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エクストリア学院

新章です。一人称の視点がルーナに変わっています。

 穏やかな春の日差しが室内を明るく照らしています。今日から始まる新しい日と門出を祝福してくれているみたいです。


「ルーナ。準備はできているかい」


 部屋の外からルグリオ様が私を呼ぶ声が聞こえてきます。私は卸し立ての、黒いラインが一本入った臙脂色のストールのようなブレザーを真っ白なワイシャツの上から羽織り、白地の上から黒布を合わせた冬用の膝丈よりも少し長いスカートの位置を微調整します。


「これならルグリオ様に見られても大丈夫でしょうか」


 部屋に備え付けてある大きな鏡の前で一回転すると、私が回るのに合わせてスカートがふわっと広がりました。大丈夫。おかしなところはないはず。

 とりあえず満足した私は、最後にリボン型の黒いタイを締めます。男の子は黒いネクタイだけれど、女の子はリボンを選ぶものなのだとセレン様に教えていただきました。

 鏡を見て、しっかりと結べていることを確認します。これが締まっていないと何だか格好悪いですから。


「今参ります」


 リボンと一緒に気を引き締めた私は、部屋の扉を開けてルグリオ様が待つ廊下へと向かいました。



 

 あの夜のお花見から数日が過ぎました。私は途中から寝てしまったらしく覚えていなかったため、ルグリオ様にも尋ねてはみたのですけれど、言葉を濁されて教えてはくださりませんでした。

 そして今日はいよいよエクストリア学院へと出発する日になりました。

 エクストリア学院はルグリオ様もセレン様も通われていた伝統のある学院で、全寮制であること以外では、コーストリナ国籍がなくても通える開かれた自由な校風を謳う学院でもあります。


「アルヴァン様とカレン様の分も僕と姉様で精一杯の送り出しをするから」


 ルグリオ様のおっしゃる通り、お兄様とお姉様は急な公務ができてしまい、非常に残念そうではあったけれど、入学式にはご出席できなくなってしまいました。

 何でも、アースヘルムの方で魔獣が大移動をしており、手が足りないらしくお父様に呼び戻されてしまいました。国の人を守るのが王族の務めなのですから仕方ありません。

 少し寂しい気持ちもありましたが、やはり忙しい公務にお暇をつくられてまで、私のために入学式に出席してくださるルグリオ様とセレン様には感謝の気持ちで一杯になります。


「ありがとうございます」


 私は精一杯の笑顔で感謝を表しました。


 

 エクストリア学院へ向かうための馬車に乗り込んだ私を、ルグリオ様とセレン様は羨ましそうな表情で眺められていました。


「どうかされましたか?」


どこか気になるところがおありなのでしょうか? まさか、学院へ通うのが羨ましいなどということはないだろうとは思いつつも、気になったので尋ねてみました。


「いやあ」


 ルグリオ様とセレン様はお顔を見合わせられると、ちょっとしたことなのだけれど、と前置きされました。


「アースヘルムへ向かう前にも思っていたのだけれどね。僕たちが学院へ通っていたころは収納の魔法を覚えていなかったから、休みの度に荷物を持って帰ったり、休み明けに荷物をまた持っていったりするのに苦労したなあと思い出していたんだよ」


 ルグリオ様は私の方に手を伸ばそうとして、途中で手を止められました。


「ルーナももう学院生になるのだから、いつまでも子供扱いではいけないね」


 少し寂しい気持ちはありましたけれど、段々と女性として扱われてきているようで嬉しさもあります。もっとも、ルグリオ様は最初から私を女性として扱ってくれていたと思うのですけれど。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、セレン様が優し気に微笑まれました。


「ルグリオ。何も遠慮することなんてないのよ。一人の女性として扱うのと、子供扱いしないというのは違うでしょう」


「そうかな」


 ルグリオ様近づいてこられたので、私も馬車から顔を出しました。


「ルーナもお姉さんになったんだね」


 そうおっしゃられて頭を撫でてくれました。やっぱり子供扱いされているようでしたけれど、嬉しかった私は微笑んで、されるがままにされていました。


 

 私と一緒にエクストリア学院へ通うことになっているレシルとカイとメルも一緒に馬車へと乗り込みました。三人とも緊張しているようで、馬車にもまだ乗り慣れていないらしく、そわそわと落ち着かない様子でした。レシルもカイもメルもまだ収納の魔法を使うことができないため、私たちが代わりに荷物を収納しています。遠慮はされたのですけれど、そのために馬車の台数を増やすのも大変だからとルグリオ様に説得されていました。ルグリオ様はそんなことを思ってはいらっしゃらないでしょうけれど。

 私たちが馬車に乗り込むのを確認されて、ルグリオ様とセレン様も同じ馬車へと乗り込まれました。入学式に出席してくださるので、私たちと一緒に学院へと向かうためです。

 ルグリオ様とセレン様が乗り込まれたのを確認されてから、私たちを乗せた馬車はエクストリア学院へ向けて出発しました。



 エクストリア学院では、魔法を使った演習の授業なども行われるため、安全を考慮してか王都の中心部からは離れたところに建てられています。とはいえ、馬車で向かえばそれほど時間はかからないのですけれど、私たちは念のため早めに出発して今日は近くに宿をとるつもりでした。事前に学院を見ておきたかったという理由もありますし、当日にどたばたとしたくなかったということもあります。


「転移の魔法は一応、むやみやたらに使わないように言われているからね」


 あまり広まり過ぎると国民の生活が脅かされるから、とアルメリア様もおっしゃられていました。

 確かに、便利過ぎる魔法は有益に使われるよりも犯罪に使われることの方が多いでしょう。見られてすぐに真似できるようなものではないはずですけれど、用心するに越したことはありません。私はルグリオ様に教えていただいたのですけれど、中には見てすぐにできてしまうような人がいるかもしれないのです

から。



 翌日の太陽が真上を通り過ぎて少し経った頃、私たちはエクストリア学院の前に到着しました。前、と言っても門の前なので学舎や寮の様子は見えないのですけれど。

 私たちを乗せた馬車が学院の門の前に止まると、外から慌ただしく人が動いているような音が聞こえてきました。おそらく、馬車に描かれた国章で私たちが来たことを知った警備の方のものでしょう。

 私は一生徒なのだけれど、と思っているとルグリオ様が私の方をみておっしゃられました。


「ルーナの気持ちはわかるよ。僕も同じことを思ったからね」


「そうね」


 セレン様も同じようなお顔をされています。私たちは顔を見合わせて小さく笑い合いました。


 

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