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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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続・アースヘルムお風呂騒動

 僕の目の前には、夢よりも夢のような光景が広がっていた。この場合の夢というのは、夢にも思っていなかったという場合の夢で、決して、僕が待ち望んでいた光景だという意味ではない、はずだ。

 

 決心はしたものの、いざ目の前にすると躊躇ってしまう。

 心臓は早鐘を打ち、全身から汗が噴き出る。

 何かないか。この状況を打開できる手段は。

 そ、そうだ。うん。たしかそうだったはずだ。


「そう言えば、ルーナ。お風呂では、先に湯船に浸かるものじゃないのかな」


 恐る恐る提案してみる。もちろん、ルーナの方は極力見ないようにだ。失礼極まりないとは思うけれど、見逃して欲しい。


「そうなのですか。あまり気にしたことはありませんでした」


「いや、たしかそうだよ。うん、そうに違いない」


 だから先に湯船に浸かろう、と言って、僕は湯船へと向かった。僕は先ほどまで入っていたので、不思議がられるのではないかとも思ったが、ルーナは特に気にした様子も見せずに、僕の後ろから、僕の横に並ぶと、ゆっくりと湯船に浸かった。


「いいお湯ですね」


「そうだね」


 オウム返しで適当な返事をしてしまう。確かに、何度浸かっても気持ちがいいけれど、今の僕はそれどころではなかった。


 どれほど浸かっていただろうか。ルーナに声をかけられた。


「ルグリオ様。逆上せられてはいませんか」


「僕は大丈夫だよ。ルーナは大丈夫」


「私は少し熱くなってきました」


「湯中りしてもよくないね。そろそろあがろうか」


「はい」


 こうして僕は、自ら進んでしまった。





 ルーナの髪を洗うため、そしてルーナの素肌を隠すために、まとめられた髪を解く。水蒸気を吸ってわずかに湿った髪がしゅるりと垂れる。僕は手櫛でやさしくルーナの髪を梳かした。全く引っかかることなく、綺麗に梳ける。

 次に、ぬるま湯でしっかりと髪を洗い流す。できるだけルーナの顔に湯が掛からないように、細心の注意を払う。備え付けられているシャンプーを手のひらに出すと、しっかりと泡立てる。指で、マッサージをするように、髪を洗う。髪の中に手を入れると、地肌をマッサージするように丁寧にすすぐ。ルーナは時折、気持ちよさそうに息を漏らしていた。

 ここまでは問題ない。いや、あったけれど、そこまで大変でもなかった。

 

 髪の毛を洗い終えたので、次はいよいよ、身体を洗わなくてはならない。冷めるといけないので、素早く取り掛からなくてはならない。

 まずは、髪の毛と同じように、身体をしっかりと濡らす。そして、首周りから順に洗っていく。肩から腕、そして手へ。時折、漏れ聞こえる艶っぽい声は聞こえなかったことにして、ひたすら無心を貫く。胸の引っ掛かりはほとんどなく、とはいっても、全くないわけではなく、腰回りまで一気に洗う。もはや止まることは出来ないため、背中へと手を引き戻し、丁寧に洗う。

 そこまで終わると、もはや残っているのは下半身だけとなった。さすがにデリケートな部分には触ることは出来ないし、タオルがあるため、太ももの付け根から先を一心不乱に、けれど懇切丁寧に洗う。

 何も見てはいないし、何も聞こえはしない。

 そう思いながら、手から伝わる感覚だけを頼りにしようと思ったけれど、余計に気になってしまったので、目は開いたままだった。

 

 自分の身体は洗ったばかりだというのに、ルーナの身体を洗い終えると、全身が汗でびっしょりだった。

 最後に、ルーナの身体をお湯で洗い流す。お、終わった。天国と地獄を同時に味わったような、そんな気持ちだった。


「終わったよ」


 流し終えると、ルーナに声をかけた。




 僕とルーナは顔を洗い終えると、僕にとっては永遠にも感じられたお風呂から出た。

 色々と大変だったにも関わらず、やはり浄化の魔法よりも格段に気持ちが良かった。


「ルーナは気持ち良かったかい」


 僕はルーナの髪を乾かしながら尋ねた。


「はい。気持ち良かったです」


「ルーナが気持ち良かったなら、良かったよ」


「でも、恥ずかしかったです」


 僕もだよ、とは声に出さなかった。どういう空気になるのか、予想がついたからだ。 



 僕があてがわれた部屋に戻ると、こちらも予想通り、アリーシャ様がいらっしゃった。椅子に腰かけられて、優雅に紅茶などを嗜んでおられた。

 ルーナの呪いの件など、聞きたいことは山ほどあったが、とりあえずは先ほどの件だろう。

 しかし、僕が口を開くのを見計らったかのように、先に話を切り出されてしまった。


「ルーナと一緒にお風呂に入ってどうだった」


「どうだった、ではありませんよ。一体、どういうおつもりですか」


「あら。嬉しくなかったかしら」


「いえ、そういう問題ではなくてですね」


「でも、将来は、ルーナが学院を卒業する6年後か、それに近い未来で一緒に入ることになったのでしょうから、早いか遅いかの違いだけよ」


 それはそうかもしれないけれど。アリーシャ様は、それにね、と続けられた。


「私は心配なの。もちろん、先ほどが初対面のあなたが言われても首を傾げるでしょうけれど、あなたはアルメリアと、ヴァスティン殿のご子息ですもの。私は、あなたやあなたのお姉さまのことは信頼しているのよ」


 アリーシャ様は紅茶を一口含まれた。


「でも、これからあの子が通う学院の生徒を全員信用できるかと言えば、失礼だけれど、そうは言いきれないの」


「それと、今回のこととどのような関係がおありなんですか」


 純粋に好奇心から聞いてみた。


「わからないかしら、本当に」


 いや、わかる。僕も男なのだし、アリーシャ様の言わんとしていることは、何となくわかる。それが僕の独占欲だとしても。


「では」


「ええ、そうよ。私が、あの子の反応を見て面白がりたかっただけなの」


「ええっ」


 思わず、声が出てしまう。


「ふふっ。冗談よ」


 そうおっしゃられると、アリーシャ様は椅子から立ち上がられた。


「もうすぐ、夕食の準備ができたと呼びに来る頃でしょう。じゃあ、その時にね」


 そう言い残すと、アリーシャ様は部屋から出ていかれた。僕はそれを見送った。

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