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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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捜索、それから発掘

 木の葉を隠すのならば森の中に隠すのがよいと言われるように、同じ物がたくさんあるところから一つのものを探し出すのは非常に難しい。しかも、本の形状も名前もわからないのだ。ここにある膨大な本の山を一冊ずつ、隈なく探さなくてはならない。僕たちの捜索は難航を極めた。


 「しかし、どれもこれも興味深い文献ばかりですね」


 様々な魔法薬の作成方法、見たこともない魔法陣、その他にも知っていればとても便利になる魔法がたくさん書かれている。もちろん、知っているものもあったけれど、多くは初めて見るものばかりだった。


「なるほど。宙に浮く魔法もあるのか。空を自由に飛び回ることが出来たら楽しいだろうな」


 空中を細かく転移し続けることで宙に浮かぶという方法も考えたが、その必要もなさそうだ。


「っといけない。こんなことを考えている場合じゃなかった」


 僕は再び書物に目を落とした。



 どれ程の時間が経過しただろうか。ふと気がついて周りを見ると、ミカエラさんの姿が見えない。どこへ行ったのだろうと思っていたら、隣の部屋からいい匂いが漂ってくる。


「あらあら。もう目的の本は見つかっちゃったの」


 ミカエラさんがフライパンを操作しながら後ろを振り向いて尋ねて来る。


「いえ、残念ながらまだ」


 僕は浄化の魔法を使って、身だしなみを調える。


「そっかそっか。まあでも、お腹が空いてちゃあ力も湧いてこないでしょう。だから、まずは朝ごはんにしましょう」


 机の上には二人分のパンとサラダが準備されている。ミカエラさんはフライパンから出来立てのオムレツをお皿に移すと、スープまで注いでくれた。


「座って座って」


 席に着くように促されたので、僕が椅子に座ると、ミカエラさんも向かい側の椅子に座る。僕たちは手を合わせて、朝食を食べ始めた。




 食べ終わって片づけるのを手伝ってから、再び部屋の捜索をさせてもらった。しかし、本にある記述はどれもこれも魔法に関するものばかりで、興味深くはあったけれど、肝心の呪いに関する記述を発見することはできなかった。目的の物ではない魔法ばかりが頭に入ってくる。

 いや、まだあきらめるには早い。どうせ帰りは転移で一瞬なのだから。挫けそうになる自分に活を入れると、再び積まれた書物に立ち向かう。


「いや、待てよ。もしかしたら」


 僕はミカエラさんに声をかける。


「ミカエラさん。先に謝っておきます。申し訳ありません」


 ミカエラさんはきょとんとした表情をしていたが、興味を持ったような表情で尋ねてくる。


「何何、どうしたの」


「上手くやるつもりですが、もしかしたら、本が千切れてしまうかもしれません。そして、おそらくこの本の山が崩れます」


 だから、部屋から避難していてくれますか、と頼んだのだが、ミカエラさんは楽しそうな表情をしていた。


「ふーん、それはそれは。何か面白いことが起こりそうだねえ」


 興味津々といった顔で僕の方を見ている。どうやら、この部屋に留まるらしかった。


「では、失礼します」


 僕はイメージを強く持ち、先ほどミカエラさんが使用した魔法を使わせてもらう。すると、紙片ではなく、数冊の本が僕の元まで飛んできた。よかった。成功したみたいだ。


「どうしたの何したの」


 面白そうな目をして僕と本を見比べている。


「生物とか、変身などに関する記述のある本だけを抜き出したんです。『生物』『変身』『呪い』といった単語に絞って。使用された呪いは、『呪いをかけた本人にとって、最も恐ろしい生物になってしまう』というものだったらしいので」


 少なくはない量だけれど、本の山を全て探すよりは随分楽だ。後は、この中に載っていることを祈るだけだ。



 それじゃあ、と探そうとするとミカエラさんに止められた。


「その本は持って行っていいよ」


「え」


「呪いの解呪には、本人が必要になることが多いからね」


「呪いをかけた人物の一部ならあるのですが」


 僕は、骨の欠片が入った瓶を取り出すと、ミカエラさんに説明する。


「それに、ミカエラさんの物を持っていくのは忍びないですし」


「だったらそれなら、終わったらここまで戻しに来てくれればいいじゃない。もうここはわかるでしょ」


「それはそうなのですが」


 何となく、持ち出してはいけないような気がする。


「収納の魔法が使えるのなら、別に持ち帰るのが大変ということもないのでしょう」


 そもそも、帰りは転移して城まで戻るつもりなのだけれど。


「それにそれに、ここにはあなたと私の二人しかいないけれど、あなたが来たところにはもっと沢山人がいるでしょう」


 知っているのは僕を含めて三人だけだけれど。


「では、ありがたくお借りします」


「うんうん。どうぞご自由に持っていっちゃってくれたまえよ」


 僕は頭を下げると、本を収納した。



 家の外までミカエラさんは見送りに出てきてくれた。日は既に高く昇っており、おそらく、お城でも朝食は済んでいることだろう。結局、ルーナには心配をかけてしまったかな。


「本までお借りしてしまって、本当にありがとうございます」


 僕はミカエラさんに頭を下げた。


「いいからいから、気にしないで。本は読まれるためにあるんだから」


「呪いが解けたら、必ずお礼に伺います」


「まだ、載っていると決まったわけじゃないんじゃないの」


「いえ。きっとありますよ。それになければお手上げです」


 自嘲気味に笑いが漏れる。


「そっかそっか。解けると良いねえ、その呪い」


「はい」


 もう一度、頭を下げてお礼を言うと、ミカエラさんが手を振ってくれた。僕はそれを見ながら、アースヘルムのお城まで、転移した。




 お城に戻るときに思い浮かべたのは、自分の部屋として滞在中に使わせていただいている部屋だった。

 転移が済むと、部屋の中には、アリーシャ様の姿と、それからルーナがいた。


「ルグリオ様」


 僕の姿を見つけると、ルーナが駆け寄ってきた。


「ご無事でしたか」


「うん。大丈夫だよ。少し遅くなってしまって悪かったね」


「心配しました」


「ごめんよ、ルーナ」


「帰って来て下さると、信じていました」


「・・・・・・。ルーナに何と言われたのですか、アリーシャ様」


「『ルグリオ様は、他の女のところへ行ってしまって帰って来れないかもしれないわ』と言ったのよ」


 アリーシャ様は微笑みを浮かべたまま答えられた。確かに嘘は言われていない。嘘は言われていないんだけれど。


「ごめんなさいね。あんまりにもルーナの反応が面白かったものですから」


 目線が冷たくなってしまったのも仕方のないことだろう。僕はルーナの頭を撫でた。


「僕がルーナを放っておくはずないよ。言っておかなかったのは、ルーナが起きる前には戻ってこられると思っていたからだよ。悪いことをしたね」


「いいえ。もう大丈夫です」


「それで、目的の物は手に入ったのかしら」


 僕とルーナが見つめ合っていると、アリーシャ様に声をかけられた。


「おそらくは。ここに書かれていなければお手上げですけれど」


 僕は、預かった本を取り出して、昨夜から今朝にかけてのことを話した。


「ふーん。それじゃあ、調べましょうか」


 僕たちは、本を広げた。

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