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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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山の魔女さん

 僕が転移した先はクンルン孤児院が建てられていた辺りだった。

 まあ予想はしていたのだけれど、クンルン孤児院は取り壊されていて、代わりに、周りの木々を伐採したらしく以前より広い敷地に、クンルン孤児院よりも立派な、おそらくは別荘と思われる建物が建てられていた。

 孤児院のことを思い出して少し寂しい気持ちになったけれど、子供たちもサラさんもここ数日、楽しそうな笑顔を見せてくれていることが多いので、僕ばっかりがこんな気持ちでいてはいけないと思い直して、気合を入れるために頬を手で叩くと地図を取り出した。

 

 地図によると、ここからしばらく湖とは逆の方向へと進んだ先に目的の場所はあるようだ。僕は歩いて建物の裏手へと回ると、慎重に、けれどできるだけ急いで歩き出した。既に夜も更けていて、辺りは暗く、あまり強い光を灯すと近くの生物の生活を害してしまうし、万が一、人がいた場合に発見される心配のある。日が昇るまでにはアースヘルムの城まで帰りついて、ルーナを心配させないようにしなくてはならない。余計なトラブルは出来るだけ避けたかった。


 懸念していたトラブルも起こらず、僕は目的の家、もしくは小屋、だろうと思われる場所へと辿り着いた。石を組んで作られているのか、白っぽく四角い家に、木で出来た扉が嵌められている。用心しながら、とりあえず扉をノックする。


「はあい」


 僕は驚いて扉から飛びのいた。思わず辺りに目を配る。自分でノックしておいていうことではないけれど、まさか返事が返ってくるとは思っていなかった。辺りに動くものが何もないことを確認して、僕は安堵のため息を漏らす。

 再び扉を見つめると、ギィと軋むような音を立てて、扉が開かれた。中から、足首まであるような、おそらくはローブを身に纏った女性が出てきた。真っ黒な髪は、伸ばしているというよりも、切るのが面倒だからというような感じで伸びていて、地面まで到達している。身長は僕と同じくらいだから、女性にしては高い方だろう。それに合った体系で、太っているということはないけれど、出るところは出ていて、このようなところと言っては失礼だけれど、食事に困っているといった様子は見られない。そして、靴は履いておらず、裸足だった。


 僕を見つけると、夜の闇の中で光っている目が細められた。


「お客さんですかあ」


 声をかけられて我に返った。どうやら短くない時間、固まっていたらしい。例えどのような状況であろうとも、女性に対してこのような態度をとっていては失礼が過ぎる。僕は恭しく頭を下げた。


「夜分遅くにお訪ねする無礼をお許しください。私はコーストリナ王国第一王子、ルグリオ・レジュールと申します」


女性は、あらあらと珍しそうに僕を眺めた後、自己紹介をしてくれた。


「これはご丁寧にどうも。私はミカエラ・フェリドット。魔女でえす」


 いきなり本命とぶち当たってしまった。



 立ち話もなんだから、と言われて家の中へと招かれる。外観通りで、あまり広くはなく、至る所に棚が作られ、たくさんの瓶や書物がそこら中に散乱していた。はっきり言って、棚がある意味がなかった。


「いやあ。他の人に会ったのは久しぶりだよ。ええっと、お母さんが魔法に失敗して死んじゃった時以来だから、ええっとええっと、どれくらい前だっけ」


そんな話を、今会ったばかりの僕に聞かれても困ってしまう。


「あなたに聞いてもわからないよね。そうだね、ごめんね。とりあえず、座っていてよ。久しぶりのお客さんなんだから、お茶でもだすからさ」


 僕が勧められた椅子に座ると、ギシィと椅子が軋む音がした。大丈夫なんだろうか。


「驚いたかなあ。椅子に座った時に、そういう音を出させる魔法があるんだよ。私が作った。ほかにも、床を歩くとミシミシ音が出る魔法とか色々あるんだよ」


 なんて嫌な魔法だ。ミカエラさんはコロコロと笑った。教えてあげようか、と言われたけれど丁重にお断りさせていただいた。

 ミカエラさんは椅子に座ると腕を一振りした。すると、どこからかポットとカップがあらわれて、机の上で停止した。


「紅茶で良いよね」


 僕の返事を待たずに、何もない空間から茶葉が入っているらしい瓶を取り出す。


「収納の魔法が使えるのですか」


 僕は思わず聞いてみた。母様が使えることは知っているけれど、アリーシャ様はお使いになれない様子だったのに。


「もちろんだよ。なんたって私は魔女だからねえ」


 ミカエラさんは、ふふんと鼻を鳴らして、自慢するように胸を張った。


「さあさあ。どうぞ」


 いい香りがする差し出された紅茶に口を付けた。


「ありがとうございます。とてもおいしいです」


「ありがとう。それで、えっと、ルグリオさん、でいいのかな。こんなところへわざわざ何をしに来たの」


 僕はすっぱり、本命を切り出すことにした。


「とある呪いだと思うのですが、調べたいことがありまして」


「うんうん、それで」


「この辺りに魔女の方が住んでいると聞いてお訪ねした次第です」


 ミカエラさんは何か考えているようで、うぅんと唸っていた。


「この辺り、というか、私は他の魔女なんて私の家系しか知らないよ。魔女と名乗っているところなんて」


「そうですか」


 それじゃあ、この人が知らなかったら割と手詰まりだな。


「まあ、とりあえず話してみなよ。このミカエラさんが相談に乗るからさ」


 自分の分野だからなのか、かなり自信がある様子だった。


「実は・・・・・・おそらく呪いだと思うのですが、夜中になると猫のようになってしまうという呪いをご存知でしょうか」


「うーん。私は使ったことがないなあ。でも確か、そんな記述をお婆様だかが書いていた書物にあったかもしれない」


「本当ですか」


 思わず僕は立ち上がった。


「でも、今どこにあるかはわからないなあ」


「先程みたいに、魔法で探すことは出来ないのですか」


「あれは、ただ移動させただけだから。場所がわからない、形も大きさも覚えていないものをすぐには探せないよ」


 それはそうだ。転移の魔法だって、知らないところには行けないし。


「まあ、探してみようじゃない」


 そう言って、ミカエラさんは後ろの本の山を指差した。

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