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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
出会い~お披露目編
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お母様はその人に、「わかっていますね」と伝えるように、と

「……私がこの変化に気付いたのは6歳の時です。……夜中に違和感がして目が覚めた私は、何かさらさらしたものを掴んでいました。何だろうと思って手を見ると、よく庭に入ってくる猫のような白い尻尾でした。……くすぐったい感じがしたので、掴んだり離したりを繰り返していると、やはり自分に感触が伝わってきました。そのまま尻尾をたどっていくと、根元は私の腰の辺りでした。……あまりのことに思考が追い付かなかったのですが、ようやく状況を理解すると、私は悲鳴を上げそうになりました。寸でのところで口は押えたのですが、そうすると頭の方にも違和感があることに気がつきました。まさかとは思いつつも頭に手をやると、そこには耳のようなものがついていたのです。いよいよ混乱した私は、もしかしたらまだ夢をみているのかもしれない、と思い、念のためフードを被り、尻尾を服に隠して顔を洗いにいくことにしました。……そして鏡に映った自分の姿を見て、事実だと思い知らされたのです」


「……自分ではどうしたら良いのかわからなかった私は、夜中に悪いとは思いつつも、母に話すことにしました。お部屋を訪ねると、幸いにも母はすぐに出てきてくれました。私が屋内でフードを被っていることを不思議に思ったのでしょうか、母には理由を聞かれました。私は自分の部屋まで来てもらって、フードを脱いで耳と尻尾を見せました。母は驚いて、目を何度か瞬かせた後、私に抱きついてきました。……しばらくすると我に返ったようで、私を解放してくれました。それから、少し考える素振りをされた後、思い当たるフシがおありになったのか、説明してくれたのです」


「……昔、まだお母様とお父様がお若かったころ、大陸中を脅かそうと思っていたらしい魔女と戦われたらしいのです。その魔女は恐ろしい魔術で大陸中を恐怖と混沌に陥れようとしていたようですが、その計画は父と母によって、成就することなく、魔女は討伐されたようなのです。……しかし、その命がつきようとしたときに、一瞬の隙をつかれて、母は、次に生まれてくるはずの世継ぎがこの世で最も恐ろしい生物になってしまう、という呪いをかけられてしまったらしいのです。幸い、お兄様とお姉様にはその呪いは効果を与えなかったようなのですけれど、どうしてか、私には影響が出てしまったようなのです」


「……この世で最も恐ろしい生物になってしまうと聞いていたらしく、見たこともないような醜悪な生物になってしまうのではないかと思っていたらしい母は大分安心しているようでした」


 僕が放心しているような様子だったので、ルーナは言葉を区切りながら事情を説明してくれていたようだったけれど、こう言っては悪いけれど、生憎と僕は全然聞いていなかった。

 人生でも最大級の衝撃により、その光景から目を離すことができない。

 僕の心ここに非ずな様子に気付いたのか、ルーナが声をかけてくる。


「……あの、ルグリオ様。やはりこんな「すっごく可愛い!」……えっ?」


 気がついたときには手を伸ばしていた。


「えええええええええええええっ、どうなってるのこれ! やばいなんてもんじゃないよ! 猫の耳と猫の尻尾がこのために存在していると言っても過言ではないくらいのことだよ! 何て奇跡的相性! 確かにこんな姿のルーナが出歩いて人目に付こうものなら、その街、いや国レベルで混乱が巻き起こるよ! いやいやいやいや、待て待て待て、落ち着く……落ち着けないよ! 何これ! 耳も尻尾もサラサラですごくきれいだし、手の感触がもう本当にヤバい! どうしたんだろう、普段ならもっと女性を形容するための言葉を並べることができるというのに、今は可愛いという言葉しか出てこないよ! 触られているとどんな感じがするのかな? いや、そんなことを女性に聞いてはいけないか……」


「あの……ルグリオ様?」


 ルーナに声をかけられて、ようやく僕はなんとか正気を取り戻した。

 危なかった。あのままだったら、僕はおかしくなってしまったかもしれない。すでにおかしかったというツッコミはここではスルーさせてもらう。

 何度か深呼吸をして落ち着いた僕は、あらためてルーナと向き合った。


「勝手に触れてしまって申し訳ない。それでも言わせてもらいたいのだけれど、ルーナ、すごく可愛いよ。君は好きではないのかもしれないけれど、とてもよく似合っているよ。君の母上が、見せるのは一人だけにしなさいとおっしゃられた理由もよくわかる。こんなに可愛いなんて、戦争が起こるレベルだと思う。僕も、他の誰にもこんなに可愛い君を見せたくないという独占欲に支配されているよ。今でも気を抜けば、君を押し倒してしまいそうだよ」


「お、おかしくはないでしょうか?」


「おかしくなってしまったのは僕の方だね」


 いや、本当に。こんなに可愛い生物が存在するなんて。

 本当は、ずっとこのままでもいいと思うけれど、色々と確認しなければならないことがある。

 僕は咳払いをすると、今後のことについて話し合いを始めた。


「本当に失礼な態度をとってしまって申し訳ありません。あまりのことに我を失ってしまいました。それでいくつか確認したいのだけれど、この変化が起こるのは特に決まった周期はないけれど、満月に近付くほど変化が起きやすくなる。このことを知っているのは今のところ、ルーナとルーナの母上と僕の3人だけ。すごく可愛い。わかっているのはこれだけだよね?」


「……はい」


「そしてこの呪いをかけた当人は既にいない……と」


 しかし、こんなこと誰にも相談どころか話すことすらできない、いや、したくない。唯一相談できそうなのはルーナの母君だけれど、返答はわかりきっている。


「ルーナ。僕の感想、思いは先ほど聞いてもらった通りだけど、ルーナはどう考えているのかな? もし、ルーナがどうしてもその呪いを解きたいというのであれば、もちろん僕は協力するつもりでいるよ」


 ルーナは少し考えているようだったけれど、やがて口を開いた。


「……わたしは、自分を見てもよくわかりませんから。ルグリオ様がお嫌でないのなら……」


「わかったよ、ルーナ。とりあえず、このことは秘密にしておこう。もし知られたら、何が起こるやら。今晩はこれで失礼するよ。おやすみ、ルーナ」


「はい。おやすみなさい、ルグリオ様」


 月を見るどころの問題ではない光景を目の当たりにして、情けないとは思うけれど、僕はそれ以上その場にとどまることができずに自分の部屋に戻った。

 危なかった、本当に。

 あのままだったら押し倒していたよ。

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