その頃のサラ達
今までに着たこともないような、彼女の基準では豪華すぎるドレスを着せられ、サラは子供たちと一緒にパーティー会場へ連れてこられていた。子供たちもやはり正装をさせられていて、今まで着たことのないような服に、子供たちは興奮を隠しきれてはいなかった。
(やっぱり、場違いじゃないかしら)
周りには、見事なドレスで着飾った、たくさんのアースヘルム王国の人たちがいる。サラには貴族のことはわからなかったが、自分が明らかに浮いているだろうことは予想できた。
「サラ様。そのように、畏まられずとも良いのですよ」
サラが固まっていると、フェリスに声をかけられる。先程から、何度も言われているのだが、このようなパーティーに出たことがないどころか、全く縁のない生活をしていたサラにとっては、固くなるなというのは無理な相談だった。
「ですが、フェリス様」
「ルディック陛下も楽しむようにと仰せでした。よろしければ、私たちがエスコート致しますが」
その提案に一も二もなくサラは、お願いしますと頭を下げた。
少々お待ちください、と言われてフェリスが離れていったので、サラは大きく息を吐いた。
「サラ、大丈夫」
レシルが心配して声をかけてくれる。
「どうしたんだ、サラ。お腹でも痛いのか」
カイも、他の皆も心配そうにサラを見ていた。
「いいえ。大丈夫よ。少し、緊張していたの」
本当は少しではないのだが、本当のことを言うと子供たちを心配させそうだったので、サラは笑顔で答えた。
「皆とてもよく似合っていて、素敵よ」
代わりに、屈み込むと子供たちの頭を撫でた。
「サ、サラも似合って、いる、よ」
ニコルがつっかえながら褒めてくれる。
「ありがとう。サラもいつもより素敵に見えるわよ。どこかのお嬢様みたい」
メアリスも嬉しさを隠しきれない様子だった。
「サラは私たちに構ってていいの」
メルも周りが気になるようで、そわそわしていた。
「・・・・・・うぁい」
ニコルは眠いようで、何か言おうとしていたようだがうまく言葉にできていなかった。サラはそんな様子のニコルを背負うと、そのまま寝かしつけた。
寝かしつけたところで、フェリス達が戻ってきた。
「お待たせいたしました」
寝ているニコルに気がつくと、フェリスに、変わりますから、楽しんでください、と言われたのだが、どうしたものかと迷っていると、カイにドレスの裾を引っ張られた。
「サラ、お腹空いた」
「私も」
サラは子供たちの顔を見回した。
「皆もお腹空いたかしら」
子供たちが頷いたので、フェリスの方へ向き直る。フェリスに連れてこられたメイド、クーリャと呼ばれた、やはり白髪のメイドが一歩前へと進み出た。
「では、私がエスコートさせていただきますね」
「ニコル様は私が責任を持って預かっております。どうぞ心置きなくパーティーをお楽しみください」
「ありがとうございます」
サラは深く頭を下げた。
慣れないドレスで歩くのにも苦労しながら、クーリャについて回る。子供たちがお腹を空かせていたということもあり、クーリャの案内は食べ物が中心だった。
「こちらは、我が国でとれた野菜を使用したスープになります」
酸っぱいような、辛いようなスープは体の芯から温まるようで、空いていたお腹にすんなりと取り込まれた。道中の馬車で作ったスープもおいしいと言ってもらえたが、やはり、しっかりとした調理場と、専門の調理師には適うはずもないな、とサラは思った。
次にいただいたスプーンに乗せられた一口大のサラダも絶品だった。芋や野菜を潰したものがスプーンに乗せてあるのだが、一口大で食べやすく、子供たちの大きさにもぴったり合った。もちろん、味も子供たちに好評だったし、サラ自身もとてもおいしいと思った。
肉料理など、せいぜいハムくらいでほとんど食べたことはなかったので、取って貰ったものには大層驚いた。
まず、厚さが倍くらいある。色も焼き加減も丁度良く、柔らかさも抜群で、掛かっているソースからもいい匂いが漂って来ていた。サラは自分がこんなものを食べたら捕まってしまうのではないかと本気で心配していた。
デザートに、と案内されたアイスクリームという食べ物は、まさに頬っぺたが落ちそうなほどだった。どうやら牛乳から作られるらしいのだが、牛乳を飲んだことはあっても、アイスクリームというものを食べたことはなかった。そんな様子を見ていたのか、クーリャに後程作り方をお教えいたします、と言われ、別に門外不出の特殊技術を使っているわけではないと聞き、大層驚いた。
あまりにも驚きが大きすぎて、案内されて戻ってきた後、サラはしばらく放心していた。
「サラ様。この後はダンスの曲が始まりますが、踊りの経験はございますか」
当然、そんな経験などないサラは首を横に振り、いいえ、と答える。
「では、私がお教え致しましょう」
そう言って、クーリャに手を取とられると、とても上手なリードをしてくれた。足元がおぼつかずクーリャの足を何度踏んでしまっても、大丈夫ですよ、と笑顔で言われた。子供たちも、順番に手ほどきを受けて、とても楽しそうに踊っていた。その様子に、ニコルを背負ったフェリスも優し気な視線を送っていた。
「お楽しみいただけましたでしょうか」
曲が終わると、サラや子供たちはは息を切らしていたのだが、まったく息を切らしていないクーリャに尋ねられた。
「あ、ありがとうございました」
「いえ。お客様に満足していただくことが私たちの務めですから。何なりとお申し付けください」
深く頭を下げられた。
「みんなも、お礼を言いましょうね」
サラは子供たちの後ろに回り、皆の背中を押す
「ありがとう、綺麗なお姉さん」
「まあ。お上手ですね」
クーリャは子供たちの頭を順番に撫でていった。
「フェリス様にも感謝でいっぱいです」
「様など不要ですよ、サラ様」
サラとフェリスとクーリャは顔を見合わせると、誰からともなく笑いあった。
それから、パーティーが終わるまで、話を聞いてくれたり、聞かせてくれたりして、サラはとても感謝した。