子で、首を傾げてウィンクされました。


「やるからには勝ちたい」


 水色のロングの髪の大人しそうに見えるミリア・スーリア先輩も意気込まれている様子でした。



 他校との対抗戦の選抜メンバーを決めるための学内選抜対抗戦。

 なんだか噛みそうになる名前のお祭りについて、私は寮のお風呂に入った後で部屋に戻ってベッドに座りながら考えました。


「何考えてるの、ルーナ」


 呪いも解けた……と思った私は、特に一人部屋を選ぶこともしなかったので、同室になったアーシャに声をかけられました。


「先程言われていた、対抗戦のことについてです」


「私は出られないと思うけれど、ルーナには関係あるかもね」


 ルーナの実力が高いのはみんな知ってるから、と言われた後、頑張ってねとエールを送られました。


「そんなことはないと思いますけど。もちろん、もし選ばれれるようなことがあれば精一杯するつもりですが。そのためにもまず明日からの授業に集中しなくてはなりませんね」


「ルーナは授業で何が楽しみなの」


 興味深そうに尋ねられました。


「やっぱり、魔法の実習でしょうか」


 ルグリオ様のお役に立ちたいなどと不遜なことを言うつもりはありませんが、自分の身体くらいは守れるようになりたいですし、それでなくてもお城にいた時から本は沢山読んでいて、リリス様にも習っていたので、一番身近というのもあるのでしょうか。


「私も楽しみ」


 多くの新入生にとって、魔法を本格的に習うのは10歳を迎えてから、つまりは学院に通うようになってからです。私は例外でしたけれど、そんな新入生にとってもやはり魔法を先生に習うのはとても楽しみなのだそうでした。


「明日からが楽しみですね」


「うん」


 私たちは明日からの授業や学院生活に胸を膨らませて、実際に膨らんでいるのかは今後に期待したいところですが、ベッドで横になりました。





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