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婚約者は9歳のお姫様!?  作者: 白髪銀髪
アースヘルム王国編
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アースヘルムお風呂騒動

 誰が作り出したのだろうか、カポーンという音はまさに浴場にぴったりだった。

 

 先ほどまでの狂騒、まさに狂騒としか言えないような事態を思い出した僕は、身体を洗い、湯船につかると、腕を浴槽の縁につけ足を伸ばして天井を仰いだ。


 アースヘルムの観光を終え、戻ってきた僕たち、正確には僕、を待っていたのは、お城のメイドさん10人ほどによる、浴場への強制連行だった。質問を挟む間もなく浴場へと連れ込まれた僕は、あっという間に着ていた服を強奪された。


「私たちがお身体を洗わせていただきます」


浴場へと放り込まれるように入れさせられた僕は、浴場に足を踏み入れるなり、メイドさんにシャワーの前へと連れていかれる。

 このままではまずい、と思った僕が、やっとのことで、自分で入ります、と言い出せたのは、まさに洗われる直前であった。

 私たちに仕事をさせてください、とメイドさんたちに懇願されたが、こればかりは譲ることは出来なかった。やっとの思いで断ると、何事かに気付いたような表情をしたメイドさんが、隣のメイドさんに耳打ちし、全員に話が伝わるとメイドさんたちは顔を見合わせて同時に頷き、大変失礼致しましたと頭を下げられ、皆一緒になって出ていかれた。

 最後の様子は気になったが、気にしていてもしょうがないと思い直し、それよりもお風呂を満喫することにした。ここのところ、しばらく、馬車での移動が続いていたこともあり、久しぶりの湯船に身体と心が癒されるようだった。


「あー気持ちいい。やっぱりお風呂は落ち着くなあ」


 さすがに、先ほどのようなメイドさんが浴場に入ってくるという事態はもう起こらないだろうと思い、僕は、お風呂の縁に首を預けると、手足を伸ばして目を瞑った。

 そうして僕がのんびりしていると、ガラガラと扉の開く音が反響し、誰かが浴場に入ってきたことを告げた。

 僕はまあ、子供たちの誰かが案内されて入ってきたのだろうと思っていたのだが、その予想は半分しか当たらなかった。


「し、失礼します」


 聞こえてきた声に驚き、思わず振り返ってしまう。浴場であるために、声はくぐもっていたけれど、僕が聞き違えるはずがなかった。


「ル、ルグリオ様。お、お背中をお流し致します」


 一糸纏わぬ、ではない、タオルを一枚、身体に巻き付けただけのルーナと目が合った。


 お、落ち着け、僕。れ、れ、冷静になるんだ。そうだ、きっと、これは何かの夢に違いない。疲れていた僕の脳が作り出した幻想に過ぎないに違いない。

 まともに働かない頭で、まともじゃない思考に捕らわれる。きっと、頬をつねったら現実へと帰還するに違いない。そう思って頬をつねる。痛い。

 たしかに夢のような美貌を持つ少女ではあったけれど、今、僕の目の前にいる少女は紛れもない現実だった。


「お、お母様が、その、伴侶となる殿方には、こ、このように伴侶となる女性が、そ、その、お身体を洗って差し上げるものだと」


 ルーナはその新雪のような肌を、頭の先から足の先まで、まるで今お風呂から上がったかのように真っ赤にして、湯気が出そうな顔で、消え入りそうな声でそう言った。

 タオルに隠れていない部分からは、ルーナのまとめ上げられた銀髪の下に覗く、ほっそりとしたうなじや、華奢な手足が見えていて、何も身に纏っていないよりもよっぽど色っぽく見えた。それでいて、恥ずかしそうな顔で、上目遣いに僕を見上げてくるものだから、僕は意識を正常に保つために、精神を総動員させなくてはならなかった。そのため、とてもルーナに対応できる状況ではなかった。


「あ、あの、や、やっぱり、ご迷惑ですよね」


 恥ずかしそうにしながらも、胸の上あたりのタオルを両手でぎゅっと握り込んで、俯いてしまう。そんな状態のルーナをここから追い出すわけにはいかなかった。大丈夫。何事も起きない。こんなところで何かあったら、ルディック様にも、アリーシャ様にも、アルヴァン様にも、カレン様にも顔向けできない。そして、そんなことが姉様に知られたら、間違いなく大変なことになる。以前にも釘を刺されたし。


「だ、大丈夫だよ。迷惑なんてことは、全然、これっぽっちもないから」


 やっとのことで、それだけ絞り出す。


「そ、それはよかったです」


 ルーナもどこかほっとした様子だった。よかった。ようやく一息つけそうだ。


「では、お背中をお流し致しますね」


 どうやら、僕の試練はまだまだ終わらないようだった。



 僕が風呂場の椅子に腰かけると、後ろでルーナがタオルを濡らしていた。


「で、では、ゆきますね」


「う、うん」


 ルーナが小さな手でタオルを握って、やさしく背中を流してくれる。少し力強さは足りなかったけれど、気持ちが良かった。


「ルグリオ様。痒い所などありませんか」


「とても気持ちがいいよ。ありがとう、ルーナ」


「それはよかったです」


 見えはしないけれど、ルーナが微笑んでいるような気がした。


「前の方は自分で洗うから、大丈夫だよ」


 ルーナが何か言う前に、先に言っておいた。


「わかりました。では、お流しいたしますね」


 背中にお湯が掛けられる。


「今度は、僕がルーナの背中を流そうか」


 ここまでくれば、もう自棄だった。なるようになれ。


「はい。ではお願いします」


 何だって。自分で言って驚く僕をよそに、ルーナは鏡の前の椅子に座ると、タオルを自分の前に抱えて、その綺麗な背中を露わにした。


 僕の目の前には、ルーナの細い綺麗なうなじが見えている。そこから広くない肩と、すべすべしそうな背中が続いている。

 

「ルグリオ様、どうかなさいましたか」


 僕が思わず見とれていると、ルーナが心配そうに声をかけてくれる。いけない、僕は変態か。


「い、いや、何でもないよ」


 まさか、君の綺麗なうなじと背中に見とれていましたとは、口が裂けても言えない。


「そ、それじゃあ、流すよ」


「はい。お願いします」


 ルーナは恥ずかしいとは思っているだろうが、何も疑問には感じていないらしい。僕は、慎重に、ルーナの背中を傷つけないようにタオルを濡らした。

 そこまでして、重大なことに気がついた。いや、気がついてしまった。

 昔、姉様が言っていた。なぜそんなことを言っていたのかはわからないが、とにかく言われたのだ。


『ルグリオ。女の子の、女性の肌はね、とてもデリケートなのよ』


『ふーん』


『だから、決してタオルなんかで擦ってはいけないわ。将来のために覚えておきなさい』


『わかったよ、姉様』


 あの時は、それとなく同意したのだが、今になってその重要度が跳ね上がった。



 姉様、僕は一体どうしたらいいんですか。






(作者の)予想に反して続きます

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