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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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解呪

 夕食が終わると、僕たちはルーナの部屋に集まった。ルディック様もアルヴァン様、カレン様もこの部屋にはおらず、僕とルーナとアリーシャ様の3人だけだ。


 ルーナの考えが正しいとすると、これらの書物を読むには夜を待つ必要があった。念のため、部屋の明かりは僕たちの周りだけの最小限に止めてある。いよいよとなったら、この明かりも消すつもりだ。


「暗い部屋の中で小さな明かりだけだと、何だか緊張しますね」


 僕も緊張していたけれど、ルーナも同じ気持ちのようだった。


「ルーナも大人になれば楽しくなりますよ」


 アリーシャ様が含みのある言い方をされたので、ルーナはきょとんとしている。と言うかアリーシャ様。僕の方に意味ありげな視線を送るのはやめてはいただけないでしょうか。ルーナが学院に通っている間は、そういうことは控えておこうと思っているのに。


「どういうことですか、お母様」


 僕がぐるぐると考えている間に、ルーナが聞き返してしまっていた。


「学院へ通っている間に教えてもらえますよ。月からの使者のことと一緒に」


「月からの使者とはなんでしょうか」


 アリーシャ様はそれっきり黙ってしまわれた。それ以上、何かをおっしゃられるつもりはないようだった。僕としては、そこで黙ってしまわれると、非常に困る。なぜなら。


「ルグリオ様はご存知なのでしょうか」


 このように、ルーナが次に聞くのは僕だということは、考えるまでもなく分かっていたことだからだ。そして、知識としては知っていても教えることはできない。なぜなら僕は男だからだ。


「学院に通っている間には、そういうことも教えてもらえるよ。もちろん、僕も知ってはいるけれど、やっぱり専門の先生に習った方がいいだろうからね。でも、ルーナがどうしてもと言うのならば、きっとアリーシャ様は教えてくださると思うよ。それに僕の姉様も、カレン様も」


 自分で投げたボールは自分で拾って欲しかった。僕は転がってきたボールをアリーシャ様へと投げ返す。


「そろそろ、明かりも消しましょうか」


 ルーナが再び質問する前に、アリーシャ様は周囲の明かりを消してしまった。


 

 僕は小さなペンとメモ用紙を準備する。この部屋に月明かりが差し込んでいる時間だけで、書物の内容を完全に理解できるとは思っていないし、確実に後から読み返したくなるだろうことは予想できたからだ。そうは思わなかったとしても、再び読もうと思った時に、月明かりがなければ読めないというのは不便極まりない。

 

 ふと、ルーナの方を見ると、ルーナには可愛らしい耳と尻尾が生えていた。


「呪いが本当に解けたら、この可愛らしい姿も見納めなのね」


 アリーシャ様は、非常に残念だというようにわざとらしく頬に手を当ててため息をつかれた。


「お母様は、呪いが解けない方がよろしいのですか」


 ルーナは何とも言えない表情でアリーシャ様を見つめている。


「そうじゃないわよ」


 アリーシャ様はルーナの方に体を向けると、愛おしそうに、ルーナの頭を撫でた。


「呪いが解けるのはもちろん嬉しいけれど、ただ、この可愛い姿を見られなくなると思うと、少し残念なだけよ」


「ルーナ、アリーシャ様。月明かりが差してきましたよ」


 ルーナが何事か言い返す前に、月明かりに照らされた書物から光る文字が浮かび上がる。僕たちは並べられた本の空白のページを次々にめくって調べていく。あらかじめ、空白のページにはすぐに開けるように標をつけておいたため、探すための時間はほとんどかからなかった。




 しばらくして、僕たちは目当てのページを探し当てた。


『呪いを返された場合の解呪法』


「どうやら、このページね」


 アリーシャ様が僕とルーナの方に顔を向けられたので、僕たちも顔を見合わせてから頷いた。



 その先には、この書物を書いたであろう魔女の記録のようなものが書かれていた。


『まあ、これらの呪いを考えたのはこの私だし、私以上に優秀なものなどいるはずがないので、万が一、億が一にも呪いが返されるということはないだろうけれど、用心深い私は念のため、解呪の方法を記しておく。そう、決して忘れないようにとか、そういう理由ではなく、あくまで念のためだ。もちろん、私は忘れるはずがないし、返されるなど微塵も心配してはいないが』


 そんな風に、妙に言い訳がましい前置きにはじまり、しばらくは、いかに自分が優秀な魔女であるのかがつらつらと書かれていた。どうでもいい部分だったので、前半部分、というよりも大半の部分は読み飛ばした。


『呪いを解呪するには、その呪いを受け入れることだ。』


 色々と書かれてはいたが、要約するとそんなところだろうか。ルーナは困惑気味に尋ねてくる。


「呪いを受け入れるとはどういうことでしょうか」

 

 僕は見当がついていたので、アリーシャ様の方を見ると、アリーシャ様も僕の方を見ていた。


「おそらくそういうことよね」


「はい。おそらくは」


 僕たちは、わかっていない様子のルーナを鏡の前に連れて行った。



 鏡の前で、ルーナを真ん中に挟むような形で、僕とアリーシャ様は左右に膝をついてルーナに目線を合わせる。


「ルグリオ様、お母様。これは一体」


 急に鏡の前に連れてこられて、ルーナは困惑しているようだった。


「つまり、ルーナが今の自分の姿がいかに可愛いのかを自覚すればいいということよ」


「あ、あの、ですがお母様」


 アリーシャ様の説明にもルーナは納得できていない様子だった。いや、納得できていないというよりも、自分のことをよく分かっていないようだった。


「大丈夫だよ。初めてその姿を見た時から言っているだろう。ルーナのその耳も尻尾もとってもいい手触りで、その姿をみたら世の中の男性も女性もみんなが虜になってしまうって」


 僕は、出来る限り安心させるような声音で囁いた。


「ルーナのその姿を可愛いと思わない人なんていないわ」


 アリーシャ様は自信たっぷりに言い切られた。



 それから、いかにルーナの姿が可愛いのかを僕とアリーシャ様は語り続けた。ほとんど洗脳のようだったけれど、気にしなかった。



 しばらく語り続けて、もう一度、ルーナに鏡を見せる。


「ルーナ、世界一可愛いよ」


「ルグリオ様」


「それに、もしルーナが可愛くないというのなら、可愛いと言っている僕とアリーシャ様の目が曇っていたことになってしまうよ。ルーナもそうは思わないだろう」


 少々ずるいかなと思ったけれど、ルーナに可愛いと思わせるためならば致し方ない。

 そう、これは仕方ないことなんだ。決して、ルーナが羞恥に身悶えている姿がとても可愛いのでしばらく観賞していたいとか、そういった邪な感情ではない。


「ルーナ、可愛いよね」


「はい」


 ルーナは顔を真っ赤に染めると俯いてしまったけれど、はっきりとそう言った。その瞬間、ルーナの身体が月の光に包まれたかのように眩く光った。その光が消えかかるころには、耳と尻尾は消え去っていた。


「ルグリオ様、お母様」


 ルーナは手で頭と腰の辺りを確かめて、恐る恐る尋ねて来る。


「ルーナ。よかったね」


 もちろん、正確に確かめたいのなら、月がもう一巡するまで確かめる必要があるとは思うけれど、とりあえず、例えこれが一時的なものだとしても、現在呪いが解かれているということには変わりがない。僕はルーナを抱きしめると心から祝福した。


「はい」


 僕たちは顔を合わせて、微笑みあった。


 


 ルーナは安心したのか、限界を迎えたのか、眠りについてしまった。僕は、俗に言うお姫様抱っこでルーナを寝室へと運んだ。


「でも、本当のところ、内心では残念に思っているでしょう」


 廊下でアリーシャ様に尋ねられた。


「ええ」


 僕は素直に答えた。


「アリーシャ様もそう思われているでしょう」


「まあね」


 僕たちは顔を見合わせると、笑い合った。微笑みあうというには、少々、というより大分悪い顔をしていたと思う。


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